205 イベント前?
2021. 1. 28
日曜の朝九時過ぎ。
山の麓には、多くの者が集まっていた。お狐様の話が出てからすぐ、山の所有者とは話を付けており、連盟が買い取っていた。
お狐様の儀式がどう転んでも、一時的には管理しなくてはならない土地となる。連盟の術者が何度も入るのだ。気味悪がられても鬱陶しい。それを見込んで買い取りの希望を出したのだ。これにより、買い手もないからと所有者があっさり手を離したらしい。
遠巻きにこちらを見る人々へ目を向け、由姫津はくるりと自分たちの周りを見回した。
「この団体だけ見たら、なんかのイベント? って思われるわよね〜」
長か伸ばした髪を三つ編みにして、間違いなく女と見間違われていることにクスリと笑う。
「まあ、そうだろうね。けど、津……本当にその格好で登るつもり?」
双子の兄の伶は、大人しそうな美少年。弟に振り回されて、いつも困り顔だ。それがまた良いのだと、特に年上の女性に人気だったりする。
「なによー。ちゃんと靴は考えたわよ? けど、久しぶりに高耶兄さまに会えるんだもの。気合いが入って当然じゃない」
女のような言葉遣い。けれど、まったく違和感はない。学校でも、女だと思っている者が大半だった。
由姫達の通っているエルティア学園は、女性徒の制服が二種類ある。上は男女揃いのジャケットだが、下がスカートと長めで下の方が少し開き気味のスカートパンツだ。
制服の色は濃い臙脂と男女の別はない。よって、津はスカートパンツを愛用していた。お陰で、女子に混ざっていても違和感がない。
密かな人気があるとはいえ、幼い頃から男女と揶揄われた傷は消えてはおらず、自分たちからその輪に入って行くことはなかった。
そんな二人の元へ、統二が駆け寄ってきた。
「伶くん、津くん」
「「統二兄っ」」
瑶迦の所で会って以来、統二は二人と勉強会をする仲だ。
中学をサボりがちな伶と津だが、家への反発心から、そのまま進学ではなく、高校受験をしたいと相談したところ、勉強を見てもらえるようになったのだ。
「二人が参加するなんて珍しいね」
「高耶兄さんに呼ばれたんだ」
「高耶兄さまに呼ばれちゃったから」
この二人。家からの要請では絶対に動かない。どちらかといえば引きこもりたいタイプ。出かけるのは好きだが、山奥や人が居ない場所が良い。そんな彼らを動かせるのは、現状高耶だけだった。
「何したの?」
「「……」」
二人は明後日の方を向いた。
しかし、この答えを知っている者が居た。
「その二人が、珍しくお節介を焼いたみたいだぜ」
「俊哉さん?」
「よっ」
現れたのは俊哉と、それに連れられてきた瀬良姉弟だった。智世も誠も、突然連れてこられて戸惑っているようだ。しかし、俊哉は気にしていない。
「統二も見学か?」
「え、あ、はい。というか、土日は可能な限り、高耶兄さんの仕事について行ってるんです」
「へえ。ってか、人多くね? これ、全員今日の参加者?」
いかにもイベント待ちですという大人数だ。出立ちからは、どんなイベントか想像できない。
「足下はしっかり山登り用だったりするのに、スーツっぽいのとか、着物とか、かと思えば津なんていつもみたくオシャレに決めてるし」
俊哉も伶や津とは何度か顔を合わせている。そのため、当然だが津が男であることも承知していた。
「それ女物じゃんか。やっぱ、胸がねえと、腰んとこで詰めてあってもキュンとこねえなあ」
「俊哉兄のエッチ。そっちの人は彼女じゃないの? 幻滅されるよ」
「ちげえよ。俺には、綺翔さんっていう初恋の人が居るんだからな!」
「綺翔さん……綺翔さんって、高耶兄さんの式じゃない?」
「はあ!? ちょっ、俊哉兄! 高耶兄さまのものに手を出すんじゃないわよ!」
式神に恋をするなんて不毛なことはしない。それが術者だ。好みの容姿でも、そこは割り切っている。だから、二人も少し引き気味だ。
「ものって言うな! 綺翔さんは綺翔さんだ! どんな姿でも愛せる!」
これに統二が補足した。
「……ちなみに俊哉さんは、綺翔さんの本来の姿も、小さくなった姿も、人型も全部好きなの確かだから……」
「不毛……」
「不憫……」
「そんな目で見るな! 応援しろよ!」
「「……ガンバレー……」」
「投げやりっ」
こんなコントを、周りはクスクスと笑いながら受け入れている。目をそらしているのも、肩を揺らしているので、笑っているのは確実だ。
そうしていれば、当然目立つ。お陰で勇一が統二の姿を見てやって来た。
「統二……」
「っ、勇一兄さん……」
声をかけてきたことに困惑する統二。勇一の後ろには、四人の知らない青年達。秘伝の関係者ではないなと、それぞれの服装を見て確認する。
「何しに来たの……」
高耶が呼ぶはずがないと統二は思っている。だから、高耶の邪魔をしに来たのではないかと勘繰ってしまう。
「……統二……」
警戒されたことに、勇一はどう答えるべきか戸惑う。
「なになに? 兄弟喧嘩?」
そこに、高耶の腕を引っ張るようにして、蒼翔がニコニコと割り込んで来たのだ。
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