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私達、異世界の村と合併します!!  作者: NaTa音
第二章 さよならの夏編
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第七十話 誰もいない村のなかで ②

投稿が遅れて申し訳ありません。来週からは通常運転です。


「――なるほど、つまり、うっちーさんはゴブリン達が渡した壺の中に封印されていたから“ツボウチ”さんという渾名をもらい、それが転じて“うっちー”になったのですね」


 一文に纏められました。

 でも、間違ってないから悔しい! 話を聞き終えたベリー村長はポンッと相づちを打って、うんうんと頷きながら満足げに話の幕を切り落とした。

 それも、たった一文で! ここまで、私の一時間近くにわたる辛く厳しい修行の話にはいっさいの感想を言わないどころか、「お疲れ様でした」の労いの言葉もナシ、もはや怒りを通り越して「あっぱれ!」という他なかった。


「なーんでそんなあっさり纏めちゃうんですかぁ~。私とうっちーの汗と涙の修行物語も拾ってくださいよ!」

「僕が知りたかったのは『なぜ、?イフリートが“うっちー”と呼ばれるのか?』ですから。それに、修行が厳しかったのは知っています。僕も師匠から教えを受けた身ですから」

「あ、そうか……。いやでも、あれは地獄でしたね」

「まったくだ。思い出したくもねぇ」

「修行というよりは一方的な暴力……まさに拷問でしたね」


「「「わかるぅー」」」

 

 カシンさんに稽古をつけてもらった(いじめられた)私達三人は揃って首を縦に振った。

 師弟関係上では、ベリー村長は私とうっちーの兄弟子ということになる。

 何よりもあの地獄をともに味わったもの同士、うっちーとベリー村長の間に戦友に近い仲間意識が生まれたのは喜ばしいことだった。


「悪かったなぁ〜。修行が拷問みたいになるような師匠で……」


 背後からの咳払いで私達三人の背筋に悪寒が走る。

 おそるおそる振り向くとカシンさんがこれまでにないほど不気味に満面の笑みを浮かべている。

 しかし、その笑顔から凍りつくような殺気がヒシヒシと伝わってくる。


「テメェらの貴重な意見が聞けて、オレぁ嬉しいぜ? オレもまだまだ修行不足ってことだ。なら、もう一回、オレの修行に付き合ってもらうか。次はもっとうまくやるからよぉ」

「ち、ちがう……! ちがいますちがいます!! そういうことじゃなくて――――」

「お、オレはカシンさんのこと悪魔だなんて思ってません!! だ、だから修行だけは……!!」

「僕はもう修行を終えた身なのでこういうのは……遠慮しますっ!」


「――――にがすかよ」

 

 ジリジリと接近するカシンさんから逃げようとした私達だったが、一瞬で距離をつめられて腕をガッチリ掴まれました。

 腕が握りつぶされそうになりながら、最後に私が見たのは嬉しそーに笑う我らの師匠の恐ろしい目でした。


・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・


「――――イフリート、その機材は集会所に運んどけ! ゴーレムはオレと一緒に送電システムの経路の点検に行くぞ!」

「了解です!」

「…………(コクリ)」


 計画書を見ながらてきぱきと指示を出すカシンさんの指示にドカヘルを被ったうっちーと岩田さんが元気よく応える。

 いったいどこから引っ張り出してきたのか分からなかったが、作業着とドカヘルを着たカシンさんは…………なんというかとても似合っていた。現場監督って感じがなぜかとても板についている。


 カシンさんのお説教から解放された私達は早速、作業を開始した。

 作業といっても発電システムに必要な機材の組み立ては縁のみんなに協力してもらってだいたい終わっているので、後はカシンさんの『銀の鍵』を使ってそれらを縁本部からカルルス=げんき村に搬入して、岩田さんとうっちーが搬入された機材を組み立てて、設置する――というのが、最初の二日間での作業である。

