257 誰かを誘うこと
2021. 2. 3
エルラントやイスティア、キルティス、それと悪魔や天使達も交えた、食事会を二日後に控えた金曜日。
どうやら今日までに、食事会の参加者は増えに増えているらしい。その中に、俊哉もしれっと混ざっていたのには呆れた。
高耶が訓練をすべきと言ったことで、それをまた、いつの間にかメル友になっていた蓮次郎に相談したようだ。そこで、食事会のことを聞き、参加となったという。
もう高耶は出席者について、関与していない。任せてくれれば良いと、瑶迦が楽しそうに仕切ってくれているのだ。
その日、高耶は講義が終わってから、大学の図書館で役に立ちそうな資料を読み漁っていた。夕方、優希を迎えに行くことも出来そうだなと時間を確認した時にメールに気付いた。
「ん? 月子さん?」
月子は霧矢賢の妻で、修の母親だ。時折、ご近所や親戚から野菜を貰ったり、旅行へ行ったからそのお土産を取りにおいでとメールをくれるのだ。今回は芋らしい。
修が日本に活動拠点を移したので、今は二人で暮らしているはずだが、今年は豊作だったようだ。
妹の迎えの帰りに寄りますとメールを返すと、しばらくして、妹さんのお友達にも是非分けてくれと、今度は修の方からメールが来た。相当困った量なのかもしれない。
今回は秋だが、去年の夏はスイカが大量にあると言われて、瑶迦や道場で教えている迅達に配ったのを覚えている。運ぶのは、どんな量でもそれほど問題ない。
式神のことも話している月子が相手なので、高耶の部屋に扉を繋いで、珀豪達と運び出したものだ。
思い出し笑いをしていると、そこに、この時間の講義が終わったらしい俊哉がやって来た。
「なんか、高耶機嫌良い?」
「ん? ああ。お前、今日時間あるか?」
「っ、ある!」
「静かにしろ」
図書館であることを忘れて叫ぶ俊哉を注意する。
「っ、だ、だって、高耶が……っ、高耶がそんなこと聞いてくるなんてっ……っ」
「煩い。まったく……時間があるなら、優希を迎えに行った帰りに、知り合いから芋をもらって欲しいって言われてるから付き合え」
「っ、う、うんっ……いぐ……っ」
「なんで泣きそうになってんだよ……」
それから、ずっと嬉しそうにする俊哉を引き連れて、優希を迎えに行った。そこに、今日は珀豪と料理教室をする約束だったという美奈深と由香理が居たため、そのまま誘った。
「私たち、運が良いわ〜」
「本当よね〜。って、俊哉君、今日はいつにも増してニコニコね?」
「っ、聞いてよっ、俺、俺っ、高耶に初めてまともにお出かけに誘われたんだよ! いっつも、俺が勝手に付いていくことはあっても、高耶から誘われたことないのっ。小学校からずっと! 幼馴染なのにっ」
「……」
高耶はもう相手にする気がない。高耶の隣は優希と可奈、美由が埋めているので、必然的に美奈深達が相手をすることになった。
とはいえ、お喋り好きなお姉さん達だ。嫌ではないだろう。
「あははっ。それは嬉しいわねっ」
「ずっと片思いは辛いわ〜。報われたのね」
「「おめでとー」」
「ううっ。ありがとうっ!!」
テンションがすごい。
「お兄ちゃん……シュンヤお兄ちゃんないてる」
「気にするな」
「きょうは、いつもよりおちつきないね」
「いつになったら、おちつくんだろうね」
「大人のはずなのにね〜」
「……」
これがダメな大学生男子を見た小学一年生女子の会話だ。少し怖い。
そうしているうちに、霧矢家に着いた。呼び鈴を鳴らすまでもなく、庭の方から呼ばれる。
「高耶くん。こっちよっ」
月子が手招くそこには、青い収穫用のコンテナ籠が積み上がっていた。中には、さつまいもと里芋が入っている。
「こんにちは、月子さん。お言葉に甘えて、友人達も連れてきました。それにしても、本当にすごい量ですね……」
