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私達、異世界の村と合併します!!  作者: NaTa音
第0章 チュートリアル編
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第四話 絶句……。 女神の『いたずら』


 カルルス村とげんき村が合併し、カルルス=げんき村となった今、私達は互いの村が抱える課題を互いに協力して解決しなければならない。


 ということで、まずはカルルス村に赴いて、畑の“土”の状況を確認することになった。

 

 カルルス村内はよくファンタジーの世界なんかで出てくるテンプレートな『村』の景観をしている。

 舗装されていない土の道に、中世ヨーロッパを思わせる建築物――。

 少し違う点は村の中央を走る広い道だけは不規則な石を緻密に敷き詰めた舗装がされていることぐらいだ。

 その道はカルルス村のはるか後方にそびえ立つ山脈の方まで続いている。


 おそらく、これは『街道』であろう。

 ということは、この村は他の村や都市と交易をしている可能性が高い。


 ――完全に中世ヨーロッパと合致してるわけじゃあないんだなぁ……。


 私は村の景観に興味津々であっちを見たりこっちを見たりして、ベリー村長の向かう先なんて視界に入っていなかった。

 時おり、建物の窓から村の住人が物珍しそうに私達を覗いていた。彼らともいずれ仲良くできるといいな。


 やがて、一行が足を止めたので、私もそれに合わせて足を止める。 

 どうやら、目的地の畑に着いたようだ。


「――ここなのですが……」


 どれどれ、どんな風に――



「………………………………えっ?」



 絶句した。

 異世界に転移したときも混乱はしたが、言葉を失うほどではなかった。

 でも、私はこの光景に完全に言葉を持っていかれた。


「なにこれ?」


 一瞬、悪夢でも見ているのではないかと錯覚するほど、おぞましい光景が私達の前に広がっていた。


 本来、私達の知っている畑のイメージカラーといえば『茶』と『緑』の二色だろう。

 しかし――私の眼前に広がっている畑の色は一面が『紫』と『黒』。

 畑の土は毒々しい紫色に染まり、そこに生えていたはずの野菜やら雑草は全て一様に燃え尽きた炭のように黒く枯れ果てている。


「これが、女神『ベリリ』の“いたずら”によって死の呪いが撒き散らされた土地です……」


 私は農業についてはまるで素人で、土のことなんか分かるはずがないと思っていた。 

 でも、これは素人が見てもここの土がヤバいってことが分かる! 

 

 こんなもの、『いたずら』なんかじゃ済まされない。

 紛れもない、これは女神が引き起こした『災害』だ……!


「気をつけてください。死の呪いですから、その土に触れようものなら即座に生命活動の全ての権限を剥奪されて死に至ります」


 ベリー村長は小難しい言い方をしているが、簡単にいえば『触れれば即死』というわけである。

 異世界の物語では実にありきたりだが、実際、こうして見てみると、かなり恐ろしい。


「マジですか……」

「マジですよ」

 

 私の認識がまるで甘かった。

 てっきり『いたずら』なんて言うものだから私達でもどうにかできるだろう、と心のどこかで高を括っていた。


 しかし、これは…………うん、無理じゃね?


「とりあえず、今はどうしようもない、そういうしかありませんね」

「そうですか……」

「なんだい? 救世主さんよ、ずいぶんと弱気じゃないか」

 

 ナイスバディの女性がからかうように私の背中を叩く。

 いや、あなたが強気すぎるだけです。


 でも、とりあえず、今は土に触れれたら即死なんて近づかないほうが、いいに決まってる。

 まして、畑に入るなんて、もってのほかだ。


「分かった? おじいちゃん? 畑に入っちゃダメだ――」

「なんじゃ、この土? ペンキでもぶち撒けたのかのぉ〜?」

「フンッ! こんな不味そうな土じゃ美味い野菜は育たんな」

「………………ッ!?」



 おぉーーーーーーーーーーいッ!!! 何をしとるんだジジィ共ぉ!?!?



 なんと、触れれば即死の土が広がる畑に勝じいと勲おじいちゃんは堂々と侵入し、こともあろうか、その呪いに汚染された土を素手で取っているではないか!


