242 腹黒い大人もカッコいい
2021. 10. 14
三人に、先ずは状況を話す。すると、どうやらキルティスが何か思い出したらしい。
「そっかあ。アレかあ。うんうん。アレは、アレよお。ほら、ティア〜、そっちでアレしたやつ〜」
アレだアレだと、高耶には全く意味がわからない。だが、これにイスティアが手を叩いて理解を示した。
「ああっ、アレかっ。確かに、俺がこっちでアレしたやつだ!」
本気で何が何やらわからない。高耶は、隣に居るエルラントに、こそっと耳打ちする。
「……え、エルラントさん……」
「うん……もうね。二人は熟年夫婦並みの関係だから……なんであれで一緒にならないのか不思議だよ……落ち着くまで待とう」
「はい……」
いつだって会えば楽しそうに自分たちの研究の話で盛り上がり、共通の趣味の本を貸しあう。そんな関係。結婚した事実も話もないけれど、二人を知る者たちは、別居婚夫婦だと思っている。夫婦仲は良好だ。
話が付いたのか、悪魔と天使達が近付いてきた。
《そちらが応援の……おや。エルラント君に、イスティアとキルティスじゃないか》
クティは三人と面識があった。
「やっほー、クティっ。相変わらずのイケオジねえ」
《嬉しいことを言ってくれる。そういう君は、いつ見ても可憐だね》
「うふふっ。嬉しい! クティに言われると、自信が付くわっ」
《それはよかった》
悪魔は基本、嘘をつかない。真実も言わない場合もあるが、駆け引きがあるわけでもないので、これは本心だろう。だから嬉しいのだ。
《イスティアも相変わらず美しい》
「よせやい。俺は昔っからカッコいいを目指してんだぜ?」
《そろそろ諦めては?》
「諦めなさいよ、ティア」
「私もそう思うよ」
「エル、お前まで……」
そこで、イスティアは高耶を見つめた。
「……っ」
少し切なげにも見える様子で、眉を下げるイスティア。その姿は間違いなく、儚げで美しい。
答えを期待する一同。イスティア以外は、間違いなく面白がっている。なのでここは正直に言っておくことにした。
「……っ、俺は、綺麗なおじいちゃんだと、自慢したいですっ」
「っ、そ、そうか……自慢のじいちゃんか?」
ちょっと違うが、まあ『自慢のじいちゃん』でも間違いはない。
「はい……っ」
「おおっ、お前も自慢の孫だぜ!!」
「いっ!?」
ガバっと、イスティアに抱きつかれた。力加減の分からないのか、羽交い締め状態だ。別に高耶には抜け出せないことはないが、周りの天使までもがうんうんと頷き、生温かい目を向けているので、言葉通りお手上げ状態で落ち着くのを待つことにする。
その間に、エルラントさんが話を進めてくれた。
「それで、隔離できてしまえば、あなた方の方でどうにかできるということで良いのかな」
《ああ。なんとかしてみせる》
《こちらの問題でもありますもの。やらせていただきますわ》
「承知した。キルティス。どうするのが、一番効率がいいかな」
本当にエルラントに来てもらえて良かったと、高耶は内心感動していた。そんな視線に気付いたのか、エルラントがウィンクを返す。間違いなく、カッコいい大人だ。
「そうねえ……ここ、土地神はちゃんと居るのよね?」
この確認に、高耶は頷いて答える。
「はい」
「なら、高耶ちゃんには土地の保護の方に回ってもらうわ。土地神に力を貸す感じで干渉して。力加減間違えないでね」
「分かりました」
一人でやることになるはずだった五分の一の役割り。きちんと調整できるだろう。
「一応確認するけど、あの辺の子は使えないかな」
クスクス笑いながら、エルラントが視線で示したのは、結界の中で呆然と立ち尽くすだけの術者達だ。
「あの辺の子って……なに、あの子達」
キルティスに続き、ようやくゆっくり離れたイスティアも彼らに目を向ける。そして告げた。
「なんだあれ……視えるだけの一般人か」
「よね? 使えないなんてものじゃないじゃない?」
これは、きちんとエルラントが結界の中の者たちに伝えた。すると、ゆっくりと彼らは顔を青ざめさせていった。エルラントは狙っていたらしい。
カッコいい大人は、腹黒でもあった。
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