171 可愛い護衛
2020. 6. 4
珍しく珀豪が、朝方に弱った様子で念話を送ってきたのには驚いた。
《……主……忙しいのも分かっているのだが……少し話がしたい……》
そう言われたので召喚した。
「どうしたんだ?」
《うむ……昨日からなのだが……》
そうして、優希のことを聞いたのだ。
「……寿園の言葉なら本当なんだろうな……あいつらが優希に姿を見せるのはそのせいでもあったか……」
高耶は頭を抱えた。
座敷童達が優希にちょっかいをかける理由。それは優希に感じた神子の素質によるものだったようだ。
巫女ではなく神子なのだろう。
神に仕える巫女ではなく、神が認め、愛する存在である神子だ。
「はあ……少し待っていてくれ」
《うむ……》
高耶は護符を作り上げる。戸棚を自宅の部屋ではなく、連盟で借りている部屋の戸棚へ繋げる。色々と外に出すとヤバい物というのはあり、それを保管するためにも必要な部屋だ。
特に高耶は神や精霊達から貰い物をしたりする。保管に気を使うものというのがあるのだ。
今回繋げたのはそういったものの保管された棚ではない。特別な道具や、護符を作るための物がある棚だ。
「これなら良いか……」
取り出したのは、ロシアンブルーのテディベア。大きさは三十センチくらい。小さな女の子が抱えるには良いサイズだろう。
《……手作り……》
珀豪が目を丸くした。
「ん? ああ……こういうのは、手作りじゃないと意味ないからな……というのを、瑶迦さんに昔言われて……頑張ったんだ……」
《そうか……いや、かなり上手いのだな。驚いた》
「そうか? まあ……ありがとな」
こういった物を作るのが得意な珀豪に褒められるのは嬉しい。そうして、作った護符をそのテディベアに押し当てる。
護符に込められた力がじわりとテディベアの方に染み込むように移っていく。
そうして、どれだけの時間が経っただろうか。高耶はじわりと汗をかいていた。ふうと息を吐いて手を離す。
そこに、ソファで眠っていた源龍がいつの間にか傍まで来ていたことに気付いた。
「何か……凄いことしてたね……」
源龍も知らない術だったのだ。
「これは、瑶迦さんから教えられたんです。神子専用の護衛を作るんですよ」
「……ん?」
《主? 護衛とは?》
源龍も珀豪も意味が理解できなかったらしい。
こそで、高耶は一息つきながら、ぐったりと椅子に座り込んだ。それから、テディベアに声をかけた。
「どうだ? もう動けるだろう?」
「は?」
《何!?》
目の前で、テディベアがむくりと起き上がったのだ。
《むきゅ!》
「おう。おはよう」
《むむ〜♪》
立ち上がって片手を上げてお返事だ。
「何それ!」
《どうなっておる!?》
《むきゅ?》
可愛らしく首を傾げるテディベア。人(?)選は間違っていなかったと満足げに高耶は頷いた。
「よし。お前の役目は分かっているな?」
《むっきゅ〜!》
「言葉もその内覚えろよ? お前の主人は小さな女の子だ。たくさん喋りかけてもらって、早く話せるようになれ」
《むむ!》
敬礼した。大変可愛くて結構だ。
「珀豪、名前は優希に付けてもらってくれ。それで繋がりが強くなる。俺の力も入っているし、神力で満たされた器になっていたから、傍に居れば優希も落ち着くはずだ」
《……分かった……》
「可愛がってもらえ。外に行く時は小さくなれるだろう?」
《む〜☆》
変身っというように、手を上げるとポンっと五センチくらいになった。
《みゅ〜》
声も可愛らしい。
「よさそうだな。普段はさっきのサイズでいいからな。まあ、そこは優希と話し合ってくれ。もちろん、外ではぬいぐるみの振りしろよ」
《むっきゅ〜》
すぐに元の大きさに戻った。そして、早く連れていけというように、珀豪に飛びつく。
《おおっ》
「じゃあ、珀豪。連れて行ってくれ」
《……うむ……本当に主は規格外だ……》
そうして、珀豪はテディベアと消えた。
「……高耶くん……家の関係者に神子がいるんだ……今度会ってもらってもいい?」
「え? 構いませんよ?」
「そっか……ありがとう。そういえば、護衛って言ってたけど、アレは戦えるの?」
「はい。俺が作りましたし、その辺のチンピラも瞬殺です。能力も付いているはずなので、怨霊も弾き飛ばせますよ」
「……そう……色々と落ち着いたら聞かせて欲しいな……」
「はい」
そうして、ゆっくりと白んでいく外の景色に目を向けた。さすがに疲れたのだ。それが源龍にもわかったらしい。
「二度寝するかい?」
「……そうします」
もう一眠りすることになった。
その頃、優希は不安感のせいで既に起きていた。そして、向かったのは高耶の部屋。そっとドアを開けて入り込む。
クスンと鼻を鳴らす頃。突然テディベアが飛び付いてきたのだ。
「ふえ!?」
《むっむ〜♪》
ポカンと口を開ける。だが、手はしっかりとその動くテディベアを抱いていた。
《ユウキっ、ここに居たのか……はあ……それは、主から預かってきた。先ずは名前を付けてやってくれ》
「お兄ちゃんから……ムク……ムクちゃんでいい?」
《ムク〜》
「わぁ〜」
キラキラとした瞳でムクを抱きしめた。
「あったか〜い。かわいい!」
優希の笑顔が戻ったと分かって、珀豪もほっとした。
《ムクは護衛だ。いつも傍に連れて行くようにな。今度、お出かけ用のムクが入れるポケットを付けたバックを作ってやろう》
「うん!」
《むきゅ〜♪》
こうして、優希は護衛を手に入れた。
もちろん、朝それを見た両親や天柳達が仰天することになるのだが、それはそれである。
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