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秘伝賜ります  作者: 紫南
232/449

232 非常事態

2021. 8. 5

常盤は人化し、果泉を抱きかかえた状態で現れた。常盤はあまり普段から表情を変えないが、明らかに少し眉根を寄せていた。果泉の方も、真っ先に大きな声でただいまと言いそうなのに、悲しそうな顔をしていたのだ。


「どうした? 何かあったのか?」


鬼の火によって炭化してしまった山を元通りにするほどのことが出来る果泉が、今回は無理というのはあり得ないだろう。


落ち込む果泉を見てから、常盤に目を向ける。


《それが、木を再生させても、すぐに枯れて朽ちてしまうのです》

「浄化はしてみたか?」

《はい。ですがなぜか、完全に浄化しきれないような、そんな感じがしました》


まるで、抜いた草の根だけ残っているような、そんな感覚だという。


これには、関係ある蓮次郎が考え込みながら口を挟んだ。


「あそこは確か……儀式で使った刀なんかが埋まってたんだよ。怨念がぎっしり詰まってて、呪具化してたって。先代の記録で、きちんと供養もして、浄化したらしいんだけどね」

「埋まってた……」


土地に今でも影響が残っているのなら、まだ残っている可能性はある。だが、土地神がこれに気付かないはずはない。だから、高耶はあらゆる事態を想定する。


「土地自体に影響……いや、常盤の浄化なら届くか……根が残って……どこに……」


丸裸だった滝の周りは、完全には埋まらなかったとはいえ、果泉の力で範囲は縮まっているように見える。ダメだったのは、滝の側の土地。


そこで、ある可能性に高耶は気付いた。


「……蓮次郎さん、その儀式の場所、特定出来てますか?」

「いや。よく気付いたねえ。そう。儀式場が見つからなかったそうだ。他に穢れの気配がなかったらしい。僕も、この記録を見た時に、父に聞いたんだ。けど、分からなかったって言うんだ」

「……」


高耶は、滝を見つめて、その可能性を口にした。


「水神も不快感を感じた場所です。【綺翔】」

《ん》


綺翔は、本来の獅子姿で現れた。果泉が居るならば、乗るかもしれないと思ったのだろう。


「綺翔、あの滝の裏、何かないか?」


地の式神である綺翔ならば、そこも感じられるはずだ。


《……続いてる……地下……広い。祭壇もある……それに……これは霊穴》

「っ、地下に霊穴だって?」


蓮次郎が驚きのあまり立ち上がる。


気付かなかったのは、水神に繋がる滝のせいだろう。


「恐らく、あの滝が、結界の役割をしているのだと思います。儀式場はあの中です」

「っ、すぐに応援を呼んで、調査に出すよ」

「はい。ただ……霊穴があるなら、ここも保留にすべきかもしれません。完全な状態で結界から出せば、霊穴にも影響を与える可能性があります。仮にも天使と悪魔なので」

「そう……そうだね……」


しかしその時、何か不快な感覚を、高耶や蓮次郎、レスターは感じ取った。その直後、地面が大きく揺れた。


「っ、何がっ」


反射的に蓮次郎とレスターを支えながら地面に座り込む高耶は、周りに忙しなく視線を向ける。


変化にいち早く気付いたのは常盤だ。


《霊穴です!》


常盤が指差した場所。そこは、丸裸になって残されていた滝の側の空白地帯。一見すると、突如として地面に大きな穴が空いたようだった。


「あれが……霊穴……? 地面に?」


蓮次郎が呆然と呟くのも無理はない。霊穴は、地面からほんの数センチ上の、空中に空くのが普通だ。地面に空くのを見るのは、初めてだった。その上、かつて見たことのないほどの大きさだった。



読んでくださりありがとうございます◎

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