219 意外と合う?
2021. 5. 6
予想通り、とっても品の良いレストランで食事を済ませ、俊哉も伴ったまま大和の店へ向かう。その店の手前で、勇一が待っていた。車を降りて歩いて向かうことにする。
「おや。約束の時間より前に来るとは、良い心がけです」
こうして、からかう気満々の蓮次郎も予想通りだ。勇一は緊張気味に頭を下げた。
「は、はい。今日はよろしくお願いします!」
「うんうん。それを高耶君にもできたら、まあ合格だったんだけど。残念〜」
「っ、も、申し訳ありません。おはようございます。よろしくお願いします!」
道場での稽古の時と同じように勇一は高耶に挨拶をする。それで良い。
「ああ……あまり気負い過ぎないように」
「はい!」
「……」
素直な勇一には、未だ慣れない高耶だ。年上の生徒にも慣れているはずなのに、どうしても目を晒そうとしてしまう。そんな気持ちを察したのか、俊哉が余計な一言を付ける。
「素直なの気持ち悪い」
「っ……」
「……俊哉……」
「いや、だって統二や姫様が言ってたし。どんだけ俺様してたん? 逆に気になるわ」
確かに気になるだろう。だが、正直に言い過ぎだ。これに、蓮次郎が爆笑する。
「あははっ。確かに、確かにっ。気になるよねえっ。いやぁ、すごかったんだよ。周りに誰が居てもお構いなし! 自分たちこそ正しい! って態度で、高耶くんに詰め寄ってたからねえ」
「あ〜、居る居る。正しいと思い込んで、他人に同意が得られるのが当然って態度で、わざと人前でやらかす奴〜」
「っ……」
勇一がものすごく居た堪れなさそうに肩を縮める。だが、これだけで蓮次郎が止まるはずもない。一矢どころか、瀕死になるまで笑いながら刺す人だ。
「周りがドン引きしてても、見えてないのっ。上が認めてるのに、違うとか普通言わないしねえ」
「そっか。高耶って、組織の中でも上の方なんだもんなあ。上が何も言ってないのに全否定とか、よくやるわ」
「だよねー」
「……っ」
その立場に見合わないとなれば、上が何か言うだろう。それがなく、幹部として認められているのに否定するということは、上の者全てを敵に回すようなものだ。それが、勇一達はわかっていなかった。自分たちの正当性だけをただ、主張していたのだ。周りが誰も相手をするはずがない。
「特に、僕たちは一族の中の当主っていうのに重きを置いてるからね。昔は一族内で揉める所も多かったけど、最近は面倒がって押し付け合う方が多いんだよ」
「ん? おっさんも押し付けられたん?」
「そう言えなくもないかなあ。まあ、直系の中で一番力があったってだけかな」
「ふ〜ん。けど、当主って威張れんじゃん? なりたい奴はいっぱいいるんじゃねえの?」
俊哉のおっさん呼びに、高耶だけが冷や冷やしていた。だが、構わず二人は続ける。
「能力者に限って言うとね〜。特に、組織としてまとまってからは、他の家と比べられちゃうじゃない? 当主って、家の顔だから」
「うわ〜、一気に面倒くさそうに感じた」
「だよね〜。僕も早く隠居したいよ」
勇一の話から逸れた。助かったと、勇一がようやくここで胸を撫で下ろす。それを見て、高耶はさり気なく気にしなくて良いと肩を叩いた。
蓮次郎と俊哉は二人並んで前を歩いていく。そろそろ約束の時間だ。
「息子いたじゃん。代わらねえの?」
「一応、僕の家にも一族の秘技みたいなのがあるんだよ。跡取りが誰も彼も高耶くんみたいな才能があればいいんだけど、難しいんだよね〜」
その技が継承できないと、跡取りとして認められないため、代替わりがどうしても遅くなるのだ。古い家ほどそうなる。それでもきっちり一族がまとまっているのは、当主を敬い、一族の者として在ろうと一人一人が考えているから。
一族内で揉めていては、あっという間にその一族は力を失い、消えるのがこの業界の怖いところだ。
「普通の名家とも違うんだな。うわ〜、俺、一般人で良かった」
「羨ましいねえ。僕も、高耶くんみたいな友達がいるだけの、一般家庭に生まれたかったよ」
「いやいや、おっさんが普通にサラリーマンとかしてんの想像出来ねえから。一般家庭はないわ」
「そう? あ〜、けど、そうだねえ。上にただ使われるとか、ないわ」
「っスよね〜」
店に着いた。
「失礼するよ」
蓮次郎が中に入っていく。店は雑多に物が溢れているような感じではなく、ガラス張りで店の中も良く見えるし、物も棚や机に綺麗に統一して置かれている。
「いらっしゃいませ。あ、少々お待ちください」
すぐに店番していた青年が奥へ声をかけに行った。あの青年は、瀬良の従兄弟だと言っていた青年だった。
「いかにも、高いものが有ります! って感じだな」
俊哉の言葉に思わず勇一と同時に頷いた。
するとそこで、いづきが奥から出てきた。しかし、その後ろに見知った二人の男性の姿に気付き驚く。こういう時は、俊哉の方が口を開くのが早い。
「あれ? 今日の講習の先生と、教授じゃん」
大学の夏休みも残り二週ほどとなり、今日は夏期の特別講習があった。そこに居たのは、その講習の講師と雛柏教授だったのだ。
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