177 呼んでみました
2020. 7. 16
神楽部隊が揃ったのはそれから四十分後。かなり急いで来てくれたらしい。気付いた高耶が出迎えた。
「すみません。お呼び立てして」
「いえいえ。御当主に呼ばれてましたらいつでもどこにでも参りますよ」
「ありがとうございます。さっそくなのですが、こちらを見てもらえますか?」
窓は開けていた。そして、楽譜を囲んでもらい、高耶はピアノを弾く。しばらく続けると、神楽部隊の面々は頷き合う。
数名が時折外に出て戻ってきては譜面を確認し、時に起こし、神楽部隊の所有する神楽の資料を広げて確認する。
十五分弱でピアノを止めた。
「どうでしょうか。かなり近いと思うのですが、すみません……私がこの場から外に出られないので正確にとは……」
高耶が申し訳なさそうに告げれば、神楽部隊の代表である伊調が微笑んだ。
「ご安心ください。ここまで揃っているのです。我々の持てる全ての力で、必ずやこの地の調べを取り戻してみせましょう」
「ありがとうございます。私もこの場から動けないだけで、お力にはなれると思います。その時は遠慮なく言っていただければ」
「ええ。それは心強い。その時はどうぞ、お願いいたします」
神楽部隊は土地の声を聴くために外へ向かった。
「は〜あ、あの頑固者の伊調が……別人やったで……?」
「本当ですよ……話なんてほとんどしないような伊調が……おかしなものでも食べましたか」
「俺も……夢かと思った……」
首領の三人が呆然と見送ってからそう呟く。迅がコソコソと源龍に確認していた。
「普段はあんな感じじゃないんですか?」
「……そうですね……笑ったとことか初めて見ました」
「やっぱ、高耶君ってスゴい!」
「うん。凄い……」
なんだか褒められたみたいだ。高耶はそのまま外を見る。怨霊達が集まっているのもあるだろうが、やはり神が長く不在であることで、土地はかなり荒れているように感じる。
このままではきちんとした音を捉えるのは難しいだろう。神楽部隊の力を疑うわけではないが、刻一刻と霊穴の影響も出ているのだ。難しいと思う。
「……相談してみるか……」
高耶は手の空いている人が居ればと思い、あえて召集命令にならないようにと個人的にとある人たちに電話をすることにした。
「……あ、秘伝高耶です。お世話になります……」
焔泉達は大人しく見守ることにしたらしい。もう少ししたらまた霊穴の方の様子を確認しに行くことになる。休息も必要だった。
「では、お願いします。はい。失礼します」
電話を切ると、ふうと息をついてピアノの前の椅子に腰掛ける。視線が集まっていることに気付いた。
「ん?」
「高坊。誰に電話しとったん?」
「ああ……すぐに来ますよ」
そうして、連盟に繋がる扉に目を向けると、そこから体格の良い男たちが飛び出して来た。文字通り、走ってきたらしい。
「ご当主! お待たせしました!」
「すみません。お休み中に」
「いいえ! ご当主のお呼びとあれば、他の依頼を投げてでも参りますぞ!」
「普通にダメですからね? でも……今回は助かります」
続々と出てきた清掃部隊の面々。狭いからと、家から出て庭に回ってくれた。確かに、筋肉で幅を取る縦にも横にも大きな男たちが十人も居れば部屋は狭く感じる。彼らはしっかりと気遣いのできる人たちだ。ただし、こういった気遣いは高耶にしか発揮されない。
「せ、清掃部隊が速攻で動くやと?」
「あの暑苦しいのが気を遣ったのですか……?」
「……電話一本ですぐとか……マジないから……」
「これもっすか?」
「……うん……高耶君だけだね」
そんな会話をなんとなく耳にしながら、高耶は大きく開いたサッシの所から声をかけた。清掃部隊の面々は、軍隊か何かのようにきれいに整列している。
「近くに霊穴が開いたことと、神が長く不在であることで、この地はかなり荒れています。ですが、神の力は完全に消えていません。神の社のあった場所を見つけ、その場所を清浄化してください。神楽部隊が散っています。そのサポートもお願いしたい」
「お任せくだせえ! そもそも、神楽部隊のサポートが俺らの本懐。やらせてもらいやす! お前らぁぁぁっ、気合い入れて行くぞぉぉぉ!」
「「「「「おぉぉぉぉっ!!」」」」」
物凄い勢いで駆け出して行った。ほかの陰陽師達が目を丸くしていた。
高耶は新たに式を喚ぶ。なんだかとても嫌な予感がしているのだ。
「【常盤】、【果泉】」
《ここに》
《は〜い。主さまぁ》
人化した常盤は膝をつき、果泉は抱きついてきた。果泉の頭を撫でてから二人に告げた。
「お前たちには、浄化しながら神を探して欲しい。先ほどから力は感じるんだ。霊穴の影響を受けないよう、早く見つけてくれ」
《承知しました》
《分かったの〜》
綺翔がのそりと外に出る。それを確認して、常盤は姿を変えて飛び立った。高耶も綺翔が動いた意図を察っする。
《果泉と行く》
「頼む」
《わあいっ。綺翔お姉ちゃんといっしょー♪》
《乗る》
《は〜い。主さま、いってきま〜す》
《行く》
「気を付けてな」
見送った高耶は、エリーゼに声をかけた。
「エリーゼ。一緒に差し入れでも作るか」
《っ、はい!》
かなりの人数が動いているのだ。エリーゼだけでは手が足りないだろう。珀豪まで呼んでいいか迷い、ここまで来たらと諦めた。
優希の方には、守りも用意したのだ。問題はないだろう。
「エリーゼ、一人助っ人を喚ぶから。【珀豪】」
《む? メイド……主よ。我に不満があるのか?》
「なんでそうなる……ないから大丈夫だ。差し入れ作るの手伝ってくれ」
《うむ。了解した》
珀豪は愛用のフリフリエプロンを着けて、手際よく料理を始めた。
台所に消えた高耶を見送り、焔泉達は肩を落とす。
「もう、高坊に代表任せるか?」
「あの子にこれ以上苦労させてどうするんですか。まったく……優秀過ぎるのも困りますね……」
「高耶のやつ、言ってねえこと多すぎ。おい、榊。これからは周りの奴の報告もしてくれ。清掃部隊があんな軍隊仕様で他人の話聞くなんて初めて見たぞ」
「……はい……」
ここに来て、高耶の優秀さを否が応でも知ることになり、そろそろ疲れてきた大人たちだった。
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