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私達、異世界の村と合併します!!  作者: NaTa音
第二章 さよならの夏編
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第六十六話 始動『ノカノミクス』 ④

今回はシリアス多め……そして、


「それで、彼女はどうしてこの村に?」


 ベリー村長の問いかけにネリーは一瞬、目を泳がせたがすぐに彼と目を合わせて、自己紹介をする。


「改めて、ワタシはW・W社の記者をしています。ネリー=ブライトといいます。今回、この村を訪れたのは、アイチ ノカさんが実施します“ノカノミクス”を取材させてもらうためです」

「記事にするのですか?」

「はい。とても面白い記事が書けると思います」


 ネリーは迷うことなく言った。

 一級魔導師試験の一件から、彼女は自分の書く記事に自信をつけてきているようで、その顔には記者としての誇りが全面に出ていた。

 しかし、あくまで記事は書く、という彼女の意気込みにベリー村長の表情が少し強張りをみせる。

 

「さきほども言いましたように、私はまだ取材の許可を出したわけではありません。この村のことが、あまり世間には知られたくないので」

「はい、それは……」

「私のかつての二つ名を知っているということは、私の事情も把握しているのでしょう。その上で、取材をして記事を書きたい、というなら相応の理由を要求します。ただ、面白半分にそんなものを書かれては困る」


 ベリー村長は最後の言葉にトゲを含ませてネリーに言い放った。

 まったく、めちゃくちゃな物言いをする人だ……。

 記者なのだから、「これは、面白い!」と思ったから取材をする、それで十分な理由になるだろう。

 めんどくさい頑固モードに入った彼をみながら私は嘆息をもらす。


 端的にいえば、『黒き牙獣のベルリオーズ』がカルルス村に潜んでいる、という事実を明るみに出したくないだけなのだろう。

 彼は大戦の英雄でありながら、国を裏切った超一級の戦犯でもある。もし、居所がバレて捕まってしまえば即死刑である。

 ネリーには、このことを伝えたうえで村に来てもらっている。

 それは、もちろん、私が彼女を信頼しているからだ――――。


「理由なら、もちろんあります」


 その一言には、強い意志

 ネリーは、「失礼します」といって机の上に立つとベリー村長をしっかりと見据えて真っ向から向かい合う。

 

「聞かせてください」

「はい。ワタシがノカノミクスの記事を書く理由……それは、『恩返し』です」

「恩返し、ですか? 話がみえませんね」

「一級魔導師試験で瀕死だったワタシはノカさんに命を救われました。そして、真っ暗だったワタシの人生を変えてくれた恩人なんです」


 ネリーの語気に熱がこもっていく。

 その微塵の迷いもない言葉にベリー村長も驚きの表情とともに黙って彼女の話を聞く。


「ノカノミクスの最終目標は『持続可能な村づくり』。カルルス=げんき村は高齢の方が多く住んでいます。十年後、二十年後には彼らはこの世を去っていることでしょう」


 ノカノミクスの最終目標、いずれ、おじいちゃんやおばあちゃんたちがこの世を去るということ、まるで我が事であるかのようにネリーは一言一言を噛みしめるように話す。


「彼らがこの世を去ったとき、村に新しく入る人がいなければ村はそこで廃れて消えてしまう。持続可能な村――それはつまり、新たな入居者の確保をすること、ですよね」

「うん、おじいちゃん達がいなくなったあと、この世界に住む人たちにこの村に入居して……大きくならなくてもいい、ささやかでもいい、この村が続いてほしい。たしかに、難しいかもしれません。異世界から来た『村』なんて異質もいいところ。どの世界でも、異端は弾かれ、(・・・・・・・)この世から消されます(・・・・・・・・・・)…………」

「乃香村長?」


 ふと、脳裏にネリーと出会ったときの光景が過り、私は言葉を遮って彼女を見た。

 そういえば、ネリーもそうだった。

 獣人で、奴隷になるか毛皮になるかの運命の中で、必死に抗って、抗って、抗って、記者になって世の中を変えようとしている。

 人間社会に紛れ込んだ『異物(ネリー)』。人間から、そしてあろうことか仲間の獣人からも差別され、迫害されて心身ともにボロボロになっても彼女は諦めなかった。


 ――――異質だからって消える必要はないのです。異質にだって、抗うくらいの権利はあります。


「異質だからといって、この村が消えてしまう状況を看過することなんてできません。私達は最後の最後まで希望を捨てることなく抗わなければいけません。それに、私、この村が大好きですから」

 

 背筋を伸ばし、胸を張り、自信をもって断言できる。

 すべては、この村のために……! 私が愛するみんなのために、このノカノミクスを成功してみせる!!


