181 混じり合ったもの
2020. 8. 13
当然だが、万全の体制で挑むため、作戦は立てた。
高耶も、全ての式を手元に喚び出していた。この間、優希は瑶迦の所に居てくれる。というか、普通に友達とお泊まり会を開催しているらしい。お母さん方も一緒なので大丈夫だろう。
日が高くなる前。それは始まった。
庭に特大の結界を張り、霊穴からの影響を受けないように何重にもした。とはいえ、広さ的には体育館くらいだろうか。高さもそれくらい取っている。
あとは、どうこの場に鬼を連れてくるかだった。それは、高耶がなんとかすると伝えていたのだ。
「高坊、どないするん? 家、壊さんでええように考えるぅゆうたけど」
焔泉も、建物を壊さずにというのは無理だと思っている。普通はそうだろう。鬼の方も、蓋をしている部分を壊して出てくるはずだ。だが、それをやるとエリーゼにもダメージがいってしまう。何より、改装工事をするとはいっても他人の家だ。壊さずに済むならそうしたい。
「これくらいの距離なら……常盤、黒艶頼む」
《お任せを》
《承知した》
常盤と黒艶が姿を消す。その場から光るボールと黒いボールが打ち上がり、家にストンと落ちていく。まるでスーパーボールの様。だが、屋根に跳ね返ることなく、それは消えた。
そして、次に見えたのはそのボールにくるくると周りを回転されながら飛んで来た大きなもの。
それが庭に張られた結界をすり抜けて中に落ちた。
ボールになっていた常盤と黒艶が高耶のまえに戻ってくる。
《完了しました》
《有無を言わさずにな》
「よくやってくれた。常盤はアレが居た場所の浄化を頼む。黒艶は中の調査を」
《すぐに戻ります》
《じっくり確認してくる》
二人は正反対の言葉を返し、再び姿を消した。
「ど、どないしたら、こんなことができるん?」
「裏技です」
「光と闇やろ?」
「時と空間です」
「……分かった。裏技やな」
「そうです」
詳しく聞くのを諦めたらしい。高耶としては、焔泉や達喜達には、話しても問題ないと思っているが、この情報は今要らないようだ。
そんな中でも、高耶は警戒していた。黒い繭のようだったそれが蠢き出す。
「気色悪いですね……それに顔……二つあります……」
いつもは飄々としている蓮次郎も二つの存在が混ざったような、そんな気持ちの悪いものに眉をひそめていた。
「家守りが……あんな姿に……」
源龍が絶句する。女の顔は醜くただれ、体はひしゃげて居いるように見える。そして、存在がとても希薄だ。それでも存在しているのは、取り込もうとするもののお陰だろう。
「あれが……鬼……っ」
まるで、ひしゃげた女の体を毛皮のようにして身に纏わり付かせ、立ち上がったのは可愛らしい小さな子ども。その子どもの額には、小さなツノが見てとれる。
《……おマエら……術者か……聖結界……はっ、俺がこんなものに阻まれると思ぉてか》
次第に言葉も堪能になっていく。鬼の声は、どこから響いているのか全く分からない。式達とも違う声音だ。聞き惚れてしまうような、そんな力があった。
高耶以外、聞いたことのないその不思議な声に、一同が少し惚けていると、鬼は術を使って結界を消し飛ばそうとしていた。
「させるか」
いち早く気付いた高耶が、その術を打ち消す。
《ほぉ……これで合ってはいるようだな》
「ちっ」
舌打ちして、高耶は結界の中に入る。黒い炎を警戒していたのだが、出してきたのは黒い氷だった。ほんの小さな一塊。それが鬼の手の上に現れる。そこから、凄まじい冷気が感じられた。
その間に割り込んだのは、清晶だった。
《主様。アレは、霊界の底にある黒氷石だよ。あまり冷気も吸わないで。肺が凍るよ》
《ならば、私がそばに居ります》
天柳が焔を纏った。
空気が少し柔らかくなる。その間、高耶はじっと鬼を観察しながら考えていた。結界を破ろうとした術。それは高耶達の使う陰陽術だった。
「こいつ……こちらの知識を持っているのか」
「っ、芦屋のか!」
焔泉が驚愕する声が響いた。
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