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秘伝賜ります  作者: 紫南
149/457

149 見えてます?

2020. 1. 2

中はどうってことない普通の家だ。キッチンやトイレも最新式、お風呂もバスタブは大きく広さが意外にもあり、売るのに問題のない物件であることが分かる。


だが、術者である高耶や迅にはどうしても暗く見えてしまう。迅は連盟の担当であることもあり、それらを見る力は持っている。昔から不思議な体験をすることが多々あったらしい。それが本格的に関わるようになって強くなったのだ。


「うわぁ……これは凄いね。いかにもって感じ。レベル三なら、いつもはまだ辛うじて感じるくらいなのに、肌に感じるよ」

「俺が居るからな……」

「え? だって、別に術者と一緒で強まるとか聞かないけど?」

「……」


あまり言いたくない。それが常盤に伝わったらしい。


《主と相性が良いのでしょう。好意的感情も強いようですし》

「わっ、そ、そうなの? 相性かあ!」

「……」


だから言いたくなかったのだと高耶は眉を寄せた。それに気付いて、常盤が声を落とす。


《余計なことでしたでしょうか》

「いや、他の奴に説明されるよりは良い……ありがとな」

《っ、いえ……》


珍しく常盤が照れたように表情を変えていた。そういえば、こうして常盤だけを頼って喚ぶのは久し振りだと、こんな状況でも呑気に思う。


《主、あそこのようです》


常盤はきちんと気持ちを切り替えてそこを指した。


「あ……れ? さっき、電気……付けたよな?」

「そういえば……消えてる……わけじゃない? 付いてる……けど……っ」


智紀と浩司は、入ってくる途中で電気のボタンは押していた。廊下に電気は付いている。だが、どうしてか暗い。それは、黒い瘴気が天井付近を覆っているからだ。


「うわあ……これはマスクしたいね」


常盤が浄化しながら進んでいるので、今でも溢れ出てくる瘴気が天井付近に残っているだけだ。高耶達の顔の辺りはしっかり浄化されているので問題はない。だが、見えているというだけで、口を覆いたくなるのだ。


「あ……えっと……黒い……霧?」

「本当だ……急に見えるようになった」

「おい。あまり注意して見るな」

「「はい……」」


注意する陽の表情は強張っていた。そんな三人の様子を後ろから見て、迅は明るく意見する。


「大丈夫だよ。護符を持ってれば、影響はないから」

「そんなに凄いものなんですか……」

「高耶君のだからね。連盟の……術者の中でもあの若さでトップクラスなんだ」

「へえ……凄い」

「でしょ、でしょ?」

「……」


もう迅は放っておこうと決める高耶だ。


「さて、あれだな」


やってきたのは庭の見えるリビング。その中心に黒い固まりがあった。


「……あんなの、前はなかった……」

「見えなかっただけじゃ……」

「そうだろうな……」


智紀と浩司、陽は警戒しながらそれを見つめた。


「電気つける?」

「ああ。あまり変わらんが、気持ちは変わるだろ」

「はいは〜い」


迅の調子は変わらない。そうして、リビングの電気を付けた。多少は変わったように感じるが、本当に付いているか見上げて確認するくらいには変化がない。


「常盤、可能な限り浄化を」

《承知しました》


すると、黒い固まりは形をなくしていく。そうして、残ったのは黒い楕円の固まり。まるで、暗闇で見る猫のような固まりだ。息をしているように時折少し動く感じもそれっぽい。


そして、聴こえてきた。


《……ネ……コセ……ネ……ネヨコセ……》

「ね?」


迅は童顔に似合いの可愛らしい様子で首を傾げた。


「確か、庭師だし……根っこ? とか?」


何が欲しくて留まっているのかと庭を見て考える。だが、高耶にははっきりと聴こえていた。


「金か」

「え?」

《ヨコセェェェェッ!!》

「わわっ」

「「「っ……!」」」


呑気にしていた迅も、これには驚く。そして、彼は腰を抜かした三人の前に咄嗟に躍り出していた。


読んでくださりありがとうございます◎

今年もよろしくお願いします!


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