128 監修しました
2019. 9. 10
また遅れてしまいました。
初めてこれらを見た誰もが唖然としていた。
その前でニコニコと機嫌良く両手を広げ『凄いでしょう!』と自慢気なのが瑶迦。
それに頭を抱えるのが高耶。
そして、高耶の式神達はといえば、なぜか誇らしそうにしていた。その理由は簡単だ。
《あの南国リゾート風のホテルは我も手伝った》
《僕もね。娯楽施設を充実させたんだ。絶対に退屈しないよ》
珀豪と清晶は右手奥にあるホテルを指差して頷く。
《むこうの赤い屋根のバンガロータイプは我だぞ? 主よ。どうだ? プールも作ったのだ。水着で悩殺してくれよう》
《外……ハンモックつけた》
島にありそうなバンガロータイプのホテル。それを見てくれと言うのが黒艶と綺翔。
《純和風の温泉旅館は私が監督したの。 もちろん源泉を使っていますわ。主様のお背中流しますわね》
《畳から布団まで最高級品質でご用意いたしました》
天柳と常盤が左端の建物を指す。
他にもマナーハウスのような建物や、カントリーハウス的なものも見えた。
それぞれが建物の外観や内装だけでなく、きっちり周りの雰囲気も作るべく、場所によって植えてある植物にもこだわっているようだった。
そして、遠くにある山の上の方に見えるのが、白っぽい西洋の城。相当大きそうだ。
「どうです? 皆さん、お好きな所にお泊りください。それぞれに従業員もおりますわ♪」
「……それは、全部式で……?」
源龍の確認に、瑶迦は当然だと頷いた。
「もちろんですわっ。珀豪さん達が出入りするものだから、沢山集まりましたの。わざわざ喚び出す必要が無くて楽でしたのよ」
「……そういえば、君たちは高位の存在だったね……」
きちんと聞いたことはないが、そう感じてはいたのだ。式の見た目や、術者の年齢に騙されて、珀豪達はそれほど周りに注目はされていないが、実力のある者ならばわかる。
「高位も高位ですわよ? 珀豪さん達よりも上の存在はまずありませんもの」
「やはりそうなのですね……高耶君には本当、びっくりだよ。それも愛され過ぎだね……」
「ふふっ、そうですわね。愛されていますわねっ」
「……」
式神の中には『主命!』となる者も多いが、そういう者は皆、盲目的で主人の命令ならば躊躇なく悪行も行えてしまう。けれど、珀豪達は別格だ。
高耶のためにならないことはしない。それが命令であったとしても、諌めることが出来る。
これぞ愛だ。
嫌われたとしても仕方がない。それよりも高耶のためになりたい。その想いが強いのだ。それは親のようであり、教師のようでもある。
しかし、高耶のためになると判断した場合はそれが暴走する。
今回もそれだ。
旅行に行ってのんびりする時間のない高耶のために、この場所に沢山の保養所を作った。
気軽に来られて、常に貸し切り。誰の目も気にすることもなくゆっくりできる。ここは、瑶迦にとっても数少ない自由になる場所ではあるが、瑶迦でさえも、高耶がいなければこの世界をここまで本気で作らなかっただろう。
「発案は、先ほども言いましたけれどエルさんですの。因みに、五つある理由は分かりまして?」
呆れる高耶へ瑶迦が楽しそうに問いかける。これに高耶は眉間を揉みながら答えた。
「エルラントさんの娘さん達の好みですね……奥の城はエルラントさんのということですか」
「さすがですわっ。そうです。そして、わたくしの案があちらですわっ」
瑶迦は自信満々で指し示す場所は空だった。そこには、日本の城が石垣も全て丸っと浮いていたのだ。
「すっげぇ!! 空に浮かぶ城とかマジ!?」
「マジですわっ。子どもの夢ですわよねっ」
「城は城でもまさかの城にびっくりだわ!」
俊哉はそれから腹を抱えて笑っていた。
確かに、日本の城が浮くというのは、ちょっとイメージが違う。だが、それも瑶迦らしいと思えてしまった。
「ステキ! ちょっと、これ本当に夢じゃないのよね?」
