201 巻き込みます
2020. 12. 31
誠が高耶を不思議そうに見る。最初に見た寝ぼけたままのようなぼんやりした様子は全く見られない。
「何か気になることがありましたか?」
「っ……」
声をかければ、高耶と俊哉の間に目線を彷徨わせる。しかし、意を決したように口を開いた。警戒しているわけではないらしい。
「呼ばれてるって……学園のこととか……由姫先輩のことをなんで知ってるんですか?」
これに、蓮次郎が先に反応した。
「え? ユキって、由姫家の? そういえば、双子がって……あそこの子、あの学園に通ってるの?」
「ええ。伶と津が。力の制御を気にして、あそこに入ったんです。ただ、高校は別の所にと家から言われているようですけど」
「中学受験してまた高校受験とか、大変だねえ」
完全に他人事ではあるが、少しは気の毒そうにしてやってほしい。本人たちが居なくてよかった。
そんな話の最中、俊哉が誠へ説明してくれていた。
「だから、由姫の双子は高耶達側なんだよ。そういう家系の人だ」
「そう、だったんですね……なら、それで知ってコレ……」
「ん? なんだ? もしかしてそのピアス、由姫の双子にもらったん?」
「もらったわけじゃないんですけど……腕輪やお守りじゃなくてピアスにしろって、勧められて……穴を空けてくれたのもお二人に……」
「へえ……だってよ」
「……あいつら……」
恐らく、気付いていてそれを勧めたのだ。高耶はイラッとしながら蓮次郎は目を向ける。こちらも少し引っかかりを覚えたようだ。
「その二人、実戦投入は?」
「昨年から少しずつ始めてましたが、今は受験を控えているので……」
「ふ〜ん」
その場合どうしようかなと蓮次郎は頬杖を突き、もう片方のテーブルに置いた指の爪をカツカツと鳴らす。不満そうなその表情を見て、高耶も決めた。
「ただ、だからと言って、毎日真面目に勉強するような奴らじゃありません。何事も実践は必要かと」
「だよね! よし、やらせよう。今度の土日で構わないし、社会勉強は必要だよね! 由姫家へは高耶くんが……」
「安倍御当主にお願いしておきます」
間髪入れずに答えた高耶に、蓮次郎は目を瞬かせた。そして、納得する。
「高耶くん……由姫家に狙われてる?」
「……」
目をそらした。それでも蓮次郎は真っ直ぐに見つめて問いかけてくる。
「襲われた?」
「……お陰で若干未だに女性恐怖症ですよ……」
正直に答えた高耶に、蓮次郎は爆笑した。
「あははははっ。幾つの時に襲われたのさっ。なにそれっ。もう、うん……絶対にあの家の女は今後一切、高耶くんに近付けないから安心して」
「……お願いします……」
「うんうん。お義父様に任せなさいっ」
「……」
笑いがいつの間にか黒くなったが、どうやら守ってくれるらしい。だが、最後のはどう反応すべきかわからなかった。
「さてと。とりあえず、君たちの家の問題は週末の土日に解決しよう。それで確認だけど、お狐様との契約はどうする?」
「え?」
確認されたいづきと瀬良の両親は困惑する。口を開いたのはいづきだ。
「それは、このまま継続することも可能だということですか?」
「もちろん。リスクを理解した上で契約を続行するということは可能だよ。ただ、何度も我々も手を貸したりしない。お狐様関係は面倒だし、何より、自分達で巻いた種だ。それに最後まで責任を取れないってのはね……我々の世界では許せることじゃない」
何百年と能力を継承し、引き継ぐことを誇りとして生きるのが蓮次郎達だ。
こういったお狐様関係はいわば、危ないよと忠告したにも関わらず、素人がこちら側に片足を突っ込んだようなもの。半端に手を出して、手に負えなくなったから助けてくれと言われて助けてやる義理はない。
「で? どうする?」
改めて問われても、答えなど決まっているだろう。
いづきは瀬良の両親と三人で目を合わせて頷き合う。そうして口を開いた。
「継続はしません。お願いします」
「うん。そっちの子達もそれでいいかな?」
次に問いかけたのは智世と誠へだ。
「え? 私?」
「お願いします!」
誠は立ち上がって頭を下げた。これに智世は目を丸くする。
「マコ?」
「僕は……もう逃げたくないんです。視えることからも……あの狐からもっ」
「マコ……」
「あれは……人がどうにかできるものじゃないです……っ」
誠は震えていた。そんな誠の肩へ高耶が手を置いた。
「落ち着いて。大丈夫だ」
「っ、僕は……っ、す、すみません……っ、すみません……っ」
震えて涙を流す誠に、高耶はしっかりと熱が伝わるように触れる。
「瀬良と、君はしばらくここに滞在してもらうことになる。ここにいれば安全だ」
「っ、ほ、本当に……っ、本当に、あの夢……夢も見ませんかっ?」
「ああ」
「よかっ……よかった……っ、ぅっ……っ」
「マコ……」
「誠……」
ずっと、彼は一人で耐えていたのだと知って、智世や母親だけでなく、父親も気まずげに誠へと歩み寄っていった。
「誠……気付かなくて、すまなかった」
そう口にした父親は、高耶と蓮次郎へ深々と頭を下げた。
「よろしくお願いします」
彼も受け入れたのだ。
「仕方ないね。なんとかするよ」
「なんとかします」
「ありがとうございます……」
高耶も蓮次郎も任せてくれとは言わない。それが気になったのは、首を傾げた俊哉だけだった。
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