159 子どもは褒めて伸ばす!
2020. 3. 12
夏とはいえ、咲くべき花は暑さで萎れてしまっていたり、枯れているものも多かった庭の花。木も老木が多いのか、元気がなかったのだが、今は全てが若木のように生き生きと葉を風に揺らしていた。
「……」
犯人を呼び出したは良いものの、全く悪気がないのはわかっている。高耶の前に立つ果泉も笑顔だ。
普通に可愛らしい。
高耶は縁側に出て膝をついた。すると、果泉は無邪気にその膝に手をついて見上げてくる。
「果泉……何したんだ?」
分かっている。分かってはいるが、確認だ。思わぬ何かがあるといけない。
《ん? あ、あのね〜。おじいちゃんたちを元気にしたの〜♪》
「みたいだな……」
これは予想通りだと胸を撫で下ろしたのだが、それだけではなかった。
《うん。セイ兄にも手伝ってもらったらねぇ。おじいちゃんたちが、お兄ちゃんになったの♪》
「ん?」
理解できなかった。それを受けて木を確認し、そして、目に入った清晶を呼んだ。
「清晶……どうなったんだ?」
《あ〜、僕も予想外なんだけど。果泉が水が欲しいって言うから、言われたようにやったんだ。そうしたら……多分、木は全部若返ったよ。花も……ちょっと長い間咲くんじゃないかな……》
「……果泉……」
これは清晶に止めろというのは無理だっただろうと納得する。これは叱ればいいのか。褒めればいいのかとても迷う。
《んー?》
コテンと首を傾げた果泉を見て決まった。
「すごいな」
《ん! えへへ》
「……」
後ろからの視線と清晶からの視線の意味はわかっている。呆れられているようだ。
《あっ。あのねっ。あっちのお山の木がケガしてるの! たからねっ。果泉……行ってもいい?》
「後で行こうな」
「「「……」」」
これは仕方ないだろう。可愛いんだから。
《主……ユウキに甘いから分かってたけど、チョロ過ぎだよ。主は絶対、子どもを甘やかすタイプだ。ぼ……僕だって……》
横を向いて不貞腐れたようにブツブツ言う清晶。分かっている。あの顔は甘やかして欲しい時の顔だ。
「清晶」
《……》
手招けば、難しい表情で近付いてくる。そんな清晶の頭を高耶が撫でれば、下を向いたまま頬を赤らめていた。
《セイ兄、まっか!》
《い、いいんだよ。ほら、まだ遊ぶんだろ?》
《うん!》
《キャンキャンっ》
《クゥン》
また元気に庭の中程まで駆け出して行った。見送ってから高耶が部屋を振り返ると、全員同じ表情をしている。呆れながらの苦笑だ。
「えっと……どうも、子どもに甘いらしくて」
「そのようだねえ。いや、妹さんと来た時は、銀髪の子が世話をしていたから気付かなかったが」
「すみません……」
「あらあら。でも、木が若返るとか、お花が長く咲くなんて素敵だわ。あれは褒めて正解よ。私も褒めるわ」
「ありがとうございます」
悪いことではないので、許してもらえたようだ。それから、いくつか狛犬の事などの確認をして、清雅の家から出る。
帰りに泉一郎が見送ってくれた。
「また来てください」
「はい。ありがとうございます。狛犬の事。引き続きよろしくお願いします」
「もちろんです。お任せください」
泉一郎の足下には、狛犬達がお座りして鳴いていた。
《キャン》
《キャン》
見送ってくれているらしい。だが、目が合うとその視線を山の方へ向ける。
分かっている。呼ばれているのだ。
今から行くよと意思を伝えるように見つめれば、尻尾を振られた。了解ということだろう。今から向かうことを伝えてくれて筈だ。
そうして、石段を下りきって一度頭を下げる。しかし、背を向けようとした時、麻衣子が慌てた様子で駆け下りて来た。
「ま、待ってください」
彼女は可愛らしい封筒に入った手紙を差し出した。
「これを、薫ちゃんに渡して欲しいんです……その……会えないだろうから、せめてと思って……ダメでしょうか」
これに答えたのは源龍だった。
「中は確認されるかもしれませんが、それでも良いですか?」
「っ、はい!」
「では、お預かりします。必ず……必ず見つけて渡しますね」
「はい!」
預かった手紙を、源龍は大切に受け取った。もう一度泉一郎に礼をし、高耶と源龍は山へ向かった。
「この手紙、高耶君から連盟に渡してくれるかな」
山を登りながら、源龍が手紙を渡して来た。今まで何やら考えていたらしい。
「いいですけど……」
「ふふ。いくら中身を確認されるとしても、私からだと要らぬ誤解を生みそうだからね。今も、首領達が賛成してくれているからいいけど、本来なら、鬼渡と繋がりがあるってことで、一族で謹慎しているべきなんだ。こうやって出歩いているのも、他家は良い顔をしないんだよ」
高耶は首領として集まる時だけしか、連盟の集まりに参加しないが、そこで榊一族は色々と言われているらしい。
「わかりました。お預かりしておきます」
「うん。頼むよ」
源龍も表には出さないが、当主として日々悩んでいるのだろう。薫を捕らえるために高耶と一緒に行動しているのも、そんな源龍を心配した焔泉達の考えだ。
捕らえて関係性をはっきりさせれば、今の陰口も消える。源龍も察しているからこそ、少しばかり焦っているように感じられた。だが、こういう人にこういう時『無理しないでください』と言うのはいけない気がする。
きっと、気づかれたくないはずだ。だから、ぐっと我慢する。
「そういえば、安倍の当主から占いメールが届いてたんですよ。『旅先でのトラブル注意』って……どう思います?」
「そんなメール届くの? 初耳だけど」
「言ってませんでしたか? 首領になった日に、あの人とアドレス交換したんです。それからひと月に一度。多い時は一週間に一度来るんですよ……」
最初はアドバイスかなと思っていた。だが、違った。回を重ねる毎に確信に変わる。これは予言だと。
「めちゃくちゃ当たるのに、解決方法とかの助言はなくて、困るんですよ」
「……それ、すごく貴重だと思うけど……でも、うん……当たりすぎる占いとかって困るね」
「ですよね……」
それから、旅先っていうのはきっと次に向かうことになる別荘の所での話だろうと話ながら、山神の社へと向かったのだ。
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