146 好かれすぎて困る
2019. 12. 12
週末。土曜の午後だ。
仕事に出かけようとしていた高耶は、丁度遊びに来た美奈深と由香理親子と出くわした。
「あれ? 高耶君、お仕事?」
「今時の子なのに土曜日も忙しいの?」
ラフな服装だが、前髪も上げているし、これは仕事仕様だなと二人ももう分かっていた。
「ああ、美奈深さん、由香理さん。はい。これから道場です」
「だからその荷物?」
「え〜。お夕飯、一緒にできそう? いつ帰るの?」
「そうですね……振り切って……七時半頃なら」
「「いいわよ!」」
とっても嬉しそうだ。
「その時に旦那達は紹介するわね」
そう。美奈深達の後ろには、男性が二人いた。こちらを凄く見ているが、後でと言っているので軽く会釈だけしておく。相手側は、勢いよく頭を下げていた。
「分かりました。では、失礼します」
「「「「いってらっしゃ〜い」」」」
「いってきます」
親娘に見送られて、高耶は仕事に向かった。
稽古だからと張り切っている充雪を引き連れて行く。なんだか、こういうのも久し振りだ。
《今日の稽古はアレだろ? ジンとか上の奴らだよな? 気合い入りそうだ》
「おう。そんで、七時十五分までで終わらせる」
《振り切るとか言ってたな。ガンバレ》
「……」
警察にいる連盟の協力者である、三先迅をはじめとする、秘伝の仕事をよく知る者たちが集まる月一の合同稽古の日なのだ。
平均年齢は五十三歳。とはいえ、若い人もそれなりにいる。一番上は八十だ。
《あいつらみんな、お前のこと大好きだもんなっ》
「……」
《アレだ、アレ。ふぁんクラブってやつだろ? あ〜、けど、キャッキャしねえな。真面目だもんな》
「きちんと稽古はするから文句言えねえんだよ……」
《だよな〜》
高耶が大好きで、尊敬していて、憧れている者ばかりだ。因みに全員男。稽古をしてくれるというのも嬉しくて、そんな高耶が好きな者たちばかりで楽しいという者達しかいない。
けれど、真面目に稽古をする姿勢は本物なので、やめようとは言えないのだ。
《まあ、あれだ。弟子に好かれるってのはいいことだぞ》
「限度はある……」
そんな少々気の重い稽古を無事終えたのは、七時だ。本来の終了時間なので早いとは言えない。むしろ、戦いはここからだ。
「いいじゃん。ご飯行こうよ!」
「これから約束があるんだよ」
「そんな! いっつもご飯の約束逃げるじゃん」
「お前のタイミングが悪いんだろうな。縁がないのかも」
「マジかっ。いやだよっ。縁結ぼうよ! 結んでよ!」
「元さ〜ん。こいつ回収してください」
「やだよっ。高耶君も一緒がいい!」
子どもだ。子どもがいる。
「おうおう。毎度毎度、お前は高坊に迷惑ばっかかけやがって」
「迷惑じゃないしっ。みんなの言葉を代弁してるんだしっ」
「おい、そこ。頷くな。高坊に嫌われっぞ」
「えっ、あっ、そんな否定しないでっ。一緒に高耶君を落とそうよっ」
仲間はいなかったらしい。
「元さん。この埋め合わせは必ず」
「おう。待ってるぞ」
「なに?! その雰囲気、羨ましいすぎなんだけど!」
「お前はちょい黙れや。ほれ、同好会で食事だろ?」
「また高耶君抜き……」
「それでも良いから同好会だろうが」
「む〜、高耶君! 今度ランチ! 絶対ね!」
同好会というのは怖くて内容を聞けないでいる。知らないままがいい気がするのだ。
回収されていく迅を見送り、高耶は急いでシャワーを浴びて着替える。急いで夕食へと駆け出した時にそのメールは届いた。
「陽さんか」
それは、稲船陽からのお祓いの依頼だった。
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