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秘伝賜ります  作者: 紫南
227/450

227 火に油……ですね

2021. 7. 1

その日、集められた場所は橘家の私有地。


人の住む建物がある訳ではなく、術の訓練のために貸し出される広いグラウンドのような場所だ。更地にはしたが、元々は学校があった場所らしい。


かつては、小さな集落がいくつもあった山奥で、過疎化が進んだりして集落がなくなり、放置されていた土地。中には、妖の影響を受けて人が一時的に住めなくなったようなそんな土地を、連盟は買い上げることにしている。


こうした土地には、古くから存在する土地神がいて、集落に住んでいた者たちも、礼を尽くしていた。しかし、時代と共にそんなことも忘れていく。


人との関係を一度でも築いたことのある土地神は、それらがなくなったことに傷付いたり、怒ったりする。だから、きちんと礼を尽くすためにも、連盟で管理する必要があるのだ。


ここまでの移動は、専用の扉を使ってやって来た。


案内された場所には、百人近い人が集まっていたのだ。


「なんだか、すごい人数ですね」

「半分以上あちらの……」


今回、高耶と共に来たのは、統二と勇一だった。今日は土曜日。統二は試験期間も終わったということで、絶対について行くと言って、朝から張り付いていた。勇一が行くと聞いていたのも意固地になる理由の一つだろう。


「こんなに必要なんですか? まさか、兄さん(・・・)の顔を見に来ただけなんてことないですよね?」


統二の言う『兄さん』は、どうやら高耶だけらしい。勇一と合流してから、それをはっきりさせようと、何度も高耶を呼んでいる。


その度に勇一が気まずげに目を泳がせるのだが、こればかりは、高耶が何か言うものではないかと諦めた。


「いや、単純に対象の数が多かったからだろう」


あちらにある方が遥かに多い。それも、広い地域にバラバラと点在していたのだ。担当地域も決まっているはずなので、関わる人数は必然的に多くなる。


「こっちとは、やっぱり違うんですか? なんか……親子って感じでもなさそうですよね?」


そうそうあちらとの交流などないので、知らない者は多い。


「あちらは師弟制だ。こっちが完全家族経営型だとすると、あちらは社員を雇う一般的な会社、企業型だ。血縁関係の方が珍しいな」

「そうなんですか……でも、それにしても……」


気になっていることは分かる。これは、勇一も気になっていたらしい。


「若い方が多いですね……」

「……」


統二が先に指摘されたことを、不満そうにしているのが確認できた。


苦笑していると、そこに、高耶や統二くらいの年齢の青年や少年達が近付いてきた。


彼ら祓魔師(エクソシスト)は、制服というか、服装がそれなりに統一されているので、分かりやすい。


「『やあ。君たちも術者なのか?』」

「……」


少しバカにしたような表情に見えるのは、気のせいではないかもしれない。


「『ああ、もしかして言葉分からない? こんなちっぽけな島国の言葉なんて覚えてないんだけど、なあ、どうする?』」


仲間内で笑いながらこちらを半ば囲むようにして会話を進める。高耶より背の高い者が多いので、どうしても圧迫感はあった。


「『ってかさあ、こんなガキでも出てくんの? 見学組? こっちは、邪魔になるからって人数絞られてんのに』」

「『いいとこのボンなんだろ? こっちは、家で決まるらしいし』」

「『え、そうなの? なら、親におんぶに抱っこってやつ?』」

「『あ、その言い方良いねっ。こっちの言い回しだろ? あとはほら、七光り』」

「『それそれっ。聞いたことある〜』」


勇一は本気で言葉が分からない様子だったが、進学校に通う統二には、ほぼ筒抜けだった。


「『これが、そちらの作法……やり方なんですか? あなた方は随分とぬるいお勉強をしているようですね。あなた方こそ、ただの見学組なんじゃないですか?』」

「『……』」

「『っ、お前……』」


今日の統二は、勇一がそばに居るからか、好戦的だ。


相手も、言葉が通じていたのだという驚きで、統二の言葉を理解するのに時間がかかったようだが、次第に顔を赤めて怒りだすのがわかった。


「『っ、ふざけんな! 俺らの実力も感じられねえ雑魚が!』」

「『それはこっちのセリフです。誰を前にして暴言を吐いているのか、あなた方はまったく分かっていない。お陰で、そちらの程度が分かりましたよ』兄さん、行きましょう。相手をするだけ時間の無駄です」

「統二、お前なあ……」


イラつくのは分かる。見た目で下に見て来たのはあちらだ。だが、ここで揉めるのは良くない。


高耶は苦笑しながら彼らに目を向けた。


「『申し訳ない。その……弟は少し気が立っているようだ』」


弟と言ったことで、統二が少し怒りを鎮めた。


「『あ……お前も、言葉分かるのかよ』」

「『ええ。そちらで仕事をすることもありますので、一応』」

「『言えよな!』」

「『分からない振りとか、失礼だろ!』」

「はあ……」


勝手に喋って、盛り上がって、目の前で声も潜めず喋り続けたのはそっちだろうと言いたい。そこをぐっと我慢するのが、鎮火するための一歩だ。


しかし、忘れていた。


いつもは高耶一人だ。だからこんな時は一歩引いて、我慢するだけで良い。だが、今回は噴火寸前の統二がいた。せっかく落ち着くかと思った所で再び着火されたのだ。


それも、最近は学校で友人としての付き合いもある二葉少年達の影響で、悪い言葉も覚えてきているらしい。


「『どっちが失礼だ!! 目の前で大きな声で貶しやがって! 言葉が通じんだろうと勝手に判断して喋り続けたのはそっちだろうが!! ざけんじゃねえぞ!!』」


堪能なのは良いことだ。だが、大人しげに見える統二が、指まで立ててこんな言葉遣いをするのを聞いて、高耶は思わず頭を抱えた。




読んでくださりありがとうございます◎

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