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私達、異世界の村と合併します!!  作者: NaTa音
第0章 チュートリアル編
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第六話 ヒャッハー! な、警備隊……。

ヒャッハー!


 結局、あの後、ビアンカさんに抱かれたまま眠ってしまった。

 彼女に抱かれたのが良かったのか、ここ数年間で一番の安眠だった……。

 やっぱり、『母』は偉大! お母さんは最強ってことだね!!


 朝食を終えた私はビアンカさん夫妻にげんき村に戻ると伝えた。


「もう、行くのかい? まだ、ゆっくりしてってもいいんだよ?」

「いえ、これ以上、ご迷惑をおかけするわけにもいきません。それに……私にはまだ、やるべきことがありますから」

「…………そうかい。言うようになったじゃないかい」


 ビアンカさんと私は目を合わせて笑い合う。

 昨日、別室で寝ていて蚊帳の外だったアランさんはなんのことだ? と首をひねっている。


「なら、引き止めるのは悪いね。行っといで、村長(・・)!」

「はいッ!!」

 

 私は大きく頷いて、玄関の扉を開く。

 ――おっと! その前に、言っておかなきゃならないことがあった。


「アランさん」

「ん? なんだい? ノカちゃん?」

「次、セクハラ発言したら、もう、かまってあげませんよ?」

「……えっ?」


 私の言葉にアランさんが一瞬、驚き表情のまま固まる。

 そして、数秒後、吹き出すような豪快な笑い声を上げる。


「ハッハハハハッ!! こいつは一本取られたよ! そりゃあ、困るわ!! ジョーダンだよ、冗談!」

「頼みますよ?」

「はいよ、村長(・・)!」


 アランさんがニカッと真っ白な歯を見せる。

 こうしてれば、ただのカッコいいおじさんに見えるんだけどねぇ〜。

 

 まぁ、いいじゃないか! セクハラ発言するところさえ目をつぶれば、あの人も悪い人じゃない。

 むしろ、欠点のない人なんて魅力に欠けるじゃない? 短所があるから長所が輝く、よくある言葉でしょ?


 私もアランさんに負けじと思いっきり笑って夫妻の家をあとにした。


「さ〜て、今日も頑張りますかッ!!」


 夫妻の家を出て、カルルス村からげんき村へ続く道の途中、昨日、代表団が顔を合わせた場所に見覚えのある青年が立っていた。

 青年は私に気づくと、やんわりとした笑みを浮かべて一礼する。


「おはようございます。乃香村長。昨夜はよく眠れましたか?」


 ――ベリー村長だ。

 こんな、朝から何してるんだろ? あ、そういえば、今日は警備団の人達を派遣するって言ってたっけ?


「おはようございます。ベリー村長。えぇ、おかげさまで快眠も快眠でした!」

「そのようですね。昨日よりも頼もしい顔をしていますね」

「そ、そうでしょうか? まぁ、昨日はビアンカさんに助言をもらったので、それが効いているのかもしれませんね」


 人間は涙の数だけ『強く』なれる、と耳にしたことがある。

 私はこの世界に来てから二回ほど泣いている。

 となれば、二回の強化(バフ)がかかったのと同じこと。

 

 さすがに、二段階も強化されれば私の顔立ちも少しは頼もしくなるらしい。


「今日はたしか……警備の方達がげんき村に派遣されるのですよね?」

「はい、初日ということなので僕も警備の人達を見に来たのですが、なかなか様になっていますよ」

「様になってる?」

「えぇ、これなら森の魔物もげんき村(この村)には入れませんよ。あ、来たようですよ――」


 私はベリー村長の指の先を目で追いかける。

 どれどれ……? この世界の人達はどんな格好して警備をするのかな――――? 



「ヒャッハーーーーッ!!! 畑だ! 畑だッ!!」

「田んぼもあるぜ〜ッ!!」



 …………………………なにあれ?