小柄で、上品な月子には、絶対に持てないだろう。大きな籠にぎっしり詰まっているのが見える。
「そうなのよ。毎回、悪いからいいって言ってるんだけどねえ。今年は本当にどこも豊作で、どうにもならないって。それに、大きくなり過ぎてしまったみたいね」
市場へ持って行くのもあった上での余りだという。形が悪かったり、大きさが不揃いな物が多い。元々、月子の父母の時代から、畑の土地をいくつか貸していたことで、そのお礼として昔から受け取っていたものらしい。
そろそろ、その畑のやめ時を探っているらしく、最後かもしれないからと、頑張ってしまった結果がコレだったということだ。
「お返しにこれを使った料理をいつも持っていくのだけど、絶対に使いきれないわよね」
お返しがお返しになって、段々と膨れ上がった結果とも言えた。
「そうですね……すぐにドアを繋げます。そうだ。よければ珀豪とメニューを考えてはどうです?」
「あら。いいわねっ。珀豪さんなら、色々考えてくれそうだわ。また何か一緒に作りたいわね」
珀豪が料理にはまったのは、月子と料理をしたのがきっかけだ。毎回、こうしたお裾分けの度に、ここのキッチンを借りて月子と料理をしていた。
「あのっ。なら、これから一緒にどうですか?
私たち、時間がある日は、珀豪さんと料理教室をするんです」
「今日もお料理を一緒にする約束をしているんですよ。どうですか?」
美奈深と由香理が月子を誘う。彼女達にとっても、年齢的には月子は祖母の年代だろう。彼女達の祖父母とは疎遠らしいと聞いたことがある。だからか、少し彼女達にしては緊張した面持ちだ。
月子にとっても、この年代との付き合いは新鮮だろう。少し嬉しそうに頬を染めた。
「あら。まあ。いいのかしら? お邪魔じゃない?」
「そんなっ。私達、こんなだから母親ともあまりうまく行ってなくて。高校卒業して少し働いてからすぐに結婚して家を出ちゃったから、お料理とか全然ダメで……今、勉強中なんです」
「色々知らないこと、いっぱいあるんだって、ようやく分かったっていうか……」
彼女達も何を言いたいのか、自分達でも分かっていないのだろう。けれど、月子には通じた。彼女達は、母親や祖母の面影を、月子に見たのだろう。
「ふふふ。そうねえ。私には、娘が出来なかったから、あなた方みたいな可愛らしいお嬢さん達とお料理なんて……とっても楽しそうだわ」
「「っ、是非!」」
女性達がきゃっきゃとしている内に、高耶は庭にあった倉庫と高耶の家にある倉庫のドアを繋げてしまう。
「うわ〜。ユウキちゃんのおうちだ」
「あっ、ハクゴウお兄ちゃんっ」
「ハクちゃんっ。ユウキもおりょうりするっ」
繋がった先から、そこで待機していた珀豪に、優希達が駆け寄っていく。
すると、それに気付いた女性陣が料理教室の話をしに向かった。
「お姉さん達、楽しそうだな〜。よしっ。美奈深ちゃん、俺も交ぜてっ」
俊哉まで向かって行ったのを呆れて見ていると、家の中から修が出てきた。
「賑やかだね。母さんが笑ってる声、久し振りに聞いたよ」
「お邪魔してます。修さん」
「こんにちは、高耶くん。あっ、持って行ってもらうのは、これ全部だよ。家の分は、もう家の中にあるから」
「え、全部……」
「やっぱり多い?」
「あ〜、いえ、予定より大きくなった食事会の予定もあるので、大丈夫だと思います」
例え、大きなコンテナが六つあっても、多分大丈夫だ。そこで、ふと思いついてしまった。
「修さん……今度の日曜日、予定ありますか?」
「ん?」
口からするりと、そんな言葉が出ていたのだ。
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