 そして、私はみんなが頑張ってる様をレジャーシートに座ってボーっと眺めてる。取材を行ってるネリーも座ってるだけの私は絵にならないからと早々にどこかに行った。

 この作業、私の出番はないのだ。この作業での現場監督は見ての通りカシンさんで、私の出番はシステム完成後のテストからになる。

 つまり、現状、私は――――暇だ。


「そりゃ、力仕事じゃ私は役に立たないだろうし、完全に分業体制にしようっていったのも私だけど……」


 みんなが頑張ってる最中、ただ見ているだけ、というのは思っていたよりもしんどい。

 なんというか、ソワソワする。自分で決めたことで、何も悪いことしてないはずなのに、自分が何もしていないという現状に罪悪感を覚えてしまう。

 カシンさんは今日までほとんど徹夜で作業してきたんだから少しは寝とけ、なんて急に気を遣ってくるし……でも、とてもそんな気にはなれない。

 役に立たない自分が腹立たしくて、でも何もできることがない状況にやるせない気持ちになり、ついついため息が漏れる。


「――乃香村長」

「あ、ベリー村長……」

 

 カシンさん&岩田さんペアとは別方面の送電システムの経路点検に行っていたベリー村長が戻ってきて、私の隣に腰を下ろす。彼も点検が終わると私と同じ暇組になるのだ。

 あ、そういえばこうしてベリー村長と二人で話すのってずいぶん久しぶりな気がする。


「点検、終わったんですか?」

「えぇ、師匠にも報告しておきました。異常ありませんでしたよ」

「…………そうですか」

「どうしたんです? 元気ないですね? 具合が悪いんですか」

「いえ、そういうわけじゃないんですけど……」

「………………」


 何もしていない自分が嫌だ、なんてくだらないことでベリー村長に心配かけたくない。

 そんな気持ちに襲われて、私は思わずベリー村長から顔を逸らす。

 こんなの逆に相手を心配させるだけって分かっているのに……! ベリー村長は黙ってしまって何も言わない。


「ご、ごめんなさい。でも、本当に大丈夫なんです! 私、元気いっぱ――」

「さっき、師匠から言われました。テメェは鈍い奴だから、と……」

「えっ?」

「たしかに、そのとおりです。こうして、乃香村長が元気をなくしているというのに原因に気づくことがいない。さっきの師匠の言葉がなければ乃香村長が元気をなくしてることにすら気づくことができなかったかもしれません」

 

 情けないですよね、と冗談っぽく苦笑を浮かべてたベリー村長だったが、その眼は真剣そのものだ。

 ベリー村長は私の正面に移動して、その青い目で私のことをしっかり見据えながら告げる。


「乃香村長が言ってくれないと僕はわかりません。悩みがあるなら言ってほしい、僕には乃香村長が“悩んでいること”よりも、“乃香村長が悩んでいる”ことのほうが心配なんです。僕にできることなら、力になりたいんです!」

「………………」

「の、乃香村長!?」

「も、もう……! 泣かせにかからないくださいよぉ~!!」

「えっ? ええええ!?」

 

 真剣なベリー村長の眼差しを見た途端、私の視界が急にぼやける。  

 自分でもよくわからなかったけど、溜まっていた感情が堰を切らしたように溢れてくる。 

 ベリー村長は私が落ち着くまであたふたしてたけど、ちゃんとその後、話を聞いてくれた。


「――あぁ、つまりはやることがなくて、それを気に病んでいたんですね。ただ見てるだけの自分が嫌だったと……」

「そんなことで泣いてしまった自分が恥ずかしい!」

「気にしなくていいですよ。この世界に来たばかりの頃の乃香村長はよく泣いていましたし」

「――――――ッ!! 恥ずかしいこと思い出させないでくださいよッ!」

「いいじゃないですか、これも思い出ですよ」

「忘れてください! そんな思い出!!」

「そういえば、初めて海賊街に行った時ときも…………」

「いやあああああ! もうやめてぇええええ――――!!!」


 これは私の想像だけど、ベリー村長があんなことを言い出したのはきっとカシンさんが気づいて彼に忠告していたからだろう。

 まったく、余計なことしてくれて……ありがとうございます。

 そして、あの時のベリー村長が私を見る目は本気だった。それだけ、私のことを真剣に考えてくれる彼のことを好きになれて本当によかった。 


~乃香の一言レポート~


 考えてみれば、今さらベリー村長の前で泣いたくらいでなんだという話だ。なんせ、私は彼の前で……(※第二十話参照)


 次回の更新は2月27日(水)です。

 春休みは始まりましたか?

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