 ネリーは満足げな笑みを浮かべて親指を立ててみせた。

 あとはワタシに任せてください、ネリーは再びベリー村長に向き合うと毅然とした態度でいう。


「――ワタシにできることは記事を書くことだけ。でも、ワタシはワタシのできることで、皆さんの力になりたい! お願いします!! どうか、ワタシにこの村の取材をさせてください」

「ベリー村長、私からもお願いします」


 ネリーが深々と頭を下げる。

 続いて、私もベリー村長にむかって頭を下げて、懇願する。


 ベリー村長は答えない。重い沈黙が続くなか、私とネリーは頭を下げたまま、答えを待つ。

 そして、どれくらい経ったかわからない間の後に、やっと折れたベリー村長の降参のため息が漏れる。


「お二人の熱意には負けましたよ。わかりました、取材を許可します。ただし、約束はしっかりと守ってくださいね」

「ありがとうございます!」

「……それと、良い記事を書いてください。これも約束ですよ?」

「はい、必ず。お任せください」


 ようやく笑みをこぼしたベリー村長はそっと、ネリーにむかって手を差し出した。

 差し出された手に彼女は一瞬、とまどいをみせたがすぐに手をとって固い握手を結ぶ。

 交渉は成立した。


「やったね! ネリー!!」

「えぇ、ノカさん! ありがとうございます!!」

 

 私とネリーは喜びのハイタッチをする。

 心地のよい軽快な音が村長室に響いた。これで、ノカノミクスの準備は整った。


 そして、“あの人”との約束が果たせる。

 私は、シラナミさんのほうを見てぐっと親指を立てた――――。


・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・


 ノカノミクスの詳細は後日、改めて説明の場を設けることとして、私達は解散した。

 解散後、私はカシンさんに引き止められ部屋に残った。

 なんでも、大事な話があるそうで、煙草をちらつかせて、オレは真剣なんだぞアピールをするカシンさんに私は渋々、付き合うことにした。


「……それで、話ってなんです? 私、あんまり時間がないんですけど」

「あぁ、そうだな」


 そう言って、カシンさんは一度、火をつけた煙草に口をつけて紫煙を吐き出した。

 急いでるって言ってるのに、話を聞いてなかったのか? この人は?

 妙な間を置くカシンさんに私は少し苛つきながら先を急かす。


「もったいぶらないで言ってください。話ってなんですか?」

「そうだな。じゃあ、単刀直入に言うぞ」

「はいはい、どうぞ早く言ってください」

「――――お前、狙われてるぞ。誰かに」


 煙草から昇った紫煙が部屋の空気と混ざって霧散していく。

 おそろしく静かな驚愕と恐怖が私の身体をがんじがらめにして、縛りあげる。

 カシンさんの目は決して噓を吐いているように見えない。そもそも、煙草を吸っているときにカシンさんは決して嘘を言わない。


「オレがこの部屋に来たときだ。テメェらが入っていた箱庭を何者かが持ち去ろうとしていた。そいつはオレが来たのと同時に魔術で姿を消して逃げやがった」

「そ、その人の顔とか見てないですか?」

「いや、フードかぶってたし顔は見てねぇ。ただ、あれは大人じゃねーな。ガキくらいの背丈だ(・・・・・・・・・)

「――――ガキ?」


 カシンさんの言葉を思わず繰り返した私の脳裏に一人の人物が浮かび上がる。

 この村にはマリアちゃんを始めとして何人か子供はいるが、魔術を行使できる子供は限られてくる。

 一級魔導師を目指すマリアちゃん、そして…………忘れじの丘の館に住む少女。


「サチちゃん……? でも、どうして」

「それに、ステージが消えたあのバグだってオレが仕掛けたもんじゃねぇしな」

「えっ? だって、最後のあの先生ゾンビは……」

「あれは、オレがやった。だが、その前だ。ボスステージを消し、エリア内の敵キャラを一体だけにしたあのバグはそいつが引き起こしたもんだ」


 つまり、カシンさんはバグを起こしていたゲームにさらにバグを仕掛けて、すべてのバグを引き起こしたように見せかけて、その場を収めてくれていたのだ。

 しかし、その実、カシンさんが仕掛けたバグは一つ。最後に私達をフルボッコにしたカシンさんゾンビの召喚だけ――――。


「ボスステージの消失に、強くした敵を一体だけにしてテメェらに殲滅させて、自滅を防ぐ……わかるだろ? そいつはテメェらをゲームのなかに閉じ込めようとしてたんだ。そして、箱庭ごと持ち出して誘拐成功って算段だったんだろうな」

「じゃあ、あの先生ゾンビは……?」

「テメェらを箱庭の外に出すように絶対に勝てないレベルで召喚したもんだ。死ねば外に出られる機能は生きていたからな」


 あの鬼のように強いカシンさんゾンビは、カシンさんが私達を助けるために召喚したものだったのか……。


「――まぁ、とにかくだ。犯人は決まってねぇが、決定的な犯行の現場を見ちまったんだ。また奴は来る可能性は十分にある」

「……………………」

「こうなっちまった以上、お前も“対策”をしなきゃならねぇ。そこで、だ……コレを使え」


 カシンさんが懐から取り出したのはボウリング球ほどの大きさの真っ青な水晶玉だった。

 覗いてみると、幾重にも連なった魔法陣が水晶玉の内部に浮かんでいる。

 その術式を見て、私はコレを何に使うのかすぐに分かった。こんなもの、とても偶然に持ち合わせていたとは思えない代物だ。


「先生はもしかして、こうなること、分かってたんですか?」

「……………………」

 

 返事をしないまま、カシンさんはソファから立ち上がると扉にむかって歩き出す。

 その横顔はいつになく冷たく、そして、悲しいものだった。


「どうするかはお前の勝手だ。だが、これ以上はしてやれねぇ――――」

 

 ゆっくりと扉が閉まる。

 カチャリ、乾いた音が誰もいない村長室に響いた。

〜乃香の一言レポート〜



 決意。私は、生まれ変わる。



次回の更新は1月23日(水)です。

どうぞお楽しみに!!



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