第六十九話 誰もいない村の中で ①
一部、内容を変更しました。ご了承ください。
*
――――三日後の朝。
今日からカルルス=げんき村の三泊四日の温泉旅行が開催される。
それは同時にノカノミクス第二の杭が発動されるのだ。
シラナミさんと山形さんを先頭に集会所に集まった両村の住人たちは私の用意した『魔法の箱庭』の二列に並ぶ。
「じゃあ、シラナミさん、山形さん。村のみんなのことを頼みます」
「了解した」
「えぇ、任せなさい。アンタもしっかりやるのよ」
「はい! 任せてください! あ、それと二人とも……楽しんで♪」
私が軽くからかうと、シラナミさんと山形さんが顔を見合わせて少し頬を染める。
あれ? シラナミさんはともかく、山形さんはムキーッ! ってなると思ったのになんか意外。
予想外の反応に少し戸惑いつつも、このあとの設営工事が迫っているので箱庭を起動させて、旅行の準備を整える。
「えぇと……このボタンを押せばええの?」
「そうそう。ポチッとね」
「…………ポチッとな」
まず、ボタンを押した勝じいの姿が一瞬にして消える。
目の前で人が消えたことに微かなどよめきが起こるが、続いて和子おばあちゃんもボタンを押して箱庭に入ると、騒いでいた人たちも静かになり次々と箱庭に入っていく。
げんき村の人たちが行ったあとは、カルルス村の人々、前々から温泉に行きたいと言っていたフレアちゃんも飛び入り参加して、最後はシラナミさんと山形さんの二人が箱庭に入り、集会所は静寂に包まれる。
「――さて、みんなも行ったことだし、私達もはじめますか」
箱庭を“ポケット”の中に仕舞って私は集会所をあとにする。
みんなには羽を伸ばしてもらうが、私はこれからの四日間、せわしなく羽を動かし続けることになるだろう。
でも、嫌じゃない。むしろ、村のために何かできるって思うと誇らしくすら思う。
きっと、この世界に来る前なら面倒で投げ出していただろうなぁ。
……………………なんか、変わったなぁ。私。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
集会所の外にはすでに、カシンさん、ベリー村長、そして、元の大きさに戻ったゴーレムの岩田さんが待っていた。
彼らは村のみんなが旅行に行っている間に地脈発電システムの建設にあたる居残り組だ。
「遅ぇぞ。テメェいつまで待たせりゃ気が済むんだ」
「ごめんなさい。お待たせしました!」
「乃香村長、皆さんの転送に問題はありませんでしたか?」
「はい、問題ありません」
「そうですか。それは、良かったです」
私が頷くとベリー村長も応えるように頷き返す。
業務連絡はこれで一旦、終了。次は、いよいよノカノミクスにあたっていくことになる。
さしあたっては、もう一人、協力者を呼ばなくてはならない。
私の契約精霊で、一級魔導師試験をともに戦い抜いた頼もしい兄のような『魔神』を―――。
「じゃあ、そろそろ“うっちー”も召喚しますね」
「うっちー? あぁ、たしか、乃香村長の契約精霊ですよね? どんな精霊なのですか?」
「それは、見てからのお楽しみですよ! よーし……出てきて! うっちー!!」
私が号令をかけると目の前に地面に魔法陣が展開され、爆発音とともに凄まじい勢いで炎が上がる。
そして、踊り狂ったようにうねる橙色の炎はやがて人型に落ち着いて、その真紅の肌を晒す。
岩田さんと同じ、あるいはそれ以上の体躯はすべて真っ赤な皮膚に覆われ、腰辺りまで無造作に伸びた髪は燃え尽きた灰色。
上半身には何も着ておらず、下半身に白いアラジンパンツを纏っている彼の風貌はアラジンとよく似ているが、身体のサイズと皮膚の色が違う。なにより、こっちの方が厳つい顔面をしている。
金色の瞳が鋭く私をにらみつける。それは、RPGなどでよく見る火の魔神そのものだ。
