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秘伝賜ります  作者: 紫南
138/456

138 少年達の日曜日

2019. 10. 30

翌日、日曜日だ。


校長である那津が前日に今日呼ぶ二人の生徒の家に電話していたらしい。そもそも、那津はその二人の生徒が学校を休んでいることを相談するために高耶に会いに来たのだ。


先生二人と高耶は、警戒を解くためにもと優希達三人娘を連れてそれぞれの家に少年達を迎えに行った。


何かに怯える様子で、家族達も手に負えなかったらしい。夢でうなされて飛び起きる日々、学校に行ける余裕はなかった。


「本当によろしいんですか?」


母親が那津へ確認する。


「ええ。こちらには知り合いのご家族も一緒ですし、夜には一度お電話するようにします。朝、学校に行けそうなら一緒に行きますし、どうしても気分がと言われましたら信頼できる方々の元で一日過ごしてもらいます。明日の夕方にはきちんとこちらへお送りしますね」

「ありがとうございます……本当……どうしたら良いのか分からなくて……」


那津は電話をした時に母親達に泣きつかれたそうだ。精神科の方にも一度診てもらっていたらしい。どうしても夜は不安になってしまうようで、眠れていなかったのだ。こればっかりは大丈夫だと言った所で難しいだろう。


忘れさせるというか、記憶を誤魔化す術もあるが、子どもにはあまり使わない方が良いと言われている。どれだけ誤魔化したとしても、夢では見てしまうので意味がなかったりするのだ。


そうして相談した所、環境を変えるのは良いことだという結論になり、泊まりで面倒を見ることになった。母親達も仕事があるため、本当に困っていたらしい。共働きの家庭や自営業の家では、子どももそうそう休めない。


家へ向かう道すがら、高耶は少年二人に声をかける。


「俺達と一緒の時は怖いものは絶対に来ないから、心配しなくていいよ」

「……うん。お兄さん、助けてくれた人だし。大丈夫な気がする」

「そうか」


助け出した時は元気で楽しそうだった少年も、今は眠れぬ日々のせいで顔色が悪かった。こういう子は、母親に迷惑をかけているという意識で更に落ち込むので、連れ出せたのは良いことだ。それに社交的な性格なのだろう。きちんと話をしようとする姿勢が見られた。


「っ……えっと、ぼく、日比谷賢也ひびやけんやです」

「きちんと挨拶できてえらいな。俺は秘伝高耶だ。仕事の関係で名字は色々使い分けてるから、高耶って覚えてくれ」

「高耶兄さんってよんでもいい?」

「ああ。こっちも賢也って呼ぶからな」

「うん!」


少しだけ彼らしさが戻ったようだ。


「あ、あの……拓真兄ちゃんもいるって本当?」

「居るぞ。同じ学校に通っている俺の従兄弟の統二と向こうで遊んでるから……拓真は大丈夫だよ」

「っ……そっか……」


彼は二葉拓真の従兄弟である仙葉久史せんばひさしだ。同じように拓真が苦しんでいるのではないかと心配していたらしい。


どうも実の兄とも折り合いが悪く、あまり口数が多い方ではないという。利用しようとしたとはいえ、拓真は久史にとって話しかけてくれる優しい従兄弟のお兄ちゃんだったのだろう。


高耶は思わず、自分の事よりも拓真の方を心配していたらしい久史の頭を撫でる。


「っ……あの……?」

「ん? ああ、いい子だなと思ってな。ファンタジーは好きか?」

「え?」

「ゲームとかするか? ドラゴンとかカッコいいと思うか?」

「えっと……ゲームは好き……賢也ともよくやってた。本も……魔法とか好きで……っ」

「なら、ちゃんと楽しめそうだな」

「……?」


今は無理でも、きっと笑顔が見られるだろうと思えた。


そこで優希が久史達に声をかける。


「すっごいところだよっ。『お城』がとんでるしっ」

「プールもあるし」

「ぜったいたのしいよっ」

「「……オシロ……?」」


城は飛ばないものなので、少年達には伝わらなかったようだ。時折常識というのは認識の邪魔をする。


「ふふふ。大丈夫そうですね」

「そのようですね。ただ、驚き疲れてしまうかもしれませんが」

「あら。子どもは疲れなんて知りませんわ。疲れたと感じた時には眠ってしまいますもの」

「それならば良いかもしれませんね」


楽しいことでいっぱいにして、驚くことで強い印象を焼き付けて、そうすれば怖い夢など見ないだろう。


疲れて眠って、大丈夫だと分かればきっと家でも眠れるようになる。


そうして、一番初めの彼らの驚きは扉を通り抜けた先の別世界の光景だった。


読んでくださりありがとうございます◎

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