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私達、異世界の村と合併します!!  作者: NaTa音
第二章 さよならの夏編
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第六十八話 カルルス=げんき村温泉物語 ①

温泉旅館……いきてぇ


「――――皆さんに、三泊四日の温泉旅行をプレゼントしますッ!!」 

 

 会場にいるみんなの視線が一気にポスターに集中する。

 天井の照明付近で浮遊していたフレアちゃんも演壇のほうへ降りてきて興味津々にポスターを眺める。そういえば、彼女、いつか温泉に行きたいって言ってたよね。


「温泉旅行じゃと? いやぁ〜うれしいのぉ〜!」

「いいじゃない! アタシもいきたいなぁ~」

「でしょ!? でしょ!? じゃあ、みんなれっつごー!!」

「ちょっと待ちなさい! 温泉って、アンタいったい私達をどこへ連れて行くの?」


 温泉旅行と聞いてすっかりノリノリになった勝じい達に対して警戒心むき出しの山形さんが話を遮る。

 ノリの悪い三十路だなぁ〜と思いつつ、やはり行き先を告げないお先真っ暗ミステリーツアーでは不安になるのだろう。

 では、仕方ない。私は再びポケットを発動させて、両手で抱えれるほどの大きさの黒檀でできた木箱を取り出す。


「今回の行き先は……………………こちらッ!!」


 黒檀の箱を演壇の上にドンッと置く。

 上品な光沢を放つそれには金属でできたボタンが埋め込まれていること以外はいたって普通の高そうなぁ箱である。

 行き先を告げられたはずなのにいきなり箱を取り出された村のみんなは頭の上に『?』を浮かべていた。いいねぇ~! その反応を見たかった!!

 しかし、この会場にただ一人、この箱を見た瞬間、顔色を変えた人物がいた。


「はこ?」

「――――名付けて『カルルス=げんき村温泉物語ver2.0』!!」

「その箱はまさか……」

「さすがはベリー村長、ご察しが早い! そのとおり、この箱はまさに『魔法の箱庭(ミニチュア・ボックス)』です!! 先日のデッド・パニックは魔力保持者でなければ箱の中に入ることのできないものでしたが、今回のカルルス=げんき村温泉物語は魔力を持っていなくても箱に入ることができる改良型なんです!」


 どうだ! 私がこの村に帰ってきてから約一ヶ月、毎日コツコツコツ地道な作業の末に完成させた自信作は!! 

 ドヤ顔をする私に対して『魔法の箱庭』というワードを聞いたベリー村長が曇る。


「それは、非常にすばらしいのですが……」

「なにか?」

「その、それは以前にトラブルが――――」

「な・に・か?」

「…………いえ、なんでもないです」


 私はニッコリと満面の笑みを浮べてベリー村長を圧迫する。

 余計なことを言うじゃねぇ……! 日本人はなぁ、そういうのにうるさいんだよ!! 過去の不祥事やら事故を棚に上げて人の揚げ足ばっかり取って、ぜんぜん自分の意見を言わねぇカスみたいなせいじ――――ッ!!! おっと、いけないいけない、少し興奮しすぎた。 

 それに、そもそも、あのバグはカシンさんが引き起こした人為的なもので、箱庭自体にはなんの不備もなかったんだよ!!


「みなさん、この箱は『魔法の箱庭』といって中には小さな温泉旅館が入っています。この箱についているボタンを押せば……あ〜ら不思議! 身体がちっちゃくなってこのお宿に泊まることができるというわけです」

「ほぉお〜、乃香ちゃんが魔法使いみたいなこと言っとる」

「いや、魔法使いだから私。この『魔法の箱庭』なら旅館までの所要時間はボタンを押すだけ、たったの三秒! 長時間の移動による腰痛、トイレ休憩でパーキングエリアのたびに降りる手間もナシ。さらに、旅館内は完全貸し切りで人の目を気にせずのびのびとリラックスできます! これを機にカルルス村、げんき村の親睦を深めようではありませんか!!」


 扇動者よろしく壇上で両手を高らかに挙げてスピーチを締めくくった私は達成感に満たされていた。

 一回も噛まなかった! チョー嬉しい!!


