271 負けました
2022. 5. 12
屋敷に戻った所で、まず高耶は賑やかだなと思った。
この屋敷がこれほど賑やかになるのは初めてだ。瑶迦も大きな声を上げる人でもないし、ここに来る優希は子どもらしくはしゃぐ時もあるが、瑶迦のようなお姫様を目指しているため、それも控えめだった。
「皆さん、もう集まっているんでしょうか……これは……あちらの世界からですよね?」
「ああ……」
その声は、よくよく聞けば、瑶迦が作り出した世界の入り口の方から聞こえる。それが、屋敷の方まで響いてくるとは、どれほどの騒ぎようなのか。
「なんや? まだ開始の時間ではないやろう?」
「そうですねえ。昼過ぎですし、まだ三時間はあります」
食事会は、夕方の四時から。初めてあちらで食事をしたホテルで行うことになっている。そこの大ホールだ。
《お祭りでもあるのかい?》
将也には、美咲に会えるということが重要で、誰が来るかという詳しい説明を受けていなかった。経緯も知らないから呑気なものだ。
「ホテルでやるのに、ここまで声が聞こえるのはおかしいですよ。兄さん、早く行ってみましょう」
「ああ……」
高耶は嫌な予感がしていた。考え込む高耶に気付き、統二がその顔を覗き込んだ。
「どうしたんです?」
「……寿園のやつが珍しく動いていたのが気になってな……何か、やらかしていそうだなと……」
「どういうことが出来るんです?」
「予知、千里眼、透視……視ることに特化しているんだが……」
「すごいですね……」
視るだけのはずだ。だから、大それたことはできないと油断していると、痛い目に合う。
「この前は、藤さんと組んで……服が、全部偶然出先で会った迅さんと同じデザインの服だったんだ……っ」
その時の絶望感は忘れない。二度目でも泣きそうだった。
「それも五回っ……っ」
三回目で、もうないだろうと思った後に、まだ続いたのだ。さすがに心が折れそうになった。
「……兄さん……」
「……高坊……」
「……高耶くん……」
物凄く不憫な子を見る目で見られた。迅が異常なくらい高耶を好いているのは彼らも知っている。きっとエライことになっただろうと同情的だ。
両手で顔を覆い、高耶は弱々しく呟く。
「寿園のやつ……っ、何が気に入らなかったんだ……っ」
「「「……」」」
どれだけ高耶が強くても、精神力をも鍛えていても、寿園には敵わないことが証明された。
同時に、最古の屋敷精霊は、いじめっ子ではないかという疑惑が出てきた。
「絶対にあいつが何かしてる……っ」
「兄さん……すごく、さっきより気迫が……」
「心を強く持つんだっ。今日こそは鋼のメンタルを証明する!」
初めて見る。高耶が自分に言い聞かせている所。
「……兄さんが壊れた……っ」
「「……っ、これもいい」」
統二は心配になり、蓮次郎と焔泉はときめいた。
《頑張るんだぞ〜、高耶!》
将也は純粋に、息子を応援していた。
「行くぞっ」
決意し、そこを通過すると、目の前では、野外上映会が行われていた。
「っ!!」
高耶は衝撃にふらついた。慌てて統二が支える。
「っ、兄さんっ」
そこに映っていたのは、紛れもない、先程本家で高耶がやってきたことをまとめた映像だった。編集まで完璧だ。
統二は、高耶を支えながらも、それに目を奪われた。因みに、スクリーンの所だけ闇の力で暗くしているため、はっきりと昼の日差しも関係なく見られている。
「えっと……兄さん……その……っ」
「っ、あ、ああ、すまん……」
あまりの衝撃に、支えてくれていた統二にも気付かなかった高耶が、重かったかと謝る。しかし、統二が気にしたのはそこではない。
「っ、いえっ、僕も見てきていいですかっ」
「……へ?」
「僕もっ、近くで見たいです!!」
「っ……」
興奮気味に、目を煌めかせて、統二はスクリーンを指差す。高耶の目から光が消えていっていることには気づかない。
「っ、あっ、ブラックな兄さんっ、正面からっ! ちょっ、ちょっと行ってきます!!」
「……」
既に、蓮次郎と焔泉は居なかった。将也も紛れ込んでいる。そして、高耶本人を他所に、アイドルを応援するファン達のように、大盛り上がりしていたのだ。
そして、ニヤリと笑う寿園と目が合った。
「……っ、逃げよう」
観客達に見つかったらまずいと、高耶はこの場から逃走した。
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