107 置き土産
2019. 5. 25
そこは六年生の教室だった。
コックリさんが流行り出したのが、この教室の生徒だったのだが、それを高耶が知るはずもない。
「っ……本当に似ているね……」
源龍は、複雑な表情で覗き込んだ教室の中にいる鬼渡薫を見つめていた。
「美人ねえ」
「……」
あまりにも呑気な校長の感想に高耶は肩から力が抜けるのを感じていた。
校長はここにくるまでに思う存分、薙刀を使えたことでご機嫌なのだ。狭い廊下でも巧みに操る様は、本当に生き生きとしていた。
『なにこれ、なにこれっ。サクサク斬れるわっ! いくらでもかかってらっしゃい♪』
彼女は、嫁いでからその家で薙刀を始めた。その才能は凄まじく、何代か前に秘伝に預けた奥義をも、ものにできるほどだったのだ。
実力は本物。この非常事態にでも本気で戦えて喜ぶというのは、武術家らしいといえばらしい。
とはいえ、このまま脱力しているわけにはいかない。
教室の中では、湯木が倒れていた。机や椅子が中央から退けられており、その中心に寝かされているようだ。
湯木を挟んで教卓の方に、この教室の生徒だろうか。男の子が二人うずくまっている。その前に二人をかばうようにして統二と同じ制服を着た少年がいた。
更にその三人を守るように本来の姿になった珀豪が警戒心をあらわにして薫を見つめている。
「明らかに何かの儀式をしようとしているね」
「湯木先生が生贄ってやつね」
源龍も声に余裕が感じられるようになってきた。なぜだか悪い状況になると思っていないらしい。
「高耶君。作戦は?」
「ご当主の指示に従いますわ」
楽しそうだ。
「……俺があれを止めるので、生徒を頼みます」
「任せてちょうだいっ」
「ついでに彼女の気を引いてみせるよ」
そうして二人は教室に飛び込んでいく。思い切りが良かった。
「っ、お前はっ……また私の邪魔をするっ……っ」
薫は源龍を見て明らかに動揺した。
お陰で術が乱れ、たやすく湯木の周りに展開されていた力を打ち消すことができた。
「なっ」
「陰陽術と魔術の融合か……中途半端に両方に手を出すのは危険だぞ」
「お前っ、お前はっ」
「そんな顔も出来るんだな」
以前会った時の薫は、表情がほとんど変わらなかった。攻撃してきた時も無表情だったのだ。それが今、明らかに怒りを見せている。
「なぜっ、お前ほどの力を持つ者が私の邪魔をするっ」
「それが術者としての責任だからだ」
「っ……」
「力を持つからには、それだけ強く己を律しなくてはならない。それを君は理解するべきだ」
「そんな……そんなものっ」
高耶は湯木が気絶しているのをいいことに、ついでとばかりに彼に憑いている凝隷虫を浄化した。
「あがっ……っ」
一瞬の痛みに声を上げた湯木だが、再び気絶したその表情に剣はなかった。
「これで彼を使うことはできないだろう。諦めろ」
「っ……」
薫は悔しそうに唇を噛み、高耶をきつく睨みつける。
しかし、一度目を閉じた薫はニヤリと笑った。
「諦める? そんなことできるわけないじゃない」
「っ、まさかっ」
そうして、薫は一気に力を空間へと打つける。大きく穴が空いた。その中へ彼女は躊躇なく飛び込んだのだ。
「絶望するがいい!」
その言葉に続き、教室の至るところに黒い穴が空いた。
そして、そこから骸骨姿の落ち武者達が無数に這い出してきたのだ。
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