 今、私の前を農具で武装して、髪型と叫び声が世紀末な人達が見覚えのあるおじいちゃんの運転する軽トラの荷台に乗って運ばれていたんだけど……。

 空いた口が塞がらなかった。


「……村長?」

「はい、なんでしょう? 乃香村長?」

アレら(・・・)はなんですか?」

「彼らはこの度、警備に参加してくれた僕の村の人達です。とても頼りになりますね」


 ベリー村長はとても誇らしい顔で過ぎ去っていく彼らを見送る。


 ……村長よ、あんたはアレを見てなんでそんな顔をしている? おかしいとは思わないのか? 

 私の間違いでなければ、この世界の住人は多少の差異はあれど、私達と同じような倫理観や感性があると思っている――いや、思いたいッ!


 頼む! 誰か、アレにツッコミを入れてくれ!!


「ど、どうしてあんなことに……」

「警備を行う前に、『どうしたら森の魔物を寄せ付けないか?』ということを議論した結果、乃香村長の世界の“あにめ”という映像作品からヒントを得ました。確かに、あれならば、森の魔物を寄せ付けない安心安全な警備ができますね!」

「ソ、ソウデスネー」


 も、もう、どうにでもなってしまえぇぇ……!

 

 彼らが一体、どんなアニメ作品を観たのかはもはや明確だった。

 ついでに、純粋無垢なカルルス村の住人達を“世紀末”に染め上げた犯人も割れている。

 しかし、私にはこの事態を収束できる力がない――いや、というなしたくないッ!


 とりあえず、警備が終わるのを待って、然るべき人物に事情聴取を行うとしよう……。


「あぁ、そういえば、乃香村長」

「は、はい……なんでしょう?」


 また、変な話か? これ以上は勘弁してほしい。

 朝っぱらから世紀末を見せられたのだ、もうお腹だよ……。


「例の工事の件なのですが……」

「は、はい……!」


 おっと、まじめな話だった。

 これはしっかりと聞かなければならない。


「材料が予想より早く集まったので、今夜にでも準備をしたいのですが、よろしいですか?」

「はい、それは構わないのですが、具体的にどのような工事をするのでしょう?」


 今回の工事はこのげんき村に水源と水路を確保する目的がある。

 だが、重機もないこの状況ではたして、どのように工事を行うのか、ずっと謎だったのだ。


「“ゴーレム”を用いた工事を予定しています。今回、使用するゴーレムは二体。それぞれのゴーレムを僕と乃香村長に従うように起動式を今晩、行って明日の朝から工事を開始したいと思います」

「ゴーレムですか?」

「乃香村長はご存知ありませんか? 僕達の世界では土木工事や治水工事は基本的にゴーレムを用いて行うんですよ」

「そうなのですか。私も“ゴーレム”の存在はライトノベル(しょもつ)でしか見たことがありません」


 ゴーレムはユダヤ教の伝承における主の命令に忠実に従う、泥人形のことで、ヘブライ語で『胎児』という意味を持つ。

 運用には多くの制約があり、それらが守れないと凶暴化するという存在だけど……。


「そうなのですか? 乃香村長の世界には魔術や魔法が存在しないと聞きましたが、“ゴーレム”についての記載がある書物が存在するとは……! その知識を有している乃香村長はあちらの世界ではさぞや崇高な学者だったのでしょう!」

「い、いえ……そんな、この程度なら……」

「謙遜する態度からも深い叡智を感じます。やはり、貴女は救世主になるべき人間だったのですね」


 感心しているベリー村長に私は罪悪感を覚える。


 すいません、ただのライトノベルとアニメが好きな女子大生です……。

 ちっとも崇高じゃありません、むしろ、廊下を原付で走り回るような野蛮な人間です…………。


「であれば、是非とも僕達の魔法や魔術に触れてもらって、さらにその叡智を高みへと昇れるように……僕も微力ですが、お手伝いさせていただきます!」

「はい、ありがとうございます……」


 ここで、私の素性を暴露したところできっとベリー村長は信じてくれないだろうし、言うだけややこしくなりそうだから、流れに任せておく。

 いくら、正しいことでも口喧しく言えば、事態が厄介になることだってある、ならば一言「そうですね」と言ってその場を収めてしまえばいい。

 これだって立派な処世術だ。今は正しかろうが、間違っていようが事を『進める』ことに専念しなくては……!


