102 こういうのは少し恥ずかしい
2019. 4. 30
統二が校長室に招かれている頃。
高耶は源龍と連盟に来ていた。
「分かりそうですか?」
「時間がかかりそうだね」
源龍の叔父を連行し、どんな儀式をやったのかという尋問を始めていた。
とはいえ、高耶達が直接するわけではなく、それ専門の者が連盟にはいるので、任せることにはなる。
「報告は済んだし、あとはお任せしようか」
「……いいんですか?」
源龍は高耶よりも気になっているはずだ。あの儀式によって発生した炎に巻かれ、彼の両親は亡くなったのだから。
そして、双子の妹らしき人がその儀式によっておそらくは鬼渡となってしまった。
知りたいと思うには十分な理由がある。
けれど、源龍はとても落ち着いた様子だった。
「気にはなるよ。けど、焦る気はないんだ。今まで分からなかったことがわかった。なら、これもいずれは分かる日がくる。それで十分だと思うよ」
「……源龍さん……」
高耶はやはり、源龍にあの光景を見せたことを後悔していた。彼には見る必要がないものでもあったと思うのだ。
その気持ちが表情からわかったのだろう。源龍が高耶の肩に手を置く。
「私は今日、あの日のことを知れて良かったと思ってる。君が気に病むことではないよ。寧ろ、君はちゃんと仕事をしただけだ。首領会で決まったことをきちんと成してくれた。何よりも評価される仕事振りだったよ」
その言葉を釈然としない気持ちのまま聞いていると、源龍に同意する声が聞こえてきた。
「そうだぞ。お前じゃなきゃ、分からんままだったんだ。もっと自信を持て」
「っ、達喜さん?」
現れたのは達喜だけでなく、その後ろから焔泉も来ていた。
「ほんに高坊は真面目やわ。今時の子ぉと違うなあ」
「確かにっ。今時のやつなら、もっと評価しろ、褒めろと偉そうな態度を取るぞ」
笑う二人に、高耶は困惑する。
「できることをしただけですが……」
「それが出来る奴が少ねえんだから、充分だろ」
「せや。高坊でなけな、あの男が妨害してわからへんようなっとたかもしれへん。あとは任せえ」
確かに、他の者が対応していたら、その場面を探し当てるだけで数日かかるだろう。その間に男が気付いて邪魔をしたかもしれない。
それを思えば、高耶は最善で最短解決をしたことになる。あの場に居た源龍や男、他の者にも見せたことで、言い逃れができない証拠とできたとも言える。
「……はい。お願いします」
これ以降のことは、高耶の仕事ではない。彼らが任せろと言っているのだから、従えばいいのだ。
「源龍はんもや。身内やしなあ。ここにおらん方がええ」
「……そうですね。分かりました。一族の者がご迷惑をおかけして申し訳ありません。この罰はいかようにも……連盟の決定に従います」
今回のことで、少なからず当主としても責任を取らなくてはならないだろう。源龍も事を重く受け止めていた。
鬼渡として生きている双子の妹。その彼女も身内なのだから、そちらの対応も考えなくてはならない。
当主とはそういうものだ。
「源龍はんも真面目やわ……今回のことは時間をかけて協議するよって、そう重く受け止めんでええよ。けど、せやな……高坊と行動しとってもらおか。類似のものは引き合う……その妹が出てくるかもしれんで」
「そうだな。高耶は一度やり合ってるしよ。護衛をつけようと思ってたんだ。源龍ならいいかもな。赤ん坊だった源龍が今回のに加担してるわけねえし。有能なのを遊ばせとくのもな」
「い、いえ……ですが……」
こういう場合普通、当主は謹慎することになる。それなのに寧ろ囮にされるとは思わないだろう。
「高坊が襲われてもええんか?」
「っ、よくありません! わかりました。行動を共にします」
「え、源龍さん!?」
「そうしてや。高坊なら問題あらへんやろ? 秘伝家の技は真似できひんし? 源龍はんの方も気にせんやろ」
これが他家の陰陽師ならば技を盗まれると警戒するだろう。
そんな事情もあって、高耶に護衛を付けることも迷っていた。本来ならば、秘伝家の中で護衛を選ぶべきなのだが、高耶は残念ながらあまり当主らしくない。
護衛をとしてもお互い嫌だ。何より、秘伝の技を持ってすれば、護衛など必要ないと一族の者は思うだろう。
「私は別に……今更、高耶くんが知らないような技もありませんし。秘伝家には寧ろ全部知られているでしょう。逆にこちらが特かもしれません。恐らく、他の者よりも秘伝家のことを理解できていますから」
「……」
そう。他家は秘伝家に技を盗まれると警戒するが、それはもう必要のないものだ。既に秘伝家はほとんどの陰陽術を会得してしまっている。
その特殊な技能から、一度見たら覚えてしまうし、場合によっては陰陽師の家の秘伝も預かっているのだから。
これを理解している者は残念ながら陰陽師の中では少ない。
秘伝家はどちらかといえば新参。陰陽師としては比較的新しい家だ。そのため、まだ軽く見ている者は多い。
「ほな、それで。高坊、あまり無理せんといてな」
「出来るからって無理だけはダメだぞ」
「っ……はい」
なんだか、心配されているのが気恥ずかしい。
こうして気にかけてもらえることが、とても有り難いと思う。
何より、高耶には無理というのが分からないのも事実だ。
「私が見張りますので大丈夫です」
「そやったな」
「ならいいか」
「……」
ちょっと自信をなくした。とはいえ、ここにいる彼らにとって高耶は子どもでしかないのは分かっている。
焔泉と達喜と別れて建物の外へ出ると、その高耶の後ろから源龍がついてきていた。
「それで? 高耶くんのこの後の予定は?」
「……妹の学校に行きます」
「お迎えかい?」
それならばついてくる必要はないかもなと思うだろう。だが、ここは正直に答えておくべきだ。なぜかそんな気がした。
「いえ……そこの土地神が弱っているのです。コックリさんブームが来ているらしくて……」
「へえ。なら行こうか」
「いいんですか?」
「もちろん。手伝わせてくれよ?」
「……はい」
とっても嬉しそうだった。
その時、常盤がやってきた。
「常盤?」
あの後、先に優希の学校へ行ってもらっていたはずだ。不審に思い尋ねる。
「何があった?」
《大きな異界への穴が空きました。何者かが無理に開けたようです》
「っ、優希はっ」
《珀豪達がついてはいますが、危ないかもしれません》
「っ……」
だから常盤が来たのだろう。高耶でなければ対応できないと判断したのだ。
「すぐに行く。先に行ってくれ」
《はっ》
そうして先に常盤を行かせ、高耶はドアを探す。すると源龍が手を引いた。
「こっちだよ。急ごう。大丈夫。君の式は強いし、私もいるからね」
「っ、はい」
高耶は源龍と共に学校へ急ぐのだった。
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