表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
秘伝賜ります  作者: 紫南
222/449

222 あちらの失態

2021. 5. 27

エルラントは手紙やメールはあっても、電話を使うことはまずない。だから、あまり良いことではないだろうと覚悟して電話に出た。


「はい……」

『あ、高耶君。その……急ぎ知らせておこうと思ってね』


珍しく言い辛そうな声音。それが、更に不安を(あお)る。


「……なにかありましたか……」

『うん……以前話していた鎧ね……どうやら、日本に行くらしい』

「……どうやって……」


どう見ても大陸の方の鎧だった。あちらの好事家たちが手に入れようと動いていたはずだ。その上、発見されてそれほど経っていないものを、わざわざ日本に持ち込むなど、普通に考えたらありえないだろう。


普通ならば。だから、嫌な予感がする。


『危険なものとして、一時的に組織の方で引き取ることになっていたらしいんだが……その輸送途中で、忽然と消えた』

「消えた……ですが、日本にというのがわかったのなら、今どこにあるかは掴んでいるんですよね?」


日本に来るとわかったのだから、場所の特定が出来ているのではないかと確認する。しかし、確実ではないようだ。


『いいや……日本にということしか分からなかったらしい。経路も不明だ』

「……なら、日本のどこにというのも……」

『わからない。確実に【悪魔付き】と判定されたものを見失ったんだ。こちらは大慌てでねえ。そちらに連絡が遅れそうだったから、知らせておこうと思ってね』

「ありがとうございます……すぐに対策を考えます」


あちらの完全な失態。それも【悪魔付き】と気付いたのも遅かったのだろう。エルラントや高耶、蓮次郎のように確実なものが視えていなかったのかもしれない。


あれほど怪しい物だったのだ。視えていたら、輸送にも手を抜かなかったはず。きちんと警告しなかった高耶達にも責任はあるかもしれない。


そんな思いを、エルラントは声から敏感に読み取ったようだ。


『君のせいではないからね? 警告はきちんと届いていた。最近はねえ、若い子達の教育が行き届かなくてね。夢見がちな子が多いらしいんだ』


異能者ということで、優越感を持ち、勝手をする者が多いという。


『高耶君と同じか、それより下の子達は、君のことを軽んじているしね……』

「それは……仕方ないのでは?」

『いやいや。君の噂を聞いて格の違いが分からないなんて、この世界の者なら致命的だよ』

「……どれだけ噂が……」


どんな噂か気になる。格が分かるほどというのは何なのだろうか。


『だいたい、上の者達が高耶君に敬意を示しているのに、それを貶すとかないよね。今回も、日本に向かったって聞いた若いのが『高耶様ってのが日本には居るんだろ? なら問題ねえじゃん』とね……』

「……はあ……」


高耶にすれば、頼りにされたと思えば済む話だが、それでは済まされないらしい。


『上がカンカンだよ。組織が混乱しているのは、半分は上と下の喧嘩のせいなんだよね〜』

「……」


それは職務放棄ではないかとか、どうでもいいなとか、後にしろよとか思って迷惑している人も居るだろうなとか思うが、言葉にはしない。


『あ、でも、娘達が出て行ったからね。今日中にきっちり下は躾けてくるよ』

「……大丈夫でしょうか……」

『殺しはしないから、大丈夫だよ。それに、今のうちにこちらも思い知らせておかないと、彼らの時代になったら問答無用で討伐対象にされたりとかあり得るからね』

「大事じゃないですか……」


確かに、時代が変われば問題が出て来そうだ。


『まあ、そういうことだから、気を付けて』

「分かりました。ありがとうございます」

『じゃあ、またね』

「はい。失礼します」


ふうと息を吐く。


部屋の隅での電話だったが、終わるのを待っていたのか、一斉に視線が向かって来た。いつの間にか俊哉と勇一も戻ってきていたらしい。


「誰からだったん?」


当然のように尋ねるのは俊哉だ。彼に分かるようにとなると、あれかと口にする。


「お前の所の道場で出たゴスロリの父親だ」

「へえっ。あ、由姫の双子が通ってる学園の頭な」

「そういうことだ」


蓮次郎には、エルラントであることは電話に出る前に知らせているので問題ない。席につくと、蓮次郎が確認してくる。


「それで? 何か問題?」

「はい……あちらから、あの鎧が来るそうです。ただし、おそらく自発的に向かっています」

「自発的……自発的? それは……あっちの子達、何してるの?」

「……現在、内争……いえ、混乱中です」

「何してるって?」

「……私の口からは何とも……」


逃げておくに限る。


「そう……分かった。確認してくるね」


そう言って蓮次郎は、良い笑顔で部屋を出て行った。連盟に報告がてら連絡をするため、恐らく外に控えている秘書を呼びに行ったのだろう。


それから残った一同は、意味不明な言葉があったよなと顔を見合わせた後、また一斉に高耶へと視線を向けたのだ。




読んでくださりありがとうございます◎

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