「オレの名はイフリート。すべての魔人の頭目にして、焔より生まれし者――――どうよ、ノカ! この挨拶かっこよくないか?」
「七十点! なかなかカッコよかったよ。特に『頭目』と『焔』という言葉を使ったところが厨二ポイントが高いね」
「だろ? 昨日の夜からずっと考えてたんだよ」
「ただねぇ、最初の“オレの名はイフリート!”ってところなんだけど、“我が名はイフリート”っていうと偉大な魔神さんっぽさがでると思うの」
「なるほどぉ……オレも修行が足りんな。で? 今日はアレをするんだろ? えっと、そうそう! 工事だ工事!!」
「おっと、忘れるところだった。今日は工事の日だよね。でも、その前にみんなにうっちーのこと紹介しないと、先生は知ってるけど、ベリー村長ははじめましてですよね?」
私とうっちーのやりとりをきょとんとした顔で見ていたベリー村長が呼びかけられて我に返ったように頷く。
これは……自分が予想していた精霊の斜め上が登場してきて戸惑ってる顔だな。うん、分かる。よく分かる。
あんなのでも精霊の位としてはカクタンやシルフィーの上位精霊を超える最高位精霊。
精霊の魔法は基本的に単一属性、多くても二重属性という常識であり、うっちーことイフリートをその枠に当てはめるなら一応『火』の属性の精霊だが、本人曰くそれは“イメージを守るパフォーマンス”にすぎないとか。
実際、彼は火以外にもさまざまな属性の魔法を使うし、変身や空間転移等の高等技術も朝飯前、並みの魔術師では足元にも及ばないほどの多彩かつ強力な魔法を使う。
また自身が精霊でありながら中~低位の精霊を召喚することができる規格外っぷり。ジュムジュマ、アラジン、シェヘラザードはうっちーが召喚した眷属の精霊である。
「よぉ! ノカから話は聞いてたぜ、アンタがカルルス…………ぶ、ぶ、ぶぅ? あー、なんだっけ?」
「カルルス=ブアイン=ベルリオーズ」
「そうそう! それだ! ベルリオーズ、だな?」
「え、えぇ……はじめまして。うっちーさんでよろしいでしょうか?」
「おう! いいだろ? “うっちー”って名前、たしかに“イフリート”ってのもかっこよくていかしてるが、“うっちー”ってのもなかなか可愛くていかしてんだ!」
そう言って、うっちーは笑顔でベリー村長の肩を豪快にひっぱたく。
見てのとおり、悪気はないのだが力加減が苦手で筋肉質でマッチョなベリー村長もうっちーの力の前でに身体を揺らされていた。
もっとも、ベリー村長だからこそ『揺れる』で済んでいるが、並の人間がうっちーのスキンシップを受けると良くて肩の脱臼、骨が弱ければ粉砕骨折もあり得る。
「し、しかし……! い、いてて! すごい力ですね――いてッ!」
「うっちー、その辺にしてあげて。ベリー村長、痛がってるよ」
「おぉ、わりぃな。昔っから加減するのが苦手でな、イフリータにもよく怒られたもんだ」
「いえ、お気になさらず。ところで、どうして“うっちー”という名前なのですか? あなたの真名は“イフリート”、特に文字が被っているわけでも語感が似ているわけでもなく関連が見えてこないのですが」
「あぁ、それはですね……知りたいです?」
「知りたいです」
妙なことに疑問を覚えるなぁ……。しかし、知りたいというなら語って聞かせましょう!
私がなぜ、すべての魔人の頭目にして、焔より生まれし者である魔神イフリートを“うっちー”という渾名で呼ぶのか…………それには、幾多の壮絶な戦場を共にした私と彼との友情物語があるのだ。
「あれは、修行が始まって一週間が経った頃でした――――」
〜乃香の一言レポート〜
ちなみにうっちーが好きなのは火の魔法、嫌いなのは土の魔法です。詳しくは『イフリート』で検索してみてください。
FFとかガン〇ムシリーズの記事がでると思うのですが、クルアーンに出てくるイフリートの記事を見れば分かります。
次回の更新は2月13日(水)です。
バレンタインチョコ待ってます!




