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秘伝賜ります  作者: 紫南
250/449

250 本当に理解したようです

2021. 12. 9

上位の天使と悪魔の存在を、痛い程感じた若い祓魔師(エクソシスト)達は、クティ達が高耶との再会を約束して帰って行ってから数時間、その場から動けなかった。


あまりにも見苦しい様子に、年長者達はオロオロとしながらも、正気に戻すためか、水をかけたりと、若い者たちはその後も散々な目に合っていた。


日が落ち始めると、その場に留まることの方が怖いと感じ始めたようで、ビクビクしながら何とか立ち上がっていた。


それを確認し、蓮次郎とレスターが挨拶を交わす。


「それじゃあ、明後日の昼11時の懇親会でね」

「はい……今回は、本当に、ご迷惑をおかけ致しました……」

「いいよいいよ。若者を正しく導くのも、年長の役目だしね〜。後進の教育についても話そう」

「ええ。よろしくお願いします。鎧については、こちらで買い取りの処理をいたします」

「そっちはよろしく」


そうして、レスターは祓魔師《エクソシスト》達と去って行った。神聖な遺物となってしまった鎧は、一度全てイスティアが回収し、持ち帰ることになったのだ。魔術師の最高峰は、ゲームのような亜空間収納を実現していた。


それもこれも、子どもの頃の高耶の何気ない、『出来たらいいのに』の言葉が影響している。ある意味、勤勉すぎる。


「それ便利よね〜。私にも教えて♪」

「私もやってみたいねえ」

「お、いいぞ。結構ムズイけどな」

「え〜、ティアがムズイって、どんだけ?」

「それは、やりがいがありそうだね」


難しいと聞いて、キルティスとエルラントは密かに燃えていた。難問への挑戦は、長く生きる者ほどワクワクするようだ。


一方、見守ることしか出来なかったら勇一は、一人落ち込んでいた。


「……役に立てなかった……」

「当たり前じゃん。ほんと、あんな存在とも渡り合える高耶兄さんと張り合おうなんて、よく考えられたよね」

「っ……」


統二は、ここぞとばかりに責める。まだ高耶を蔑ろにしていた過去を許してはいないのだ。


「父さんも……ほんとバカ。あの若い人たちと一緒だよ。勝手な思い込みを捨てられず、上書きできないなんて、この世界じゃやっていけないんじゃない? そもそもの資格もないんだよ」

「……お前は……お前にはあると……」

「は?」

「っ……!」


すごくガラの悪い様子で睨みつけられ、勇一は、これは本当にあの後ろに従うしかなかった統二なのかと、不安になる。


「そんなこと気にしてるから、ダメなんだよ」

「っ……」


もう話す気もないと、高耶の方に歩き出した統二。その背中を見て、勇一は衝撃を受けていた。未だに高耶を認められない自分の中に残っていた驕りを、見透かされたように感じたのだ。


だが、今日この場に居てようやく心から理解した。


「……敵わない……」


勇一は、自分でも知らない所で、敗北を認められずにいたのだ。それが、完全に打ち砕かれたことを感じた。


「……俺は……役に立ちたかった……?」


『役に立てなかった』という言葉は、完全な敗北を認めたことと、今度は役に立ちたいという思いから出たものだと気付く。


それは、今までのように自分の力を過信したことで出た思いではないと、ゆっくりと理解していく。


「っ……俺……っ、は……あの人の役に立ちたかったのか……っ」


認めて欲しかったのは、父にではなく、一族にでもなく、ましてや、先祖にでもない。


「……当主の……あの人の役に立ちたいんだ……」


頼られたい。信頼されたい。そう今、心から思うのは、高耶に対してだった。それが唐突に分かった勇一は、顔を赤くしながら涙を流す。


悔しかったのだ。そして、絶望した。負けたからではなく、認めたからではなく、今の自分に、高耶から信頼される部分がないことを知って、ショックを受けた。


それはまるで、子どもが父に認められないことを悔しがって泣くようだった。頑張っても努力しても、認められないことを悔しがるようだった。


腕で止まらない涙を乱暴に拭う。体格もいい二十歳もとうに過ぎた大人が、必死で声を抑えながら泣くのだ。それは少し異様だろう。だが、今の勇一には、恥ずかしいと思う余裕すらなかった。


そこに、いつの間にか高耶が近付いてきていた。


「どうした?」

「っ!」


ここでようやく、恥ずかしさを感じる勇一。とはいえ、この場では少し前に若い祓魔師(エクソシスト)達が醜態を晒したばかりだ。それほど高耶や他の者たちも、勇一の今の状態を気にしてはいなかった。


「怖かったか?」

「っ……い、いいえ……っ、すみま、せん……っ」


腕を顔から外すことが出来ず、勇一は震える喉を何とか宥めながら告げる。


そこに、そっと背中を撫でられる感覚を感じて、びくりと体を震わせた。


「大丈夫か? 今日は色々あったからな。明日もゆっくり休むといい。懇親会は……出ないといけないようだからな……」

「っ……」


酷いことをしたと勇一も今なら心から思う。幼くして一族の陰謀で父親を亡くし、正当な当主であるのに、その権威を正しく振るうことも、一族は許さなかった。けれど、面倒事は押し付けてきたのだ。最低な行為だ。


そんな事に加担してきた勇一を、高耶は慰る。本当は話をするのも、付き添いをするのも嫌なはずだ。そう思えば、更に涙が溢れた。


どうあっても、自分はもう許されないのだと感じたからだ。


「すみません……っ、すみま……っ、せん……っ」


謝罪など、何の意味があるのか。そう思うのに、その言葉しか出てこなかった。


「落ち着け。大丈夫だから」

「っ……」


こんな言葉をもらうと、許されるのだと思ってしまいそうになる。勇一はグッと力を入れて涙を堪えた。コクンと喉を鳴らして息を落ち着け、残っていた涙を腕で強く拭った。


「も、申し訳ありません。もう、大丈夫です。今日は……今日は帰ります。またのご指導、よろしくお願いします!」

「ん? あ、ああ……気を付けて帰れよ」

「はい!」


優しさを鵜呑みにするなと自分を叱咤し、勇一は深く頭を下げると、連盟本部に繋がるドアからこの場を一人後にした。


「……兄さん、優しくしすぎ」

「そうか? でも……なんか、吹っ切れた顔してたな」

「……うん……」


そうして、長い一日がようやく終わったのだ。






読んでくださりありがとうございます◎

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