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秘伝賜ります  作者: 紫南
103/449

103 閉じ込められました

2019. 5. 5

校長室では、校長と二人の親娘が話していた。


「あら? ハクさんじゃない!」


はじめに珀豪に気付いて声をかけてきたのはカナちゃんの母親だった。


「こんにちは。ミナミさん」

「ハクさんも校長先生とお話し?」

「いや、少々体調を崩した者がおってな。休憩させてもらうことになったのだ」

「そうなの?あら、あの制服!」

「有名な進学校のだわ!」


ここで二人の母親が統二に気付いた。


「こんにちは……秘伝統二といいます」


秘伝と聞き反応したのは校長だ。


「秘伝……ご当っ……高耶さんのところの?」

「あ、はい。高耶兄さんの従兄弟です」

「そうなのねっ。顔色が悪いわ。座ってちょうだい」

「ありがとうございます……」


統二は椅子に座れたことで、ようやく落ち着いて息を吐き出すことができた。


「貧血?」


心配するミナミに苦笑し、どう答えようかと考えていれば、珀豪が答えた。


「少々当てられてしまっただけだ」

「悪い人でもいたの?」

「機嫌を損ねていたらしいな。問題ない」

「そう。怖い人と関わっちゃダメよ?」

「はい……」


どうにか誤魔化せたらしい。


しばらく珀豪を混ぜて女性陣の歓談が続いていた。


高耶の友人である俊哉は、ずっと時島と話しており、統二は机の端の方で優希やユミちゃん、カナちゃんの宿題を見ていた。


「とうじおにいちゃん、これはあってる?」

「うん……今は面白い問題をやるんだね」

「おもしろい?」


優希達がやっていたのは、算数の問題。数字の規則性を見つける問題だ。


「ねえ、おにいさん、こっちは?」


カナちゃんはあまり得意ではないらしい。


「隣り合ってるここの数字の間は何個? 引き算してごらん」

「ひきざん……えっと……」


根気よく解けるのを待ち、教えていく。なんとか今日の宿題のプリントが終わったようだ。


「できたね」

「できた!」


嬉しそうだ。


時間を見ると、結構経っていた。それに気付いた時島が校長の方を見る。


「お、もうこんな時間か。先生、下校が終わる時間ですよ」

「あらっ、盛り上がってしまったわねっ」

「いえ、色々とお話を聞けてよかったです」

「高耶くんに相談してよかったわ」


満足気な母親達。校長も頷いていた。


「本当、ご当主には頭が下がるわ」


思わず高耶のことをいつものように校長は『ご当主』と口にしていた。


「そのご当主っていうのは?」

「もしかして、高耶くんのことですか?」


案の定、母親達は気になったようだ。苦笑しながらも校長は話始める。


「そうです。秘伝家という武道を極める家の御当主なのですよ」

「ヒデンって……?」

「奥義とか秘伝という秘伝です。あの年で色々な技を使えるんですよ? 中学生の時から大人の人を相手にお仕事とかしていらして」


いい具合に濁してくれたようだ。それにしても、校長は高耶を高く評価しているのが分かる。


「すごいのね……確かにしっかりしてるもの」

「うちの子達を守ってくれたのも、だからなのね」


感心する母親達を見て、統二も優希も我が事のように嬉しく思っていた。


その時だ。


不意に空気が揺れた気がした。


「あら? 地震かしら……?」

「なに……?」


揺れたように感じたのは、統二と校長だけのようだ。


「地震ですか?」

「なんか耳がおかしいような……」


母親達はキョロキョロしている。変な感じはしたらしい。


そこで珀豪が立ち上がり、天井を睨みつける。


「どうしたの? ハクさん」

《まずいな……》


その呟きの後、唐突に開いていた窓が閉まった。


ガシャンっ


隣で音が響く。


「なに? なんの音?」


音が聞こえた方は職員室と繋がっているドアだ。時島が開けようとして、開かないことに気付く。


「軋んだのか……?」

《開けぬ方がいい。先ほどの音は、隣にいた教師達が倒れたようだ》


それを聞いて、時島は壁の上部にある小さな職員室の方が見える小窓を台を使って覗き込む。


「っ、本当だ……すぐに救急車をっ」

《呼んだ所で入れぬよ。それより、今の事態をどうにかする方が先だ。清晶、浄化はできているな?》

《当然だよ。じゃなきゃ、ここにいる人達も倒れてるからね?》

《ならば良い》


それまで黙って控えていた清晶がムッとした様子で答えた。


《それより、主様に連絡するのが先じゃない?》

《常盤が向かうだろう。あれが気付かぬはずがないからな》

《ふうん》


不満気な清晶から目を離した珀豪は、統二へ目を向けた。


《統二、どの程度の結界が張れる?》

「え? あ、四等級です……すみません……」


術の熟練度を示す等級というものがある。七等級から始まり、一等級が一番上だ。


統二の言う四等級は、一般的な陰陽師の中でもかなり優秀な部類に入る。


《卑屈になるな。その年で四等級は誇っても良い。間違っても主を基準にするでないぞ。あれは特殊だ》

「はっ、はいっ」


高耶は秘伝を継いだ時点で一等級まで修めていた。それは異常だ。現在、一等級の結界が張れるのは九人の首領ぐらいのものだろう。


その中でも安定して展開できるのは、高耶や焔泉、源龍くらいのものだ。


この話をしている間、窓が開かないことも時島達は確認していた。


「……一体どうなってるの?」


不安な母親達は、子ども達を抱き寄せていた。事情が分かっていそうな珀豪へと次第に視線を集めていく。


ここで活躍するのが俊哉という人物だ。


「これって、あれか? コックリさんのせい?」


これに、珀豪が答えた。


《きっかけはそうだな。だが、どうも何者かが故意に力を増幅させたらしい。土地神が抗っているが、余計に歪みを発生させている。おかしな気配だな……》


珀豪はジッと見すかすように上の方を見ていた。


そこで、清晶が口を開く。


《あいつだ。主様に喧嘩を売った女。鬼渡だよ》

《間違いないか?》

《うん。気配がちょっと変わってるし、何より、主様に剣を向けたやつを忘れるはずないでしょ》

《なるほど……》


珀豪と清晶の表情が変わった。


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