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秘伝賜ります  作者: 紫南
284/449

284 すごいお嬢さん達

2022. 8. 11

その家に行くと、ソラくんとその祖父が出迎えてくれた。


「タカヤ先生っ」


ソラくんは思わずというように、高耶を先生と呼んだ。これは、今までも口にはしなくてもそう思ってくれていたのだろう。


嬉しそうにするソラくんの後ろには、厳格そうな初老に差し掛かろうとする男性がいる。


最近の祖父母は若いようで、まだ年金生活にもなっていない、まだまだ働ける年齢の祖父母が多い。この男性も、まだ働いていそうだった。それもそれなりの役職を得ているだろう。


高耶は丁寧に挨拶をする。


「こんにちは。校長より依頼されて、学芸会のピアノ伴奏を指導しています秘伝高耶と申します」

「……ん?」


そこで、男性の表情が変わった。険しく眉間に眉を寄せ、目を細めて高耶を見る。


この時、高耶も気付いた。


「あ、フクハラ機器の……」


最近はあまり顔を出さなくなった重役の一人だったのだ。いつもはメガネをかけていたので、すぐには分からなかった。


「っ、やっぱり! 高耶くん!? エルタークの!?」

「はい。お久し振りです」

「おおっ。すまないっ。い、今メガネをっ。そうだっ。上がってくれっ。そっちのお嬢さん達も」

「ありがとうございます。お邪魔します」


優希達だけでなく、ソラくんまでもポカンと口を開けて、それらのやり取りを呆然と見ていた。


「優希。可奈ちゃん、美由ちゃん。上がるよ」

「っ、う、うんっ。お兄ちゃん、しりあいだったの?」

「ああ」


苦笑しながら、家に上がる。


「おじゃまします」

「「おじゃまします」」


優希達は、きちんと靴を揃えて上がり、振り返って膝をつき、靴を端に寄せて立ち上がった。


その流れるような所作に、メガネをして戻って来た男性が目を丸くする。


「これは……礼儀正しいお嬢さん達だ……」

「ありがとうございます。マナーや作法などを教えてくれる方がおりまして。楽しみながら学んでくれています」

「それはそれは。素晴らしいね。ああ、こちらに。今、お茶を淹れるよ。(そら)、座敷の方に」

「うんっ。こっちっ」


案内された座敷には、立派な神棚があった。それを確認しながら待っていれば、お茶の用意の一式を持って男性がやって来た。


「いやあ。すまないね。いつもは家内が用意するもので、不味いお茶を出すことになるかもしれん」

「お構いなく。奥様はお出かけですか?」

「いや、少し寝込んでいてね」

「そうでしたか……」


神棚との繋がりを感じ取ると、男性とはあまり繋がっていない。ということは、彼の妻が巫女なのだろう。


少し考えていると、慣れない様子でお茶を淹れようとする男性が気になったのだろう。優希が申し出た。


「あの……わたしがいれてもいいですか?」

「ん? お茶をかい?」

「はい。ダメですか?」

「いや……それは……」


どうしようかと、高耶へ目を向ける男性。それに頷いて見せる。


「お茶の淹れ方も勉強しているんです。よろしければやらせてもらえませんか?」

「あ、ああ。では、お願いしよう。熱いから気を付けて」

「はいっ」


覚えた成果を見せられると喜ぶ優希。可奈と美由も一緒に動く。


「てつだうね」

「おゆ、ふっとうしたばっかり?」

「うん。おゆがはねるかもそれないからきをつけて」

「「わかった」」


三人は、協力してお茶を淹れだした。


「そろそろカップからうつそうか」

「このちゃば……すこしながめにむらす?」

「そうだね」

「う〜ん。そろそろよくない?」

「いいね。じゃあすこしずつ」


三人で考えながら挿れていく様を、男性は目を丸くしながら、(そら)くんは不思議そうに見つめる。


「はいりました。どうぞ」


一人ずつ配られた緑茶は、とても綺麗な色だった。


思わず男性も一口飲んで感心する。


「これはすごい……美味しいお茶だ」

「「「ありがとうございます」」」


声を抑えてお礼を言うのも慣れたものだ。


「ふふっ。とても上手に淹れられたな。ほら、三人とも一緒に飲もうか」

「「「はいっ」」」


嬉しそうに自分達のお茶を一口飲み、子どもらしく笑った。


「すごい子達だ」

「ありがとうございます。ああ、こちらをよろしければどうぞ。子ども達と作ったマドレーヌです」


一つずつラップで包んであるので食べやすいだろう。


「これは、美味しそうだ。いただくよ。だが……」


男性が気にして見るのは昊くんだ。その理由は優希達が知っていた。


「ソラくんもたべてっ。あのねっ。コレ、『小麦粉』とか『牛乳』つかってないの。カボチャパウダーと『米粉』とか『豆乳』でつくったんだよっ」

「ソラくん、ぎゅうにゅうダメだってきいたから」

「とうにゅうはだいじょうぶだったよね?」

「っ、うんっ」


嬉しそうに昊くんはマドレーヌを一つ手に取った。アレルギー持ちの子はこういったものも、食べたいと思っても食べられない。


それを気にしたのは、優希達だった。学校でクラスが違うとは言っても、こういったことは耳に入るのだろう。


特に子どもならば、悪気なく話してしまう者も多いはずだ。


「っ、おいしい!」

「えへへ。よかった〜」

「やったねっ」

「さくせんせいこう!」


何やら作戦だったようだ。


「本当に美味しい。お茶も上手に淹れられて、お菓子まで作れるとは……」

「なんでも面白がってやってくれるので、頼もしいです」

「本当に大したもんだ」


こうして、和やかに一息ついた。


そろそろ本題に入ろう。



読んでくださりありがとうございます◎

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