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秘伝賜ります  作者: 紫南
162/455

162 相談は後ほどお願いします

2020. 4. 2

山の天辺にその別荘はあった。


山向こうは海があるので、きっと別荘の裏の方はその海が見えることだろう。


「良いところだね。残念、晴れていたらとても気持ちがいいだろうに」

「本当ですね」


曇天とまではいかないが、灰色の雲が多い今日。晴れていれば、白い外壁が輝いていたことだろう。これも霊穴の影響だ。仮に晴れていたとしてもどこか暗く感じるのだ。


「私ももったいないと思っていた所だよ。もし、この物件を売るなら、天気は重要だね。反対側から見える海の景色も晴れているかどうかで見え方が格段に変わるから」


陽は不動産屋らしく、そんな考察を口にしていた。


「確かに、晴れいたら私も思わず買いそうです。どうだい? 高耶君、一緒に」

「ここを買ったら珀豪達がきっと怒りますよ。まだ全部泊まってませんし、現在進行形でまた新しいのが建ってますから」

「高耶君って、ものすごく贅沢してるよね」


瑶迦の作った世界にある、式神達監修の別荘の数々。それをまだ全部回れていない。その上、エルラントから設計図が週一で届くらしく、また新しい別荘やホテルが建設中だ。これで外に用意したら怒るだろう。


ひとしきり建物と風景を眺めて、高耶は左手にそびえる山を見上げる。そこに霊穴が開いているようだ。


「【綺翔】」

《ん……》


人化した姿で現れた綺翔は、他に自分以外が召喚されてないと確認して、どこか満足気に高耶へ視線を向けた。


「悪い。霊穴の関係で、この山も影響を受けているらしい。少し掃除して来てくれ」

《諾……調査も》

「ああ。無理しない程度にな」

《是》


知らない人が居るからか、以前のように口数が少なくなっている。綺翔はちらりと驚いているらしい陽に視線やると、本来の獅子の姿に転変し、下へ飛ぶ様に駆けて行った。


「……た、高耶くん……アレは……」

「式神です。少し妖が出て来ていたので、その掃除を頼みました。帰りは崖崩れのあった場所も直っていると思います。そういうの、気にするんで」

「はあ……すごいんだね……」

「頼りになります」


高耶の態度から、これが常だと理解したらしい陽は、これ以上の説明は求められないと察していた。


「そ、そう……じゃあ、ここでは話も進まないからね。依頼人も待っている。中へ」

「はい」

「お邪魔します」


陽に続き、高耶と源龍は別荘の中へと入ったのだが、玄関をくぐったその時、ふと高耶は違和感を感じた。


「ん?」

「……高耶君も感じた?」

「ええ……」


源龍も感じたらしく、屋敷内に素早く視線を巡らせていた。小声での会話のため、陽は気付いていない。奥へと進んで行くのを、一歩遅れながら高耶と源龍はついて行った。


「悪いのではないですね」

「そう。私ではそこまで確定できないけど」

「座敷わらしみたいな感じです。屋敷を守っているんでしょう。部外者を入れる時の抵抗感のような手応えでしたから」

「へえ。高耶君って、そういうのも敏感なんだねえ」


心底感心したように源龍がこちらを向く。普通は感じた違和感でそこまで予想できない。しかし、高耶が分かる理由は単純だった。


「いえ……昔、瑶迦さんに座敷わらし化した精霊の回収をよく頼まれたんです……」

「瑶姫に?」

「瑶迦さんの所の式、半分くらいそれです。ほとんど姿見せないですけど」

「それは……知らなかったな」


瑶迦の屋敷は、座敷わらし達の終の住処となっている。現代では生まれても永らえられない座敷わらし達。あそこは、最後の砦だった。


表で動く藤達の裏で、忙しく働いてくれているのだ。


「俺には、存在を忘れた頃に姿を見せるんですけど、最近どうも、優希には姿を見せるようになったらしくて困ってるんです」

「良く……ないね。アレって、影響力あるから外でも普通に視えるようになるよね」

「そうなんですよね……霊感が上がるアレだけはどうにもできなくて……」


彼らが視えるということは、他も視えるということ。優希の霊感は日に日に強くなっている。


「護符で誤魔化していますけど、元々の素質が高いみたいで……」

「それは羨ましい。あ、でもそうか。秘伝家の血ではないんだよね?」

「ええ。これも最近気付いたんですけど、優希に憑いている守護霊が強いんです……珀豪達に言わせれば、同等みたいですけど……」

「……それ、相当だよ?」

「だから困ってます」

「……今聞きたくなかったよ。うん。この辺の全部終わったら安倍の当主に相談に行こうね」

「はい……」


焔泉に相談する程かと再認識した所で、広いリビングに着いた。


そこでは霧矢(きりや)(しゅう)野木崎(のぎさき)(ひとし)が立ち上がって出迎えてくれた。


その時、視線を感じたのだが、そこにはあえて高耶も源龍も顔を向けないように気を付けるのだった。



読んでくださりありがとうございます◎

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