 すると、会場からぽつぽつと小さな拍手が起こり、やがて会場全体を拍手の音頭がなり響いた。

 山形さんも腑に落ちないところはあるものの、まぁいいかといった感じで拍手している。


「ありがとうございます。さて、今回の温泉旅行に際しまして、まことに残念ですが……私、愛知 乃香とカルルス=ベリー村長は参加いたしません」

「「「えぇ~!?」」」


 会場から驚きの声がわきおこる。

 村全体の温泉旅行で村長二人が不参加という事態にみんなは驚きと疑問が隠せないようだ。

 しかし、ノカノミクスの二本目の杭を実行するためには私とベリー村長はこの村に残っていなければならない。

 今日、村のみんなに集まってもらったのはそのことをしっかりと説明するためだ。もう、村のみんなに隠し事はしない、きちんと筋を通してやり遂げたいのだ。


「どういうことよ、アンタたちが行かないって!?」

「説明します。――――皆さん、聞いてください!! なぜ、私とベリー村長がこの旅行に参加しないのか、それはこの村で大規模な工事を行うためです」


 工事……!? 一旦、静まった会場に再びどよめきが走る。

 

「女神ベリリの死の呪いを解除してすでに数か月の時が経ちました。この村は絶望的な状況を打破したのです。しかし、いまだにこの村の存続の危機に瀕しているのもまた事実。もはや、自給自足での存続は不可能とされた今、他の都市との交流を行い、この村を発展させていくしか道はありません」

「「「………………」」」

「ノカノミクスの一本目において他の都市との交流を行うための基礎は完成しました。しかし、それを恒常的に運用していくためには、この村の発電システムだけでは不十分です。先日の大規模な停電はそのシステムの試験運用の際に引き起こされてしまいました」


 げんき村の皆さん、申し訳ございませんでした、私は誠意を込めて頭を下げる。

 返事を返すものはいない。先をつづけろ、そういうことだろう。


「そうなってしまった今、私達の村には新たな発電システムを導入する必要があるのです。これから行うノカノミクスでは、その発電システムを設置する工事を行います。その工事は大変な危険を伴い、なおかつ大規模なものです。村の皆さんを危険な目に合わせるわけにはいかない、ゆえに今回の温泉旅行を敢行することにしました。どうかご理解を…………」


 要するにこれは、温泉旅行と体のいいことを騙った人払いなのだ。

 でも、どうか理解してほしい。地脈発電は未知の部分も多く、どんな危険があるか分からない以上、村のみんなを巻き込むわけにはいかない。

 私は再び、頭をさげる。今度のは謝罪ではなく、懇願の意を込めてだ。


 すると、誰かが壇上に登り、頭を下げている私の肩に軽く手を乗せた。 

 思わず顔を上げると、勝じいがニコニコとしながらこっちを見ていた。


「な~んじゃ、そんなことなら早くいってほしかったわい」

「……えっ?」

「ええよ。乃香ちゃんの言うこと、思っとることよ~く分かった。この村のために頑張ってくれとるんじゃろ? なら、頭なんか下げんと胸を張って前を見なさい」

「勝じい……」


 勝じいは力強く頷く。

 彼の後ろにいるみんなも笑顔でこちらをみている。私は頭を上げると再びマイクを手に取る。

 そして、勝じいに言われたとおりに胸を張って息を吸い込んだ。


「――――みんな、ありがとう!! 私、がんばるから! この村のために精一杯がんばるから、そのためにみんなも協力してください!!」


 瞬間、会場から割れんばかりの拍手喝采が起こる。

 私は、この時、はじめてこの村の村長になれた気がした。


 …………あっ、そういえば言い忘れてた。

 今回の旅行の幹事について。


「そうそう。つきましては、今回の旅行の幹事……山形さんとシラナミさんにお願いします!!」

「……………………えっ?」


 幹事に任命された山形さんの顔が火がついたように真っ赤に染まる。

 ね? 言ったでしょ? 悪い話じゃないって!

 ニヤニヤが止まらない私はあたふたする山形さんに「お任せします! 村長代理!!」とかつて就いていた役職を盾にさらに念押しする。


「了解任務」


 シラナミさんは立ち上がって大きく頷いた。

 元々、彼は工事要員としてこの村に呼んだんだけど、山形さんといい感じになっていたし、ここは温泉旅行でさらに距離を縮めてもらいたいところだ。

 それに、シラナミさんは真面目でとても頼りがいのある人だ。それには実際に彼と拳を交えた私が保証する。


 さぁ、シラナミ=カイジョー! 舞台は用意してやったぞ! あとはあなた次第だ!! ファイトおおおお!!!

 私はシラナミさんに全力のグーサインを送った。彼もまた真顔でグーサインを返した。

〜乃香の一言レポート〜


 なんでバージョン2.0なのって細かいこと気にする人のために一応、補足説明。

 バージョン1.0はスパリゾートだったんですけど、エステサロンとかジャグジーとかつくるのダルかったからやめました……。山形さん的にはスパリゾートのほうがよかったかな?


 次回の更新は2月6日(水)です。

 どうぞお楽しみに!!

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