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秘伝賜ります  作者: 紫南
218/449

218 気に入られてる……?

2021. 4. 29

慰労会が終わり、数日が過ぎた。


蓮次郎に提案されたこともあり、勇一をどうするかは迷った。さすがに一緒に住むというのは統二が全力で嫌がったためだ。


あの後、はっきりと統二は勇一の前で言った。


『この人と一緒に生活するとか、ムリ。絶対に嫌』


統二がこれほど感情を出して言葉を発するというのは、勇一には信じられないものだ。そちらの衝撃と、実の弟に拒否られることにかなりショックを受けていたが、誰もフォローできなかった。


別に蓮次郎は一緒に住めとは言っていない。よって、通いになった。とはいえ、家にではなく、道場の方にだ。そして、源龍のように一緒に仕事についてくることになった。


今日は昼過ぎから、大和の店に行くことになっていた。鎧について新たな情報が手に入ったらしい。ちょうど、昼からの講義が無くなったので、直接聞きたいとお願いしたのだ。


勇一はどうしようかと思ったが、蓮次郎も出向くと言うことで、連れてくるようにと言われてしまったのだ。現地で合流することになる。


この件には源龍が関わって来ない。その代わりだと思えば、単独行動に慣れた高耶の負担も少ないだろうとのことだった。


統二が平日の昼間ということもあり、ものすごく悔しがっていたが、これは当主に逆らった罰でもあるので仕方がない。高耶の方にも良いことがないのでどうかとも思うが、それはそれだ。


ため息を吐きながら、時間的に余裕もあるし、学食で食べて一息ついてから出るかと考えていると、メールが届いた。蓮次郎からだ。


「……」

「お、高耶。帰るんじゃねえの?」


後ろから俊哉が声をかけてきたが、高耶はメールに目を落としたままだ。少し嫌そうというか、どうしようかという感情が、表情に出ていたのだろう。俊哉が近付いてきて確認する。


「どうしたん?」

「……いや、蓮次郎さんから、食事に誘われた……」

「お〜、そんじゃあ、セットし直さんと」

「だよな……」


何が嫌って、食事のために今の軽めのオタクルックを変えないといけないということだ。


「あの若作りのじいさんなら、良いとこだろ。ラーメン屋とかないわ」

「……はあ……」

「どこで待ち合わせ?」

「迎えに来る……」

「それはまた……よし、さっさとセットしてこい」

「……」


仕方なく、高耶は適当な部屋に入って着替えもした。出てくると、俊哉が待っていた。


「おっ、やっぱいつもその方が良くないか?」

「大学はその他大勢に紛れるから良いんだろ……」

「それはあるな。今の高耶は間違いなく目立つ。ほれ」


顎で示された先では、通りがかった女子達が、きゃっきゃと賑やかな声を出して高耶を見ている。


「任せろ。若社長の護衛をしてやる」

「いや、社長じゃないから……」


だが、そう言った俊哉は、素晴らしくさり気なく女子達のバリケードの隙間を通り、高耶を先導した。


「なんか……お前、慣れてないか?」

「ん? ああ、珀の兄貴とか姫様んとこのお姉さん達に教えられた。『アイドルばりの見た目んなった高耶を、女子達から護る方法』な。これ、実際にアイドルのマネージャーに張り付いて会得したやつらしい」

「……」


ホテルや旅館だけでなく、座敷童達は今やどこで何を知ろうとしているのだろうか。何より、なぜそれが真面目に必要となると思ったのか謎だ。しかし、結果的に大正解だった。


門を出ると、黒塗りの高級車がやって来るのが目に入る。目の前に滑るように進んできて、停まった。そして、当たり前のように運転手をしていた蓮次郎の秘書が、回り込んできて後ろのドアを開けた。


中には、蓮次郎がにこやかに手を振っていた。


「お待たせしてすみません」

「タイミング良かったよ。急だったから、どうかなって思ってたしね。お昼食べてないよね?」

「はい」

「良かった。それで、君もご飯はまだかな?」

「まだっス。因みにこの後の予定は皆無」


堂々と宣言する俊哉に、蓮次郎は怒ることもなく告げた。


「なら、どうだい? 食事でも」

「奢りで?」

「ははっ。いいねえ、確認は大事だよ。奢ってあげよう。どうせ貸し切りだし、その格好でも構わないからね」


意外にも、蓮次郎は俊哉を気に入っているようだ。普通、こんな風に了承したりはしない。それに高耶の方が珍しく目を丸くした。


「よっしゃ! そんなら、大学での高耶の護衛は任せてもらっていいっすよ」

「なるほど。見た目に惑わされる、頭の軽い(ハイエナ)どもから護る護衛は必要みたいだねえ」


ジリジリと近付いてくる女子の群れが高耶の背後に見えたらしい。うんうんと蓮次郎は頷いた。


「よろしい。たまには君も食事に誘ってあげよう。護衛代としてね。前に乗りなさい」

「よろしくおなっしゃーっす」

「……失礼します……」

「うん。乗って」


本当に蓮次郎が俊哉を気に入っているのが分かった瞬間だった。




読んでくださりありがとうございます◎

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