122 ご挨拶は丁寧に
2019. 8. 10
高耶は統二を連れて二葉に案内されながら彼の家に向かった。
源龍は一度家に戻って泊りの準備をしてくると別れた。なんだか凄く嬉しそうだった。
二葉の家には母親が居て、高耶が挨拶をする。
「はじめまして。秘伝高耶と申します。拓真君の同級生の秘伝統二の従兄弟に当たります。うちの別宅に拓真君をお誘いしようと思いまして。外泊の許可をいただきたくご挨拶に伺いました」
「まあ、ご丁寧にっ。ありがとうございます。本当にうちの子を誘ってくださるの? お友達? 嬉しいわっ。愛想もない、偏屈な所のある息子ですけど、どうぞよろしくお願いしますっ」
結構明るい感じの母親だった。
「いえいえ。うちの統二もあまり友人と遊ぶことを知らないものですから」
「こんなステキな従兄弟さんがいるんだもの。うちの子みたいなお友達よりも優先しそうだわ」
「では責任を持って、友人との遊び方や付き合い方を教えるためにも一緒に過ごさせてもらいます」
「ふふっ。よろしくお願いします」
びっくりするほど快く許可が出て、二葉は家を出る時に凄く複雑そうな顔をしていた。
「あの……母がすみません……」
「大らかでステキな人だと思うぞ?」
「そうなんでしょうか……」
「君が普段見ている母親は、ほんの一面だけだ。特に中、高の十代半ばの間は、身内ほど色々と見えなくなっているものだからな」
そういうものなのかと統二と並んで、今までの行いなどを思い返しているようだった。
因みに、きちんと高耶の連絡先は伝えておいた。別邸は少し遠いので、月曜日は一緒に学校に行ってから帰ってくると説明もした。
「あの……荷物、本当に制服とかの学校の用意と下着類くらいでいいんですか?」
「ああ。服は大量にあるからな。荷物になるし、構わないさ」
向かうのは、瑶迦の屋敷だ。最近は、統二や優希、母の美咲や樹の分の服も大量に購入しているらいし瑶迦。
お金を使うところもないしと言いながら各年代の服が屋敷の何分の一かを占拠しだしていた。
「高耶兄さんの服が一番多いって聞きましたけど、そんなにあるんですか?」
「二、三年は一度着た服を着なくて良いくらい余裕であるな」
「……百単位とは思いませんでした……」
「因みに靴や鞄もその半分はある」
「……」
お陰で仕事着にも困らないが、さすがに買い過ぎだと思う。その上、一度着た服は藤達がリメイクして新しく作り直していたりするのだから、もう無限だ。
「何日かいると、下着とかも藤さん達が糸から作っていたりするから、不自由しないぞ。遠慮すると寂しがるから、今後統二は気をつけろよ?」
「はい……すごいですね……」
統二でさえ呆れ半分で驚いているのだ。聞いていた二葉は事情がわからないながらにも呆然としている。
「こ、これから行くところって……」
「ああ。この日本で唯一の魔女の屋敷……と彼女の作った楽園の別邸だ」
「……魔女……?」
落ち武者の霊を見たりと、不思議な体験をした二葉でも簡単には受け入れられない存在だろう。
「悪い人ではないよ」
「そうですか……」
どう反応したらいいのか分からないような顔をしていた。
高耶の自宅の最寄りの駅へ着くと、そこには俊哉が待っていた。
「高耶〜っ」
「……」
ものすごい笑顔で手を振られたので、そのままスルーすることにした。
「ちょっ、なんで無視すんだよっ」
「浮かれ過ぎだバカ」
「うっ、だってよぉ……高耶と泊まりとか初めてじゃねぇ? あれ? マジで始めてじゃんっ。ガキの頃もないよな?」
「そうだな……」
高耶は友達と遊ぶよりも、亡き父と鍛錬することの方が楽しかったのだ。なので、確かに友達とお泊りなど一度もしたことがなかった。
因みに小学校の研修旅行なんかは行っていない。その頃、父が亡くなったことで母の美咲がとても不安定だったのだ。残った唯一の家族として、一人にしたくなかった。
高耶自身、陰陽師として能力が本格的に開花し始めていた時で、知らない土地へ行くことに不安を感じていたということもある。
「誘っても来んかったもんな。なんでだったんだ?」
軽い足取りで隣に並んだ俊哉が確認する。これに、高耶は正直に答えた。
「ガキの頃に俺と泊まってたら、楽しいホラーナイトになっただろうな」
「……マジで? ガチの?」
「金縛り付きで一晩中、賑やかだっただろうよ。お前とつるんでた頃は、まだそれほど力を制御できていなかったからな。だから、日が暮れる前に意地でも帰ってただろう。小さい頃は夕方から危ないんだ」
俊哉がしばらく口を閉じた。そして、重々しく出した結論を告げる。
「……高耶って、子どもん時から色々考えてたんだな……」
「その気の毒そうな目はやめてくれ……」
物凄く同情された。それも、俊哉だけでなく二葉や統二もだ。なんで統二もと思わなくもないが、本家はそういうガードはしっかりできていたはずなので、考えても心配したことのなかったものだったのだろう。
家が見える距離まで来ると、そこには丁度、珀豪に連れられてやって来た二組の親娘の姿があった。
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