「ねえ、さっき瑶迦さん……選んでって言わなかった?」
色々と非常識なことでもすぐに受け入れてしまえる質の美奈深と由佳理もパニック中だ。
「なあ、秘伝……」
「なあに?」
「俺、ここにゆっくりしろって言われて来たんだよな? 驚き過ぎてゆっくりするどころか緊張と混乱で倒れそうなんだが……」
「え? じゃあすぐに寝る?」
「……秘伝って……いや、いい。大丈夫だ。ちゃんと起きて限界まで驚き疲れることにする」
「うん。二葉君ができそうならそうしなよ。実際、倒れてる暇ないけどね」
「……」
二葉拓真は不思議で仕方がなかった。学校で見ていた統二と今では全く違うのだ。恵まれた環境と能力を持っていながらもどこか自信がなさそうで、不満そうだった。拓真にはそれらが気に入らなかったのだ。
周りもそうだろう。こちらが何を言っても興味なさそうで、自分はもっと上の、拓真達とは全く別のものを見ているんだと言わんばかりの態度。
だが、それは本当にそうだったのだ。嘘だと、見せかけだと思うから苛立つ。誰かにすごいねと言われるように装っているのを見るのは腹が立つものだ。
他人は評価されるのに、自分は充分な評価を得られないという思いが、人を腐らせていく。
誰にも自分をちゃんと見てもらえていないと思う。人は常に対等であるべきだと思っているからだ。
拓真はそれを今、自覚した。傲慢に、統二の何も見ていなかった。こんな非日常を日常としているなど理解できるものではないが、それでも、何も見ようとしていなかったのは自分の方だったのだと思い知ったのだ。
その時、高耶がふと拓真の方を見た。
「ん? どうした? 何か……いい顔になったな」
「え……あ……はい!」
ちゃんと気にして見ていてくれたというのが、拓真には嬉しかった。
一方、統二は少しだけ複雑そうな顔を浮かべており、それに今度は拓真が気付く。
「なんだ?」
「う〜ん……なんか、兄さんを取られたみたいで複雑……」
「ぷっ、ははっ、お、お前もそんなこと思うんだなっ」
「はあっ? 当たり前でしょっ。高耶兄さんは僕の兄さんだよっ?」
「いや、親戚じゃん」
「兄さんは兄さんだ!」
統二が子どものように珍しく声を荒げているのを高耶が見て、首を傾げる。とはいえ、年相応に友人と言い合うなんて経験はなさそうな統二だ。それが出来ていることに微笑ましく思って見守るだけだった。まさに、ここへ来る前に高耶も瑶迦達にそれを心配されていたとは本人は思いもしない。
しかし、そこで思わぬ伏兵が現れる。
「ちょっと! おにいちゃんはユウキのおにいちゃんだよ!」
「っ、ご、ごめん優希ちゃん……」
「す、すまん……」
「ふんっ、わかればいいの」
「「いいなあ、ユウキちゃん」」
「えへへ」
小学生の女の子に怒られる高校生男子というのはちょっとどうかと思った。
「ね、ねえ、高耶君。私たち、またここに連れてきてもらえる?」
美奈深が不安そうに尋ねてきたが、何を当たり前のことをと高耶は首を傾げた。
「え? ええ。もちろんです。もう入り口とかも見せてしまいましたし、お二人や娘さん達はいつでもどうぞ。もうすぐ夏休みですし、ここに従業員として居る式達も使ってくれた方が喜びそうです」
瑶迦はそれを聞いて嬉しそうに何度も頷いていた。これを受けて美奈深と由佳理は目を合わせて大きく一つ頷く。
「だったら、今日は一つに決めて、みんなで過ごしたいわっ。そうしたら、食事とかも一緒にできるし!」
「そうそう。先生達や高耶君のお母さん達ともお話したいものっ」
「えっと……そうですね。バラバラになるのも何ですし、そうしましょうか」
全員が同意するように頷くのを見回して、高耶達はようやく動き出す。
「ならそうだな……清晶、綺翔、天柳でジャンケンな」
《いいよ》
《勝つ……》
《やるわ》
そうして、本日の宿が決まった。
読んでくださりありがとうございます◎




