184 胡散臭いですよね
2020. 9. 4
ミスりました……
申し訳ありません。
鬼と対峙してから一週間が経った。
あれから土地神も見つけ、力も安定させた。未だ守護範囲の土地全てに加護は届いていないが、順調に力を付けつつある。ようやく霊穴を閉じる目処も立ち、ほっとした所だ。
この間、鬼渡薫も救出された。だが、かなり衰弱しているらしく、目を覚ます兆候が見られないらしい。連盟で厳重に監視され、治療を受けているという。
今日は、別荘で今回の件についての説明をこの家の持ち主である霧矢修にすることになっていた。
別荘の状態も見たいということで、修の付き添いとして稲船陽と野木崎仁もやって来ている。
三人がソファに座ると、向かいに橘蓮次郎と高耶が座った。
「はじめまして。『幻幽会』首領の橘蓮次郎と申します」
『幻幽会』という表向きの名前を使うのは、こういう時くらいだろう。高耶達は昔の名残りから、連盟と口にするが、組織としての正式名称は『幻幽会』となっている。
陰陽師や魔術師達が手を組んだ連盟としての発足で、『幻幽会連盟』とした方が怪しまれずに済むという意見もあったのだが、怪しがられて何が悪いと開き直った結果がこれだった。
「……は、はい……」
修が不安そうに顔をしかめる。これは『幻幽会』と聞いての正しい反応だ。たいてい、怪しい宗教団体だという印象になる。
「ふふ。すみません。怪しいでしょうが、まあ、高耶君の同僚だと思っていただければ結構です」
「あ、はい。なるほど。首領……ですし、上司? の方で……」
首領というのもおかしいだろうが、それも昔からの名残りなので仕方がない。
修の言葉に、蓮次郎はクスクスと笑って否定する。
「いえ、九人の首領によって陰陽師は束ねられています。九人の内の一人が私であり、高耶君なのです」
「……高耶君も……そう……でしたか。お若いのに高耶君はしっかりしていますしね」
「そうなのです。我々大人の出る幕が無くて困っていますよ。中々頼ってもらえなくて」
「なるほど。それほど長い付き合いではありませんが、高耶君らしいと思えてしまいますね」
「そうでしょう?」
なぜか意気投合しだした。高耶は内心首を捻る。だが、距離感は縮まったので良しとしよう。
「では、説明いたします」
そうして、蓮次郎はことの経緯を話し出す。こちらが管理すべきものであったと謝罪し、以後は安全になったと説明した。
「建物に問題はなくなりましたが、解体する場合は、こちらの業界から業者を派遣させていただくことになります。大元の所は排除されていますが、まだ何があるか分かりません。最後まで浄化もした上でお引き渡しさせていただきたい」
このまま壊しても、不吉な事故などが起きるということはないだろう。だが、奥は社があるはず。そして、墓となっていたはずなのだ。
「いくら隠し部屋の下であるとはいえ、家の下に墓があるのは気分の良いものではないでしょう」
「確かにそうですね……あなた方にお任せすれば、後々の心配もなくなると……分かりました。野木崎さん、リフォームがやり辛いと言っていましたよね」
建築家である仁の見立てでは、柱が立つ場所一つ取っても、リフォームするには面倒な状態らしい。
「ああ。意味不明な場所に柱があり過ぎる。リフォームは出来れば遠慮したい」
「野木崎さんは建築家だそうです」
そう高耶が蓮次郎に告げると、蓮次郎は納得した。
「そうでしたか。この家は、奥のものを封じるために我々の業界の建築士が設計したものです。柱や梁一つ一つに意味があるのですよ。ただ、一般的な建築士の方から見ると『なってない家』となるらしいですが」
「わざとなんですね。いやあ、申し訳ない。どこの素人が建てたのかと思ってしまったもので」
「いえいえ。理解されないのが普通ですよ。お気になさらず」
こちらの業界の特別な建築士達は、いちいちそんな言葉に気持ちを左右されるようなまともな人ではない。
『え? なになに? コレの良さが分かんねえの? ぷぷっ。この凄さが分かんねえの? ぷぷっ。これだから芸術的センスもないヤツはダメだよね〜』
これを普通に達喜とかの前で言う。そしてぶっ飛ばされる。そのあと、痛みで『閃いた! オレっち天才!』とか叫んで部屋に引き籠る。
変人さんだ。連盟の中でも癖が強い方なので仕方がない。
「では、こちらで更地にするということでよろしいですか? もちろん、費用はこちらで待ちます」
「え? いえ、そんなっ」
修がそれではいけないと慌てる。仁と陽も目を丸くしていた。
「ご迷惑をおかけしたのです。当然です。なんでしたら、新しい建物の費用も半分まではお出しできますよ?」
「……へ? な、なぜそんなことに?」
不思議に思うのは当然だ。
「ここは、この地の土地神の加護が一番強い土地となりました。我々がここを更地にして清めることで、土地神はまた力を増すでしょう。そうして、この地に建てられた家に住む者にも強い守護がかけられます」
神に恩を売るというのは言い方が悪いが、印象を良くすることは、術者達にとって必要なことなのだ。だからこそ、最大限サポートする。
「恐らく、年老いた者ならば寿命が延びましょう。若い方ならば良縁に恵まれます。ですから、長く保つ良い家が建つのを我々は願います」
「……」
修は興奮していた。もちろん、仁や陽もだ。そんな幸せが約束された家など聞いたことがない。
「本来ならば、こういった場所には、我々の業界の者が住みます。ここにその分家があったのもそれがあったからでしょう。土地神が存在する限り、一族繁栄が約束された地となるのですから」
麻谷家が絶えたのは、土地神が消えたためだ。それだけ加護の強い場所だった。
「そのような土地に……私が住んでもよろしいのでしょうか……」
「我々が選ぶものではありません。これも縁です。ですが、そうですね……一つだけお願いを聞いていただけますか? それで解体費、お祓い代の全額と建築代の半分を全て負担させていただきます」
「……そ、それは……」
下手なセールスのようで、修が気の毒だった。何度か高耶の方に視線が寄こされる。それに、高耶は笑って頷いてみせた。
「……何をすればよろしいですか?」
修は覚悟を決めたらしい。
「ふふ。大丈夫です。あなたの専門分野ですよ。ただ……ピアノを弾いていただければ良いのです」
「え? ピアノ……ですか?」
まったく関係ないような、そんなお願いだったことに修は驚いた。そんな修に嘘くさい笑いを向けて、蓮次郎は告げた。
「ええ。この地に住んでいた『風鳴りの耳』を持った者が作った曲を土地神に奉納するだけです」
「「「えぇ!?」」」
奉納と言われて修が驚きの声を上げるのは、予想していなかった仁や陽と同時だった。
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