「では、今晩、起動式を行いましょう。時間になりましたら迎えに行きます」

「分かりました。では、集会所で待っていますので」

「はい、分かりました。それでは、とりあえず、警備が終わったようですし、彼らのところに行きましょうか」

「そうですね。私も少し、言っておきたいことがあるので……」

「……なにか、不満でもありましたか?」

「いえ、こちらの事情ですのでお気になさらず」


 警備が終わったカルルス村の人達と確信犯は、集会所の前でブルーシートを敷いて、のんきにプチ宴会を開いていた。

 彼らが手にしているのはやけに見覚えのある銀色の円柱形の物体、串に刺さっているタレたっぷりの肉らしきもの、ジャガイモのキャラクターが描かれたビニールの袋から取り出されている肌色の菓子、そして、紙皿に盛られたどっからどう見ても『にくじゃが』にしか見えない料理――それらを警備を終えた村人と犯人が美味しそうに食べたり飲んだりしている。


 あんたら、どこの地下労働者だよ……。


「…………勝じい、なにしてんの?」


 私は目の前で肉じゃがを食べている確信犯の名前を冷ややかな目線と共に静かに呟いた。

 

「お? 乃香ちゃんか、いやぁ~皆さんに村の安全を守ってもらってなんのお返しもしないのは失礼じゃと思ってな! 皆さんに欲望を開放してもらっとる」

「――スッ……」

「…………?」

 

 私は胸いっぱいに空気を吸い込む。

 そして、目の前のおバカな老人に向かって――


「――バッッッカちーーーーーーーーーーんッ!!!」


 愛知 乃香、渾身の叫びがはるか向こうの山脈まで届きこだまとなって返ってくる。

 何を考えているんだ!? この人たちは!? 許せない! こんな時に! こんな状況で!! こんな場所で――ッ!!!


 

「……私も混ぜなさい!」



 ビールとおつまみがある状況で、しかも、貴重なカルルス村の人達との交流の場、そして何よりビール! これは、『村長』として見過ごすわけにはいきません!!

 村人との交流、そう! これは村長としての義務です!!


「そう言うと思って、ちゃんと乃香ちゃんの分もとってあるぞ……」

「さすが、勝じい~! 分かってるぅ~!」

「もちろん、このことは……」

「和子おばあちゃんにはナ・イ・シ・ョ……!」

「「――ハ~ッハッハッハッハ!!」」


 そうと決まれば、迷ってはいけない! さぁ、飲もう飲もう!!

 私はブルーシートの上に胡坐をかいて缶ビールを開ける。


「さ、ベリー村長も!」

「いいのですか?」

「村人との交流は村長の義務ですよ? それに、人数が多い方がお酒は美味しくなるんですよ」

「……そうなのですか。では、お言葉に甘えて――」


 村長も座り、勝じいから缶ビールを受け取る。

 さてさて、皆さん、手にビールは持ちましたか? それでは、改めて――


「「「乾杯~!!」」」


 私は駆けつけ一杯としてビールを一気に飲み干す。

 染みわたるような炭酸の爽快なのどごし、異世界の澄んだ空気ときれいな景色、朝っぱらから飲んでいるという背徳感とが相まって、絶妙なハーモニを奏でる。


「――かぁあああ~! ナ~ハッハッハッハッハ!!」


 まさに、犯罪的うまさッ!!

 …………その後、カルルス=げんき村に『朝からビールまたは酒を飲んだ人は処刑』法が発令されたことは、いうまでもない。

〜乃香の一言レポート〜


 どんなクソアニメでも終わってしまうと寂しくなるものです……結局、私はアレが好きだった、と今になって思うのです――――。


作者) てか、アンタ、異世界にいるのにどうやってアニメ観――ry!?


 次回の更新は3月28日(水)13:30です。

 どうぞお楽しみに!!

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