「何してんの!? 村長の話聞いてた!? それに、触れると死んじゃう……ん…………だよ……………?」


 って、あれ? 死んでない!? それどころか、普通にピンピンしてる。

 

 私は何がなんだか理解できず、慌てて村長のほうを見る。

 しかし、その村長も細い目を限界まで見開いて言葉を失っていた。


「そんな、バカな……ッ!? 仮にも冥界の最高神がかけた呪いなのに……」


 ベリー村長も今の事態にまったく理解が追いついていないらしい。

 別に村長の言葉を疑っているわけじゃないんだけど、まるで、その呪いが()のようだった……。


「でも、変じゃのぉ〜。この呪い(ペンキ)まみれの土、ワシらが触るとただの土(・・・・)に戻って(・・・・)しまう(・・・)んじゃ」


 勝じいが首を傾げながら両手にすくい上げた土を私達に見せる。

 彼の手の上に乗っていたのは、なんの変哲もない『ただの土』だった。


「ベリー村長、これって……ッ!?」

「ありえない……。女神の呪いが……………『浄化』されている!?」


・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・


 通常、『呪い』と呼ばれる類のものは、どれだけショボくても解呪するのに1〜2日、『浄化』と呼ばれる完全に呪いを払拭する作業に1日――計3日間を要する。

 まして、その呪いがこの世界の最高神クラスがかけた呪いならば、それは何世代にも渡って解呪、浄化をしなければならない。

 

 しかし、勝じい達はその最高神がかけた呪いをたった、数秒(・・)で解呪と浄化をやってのけていた。

 何の魔術も魔法の心得もない、ただの老人が引き起こしたのは天変地異ともいえる『奇跡』だった……。


「か、勝じいさん……」


 ベリー村長が少し震えた声で勝じいの名を呼ぶ。

 ――あ、しまった! ベリー村長に勝じいの正式名称を教えてなかった……。


「なんじゃい? べりー村長?」

「その、手に持った土を私に見してもらえませんか?」

「この土をか? エエぞ」


 勝じいがゆっくりと手に乗った土をベリー村長の前に差し出す。

 差し出された土にベリー村長と共していた件の夫婦も食い入るように覗き込む。


「村長……」

「コレって……」

「えぇ、おそらく……」


 ベリー村長はぎこちない動作で頷くと、ゆっくりとその土に手を伸ばす。

 彼の手が土まであと、数ミリというところでピタリッと止まる。


「村長……ッ!!」

「分かっています。確かめなければ――」


 ベリー村長が意を決したように恐る恐る指先で土に触れる。

 その様子を私も固唾を飲んで、見守る……いや、見守ることしかできなかった。


「…………………大丈夫。大丈夫です! この土は完全に浄化されていますッ!!」

「おおおおおおおおぉ!!」

「アンタ! やったぁあ!! やったよぉ!」


 ベリー村長は歓喜の表情を浮かべて浄化された土を握りしめる。

 夫婦は涙を流して(夫)抱き合って喜びを分かち合っている。

 

「なんで、そんなに喜んどるんか知らんけど……とにかく、めでたいのぉ〜!」

「フンッ」


 事情をよく知らない勝じいも目の前の三人の喜び様に顔をほころばせて拍手する。

 勲おじいちゃんは相変わらず無愛想に鼻を鳴らすだけだった。


 喜びが治まりきらないベリー村長が私の手を両手でしっかりと握りしめてくる。

 昨日、握手を交わしたとはいえ、イケメンに握手をされることに慣れていない私は頬と耳がカーッと熱くなるのが感じられた。


「乃香村長! ありがとうございます!! これで村は救われます。これも全て、貴女方が召喚されたおかげです……」

「い、いえッ! お礼ならおじいちゃん達に言ってください。私は何も――」

「やはり、プポン様の予言は当たりました! これなら、今年の夏にでも農作物の栽培が再開できます」

「……そうですか」


 私の口から出た声は心なしか落胆に似た冷たさがあった。

 嬉しいはずなのに、喜ばしいことなのに――――どうして、私は焦っているのだろう?


 もしかして、私…………嫉妬してるの?


 私が『救世主』として呼ばれたのに、大見得を切ってまで、げんき村の『村長』にもなったのに……まだ、なにもできてなくて、それどころか他の人に手柄まで盗られて……なんで? なんで? なんで――――。


 ダメだッ!! なに考えてるんだ、私は!? こんなところで下らない見栄を張ってなにになるっていうんだッ!!


「………………」

「乃香村長?」

「………………………」

「乃香村長!」


 ベリー村長の大きな声に私はふと我に返った。

 見ると、彼が心配そうな顔で私の目を覗き込んでいる。


「は、はい! なんでしょう?」

「そんな険しい顔してどうしたんですか?」


 しまった……! 顔に出ちゃっていた!!

 なにか、うまい言い訳を――!


「はい、カルルス村の土壌改善はおじいちゃん達の力を借りれば何とかなるでしょう。しかし、まだ達成するべき課題は残されています。勝って兜の緒を締めよ――希望が見えた今こそ、気を引き締めるべきだと思います」

「……ハッ。まったくそのとおりです。申し訳ありません、村をまとめる役目の僕がはしゃいでいてはダメですね」

「はい。お互い村をまとめる者同士、油断なく確実に事を進めていきましょう」

「わかりました。肝に銘じておきます……!」


 何やってんだ、私……。


 自分の身勝手な嫉妬で喜んでいる村長にきつく当たって。

 こんなの、ただの八つ当たりじゃないか――。


 ふと、昨夜の山形さんの言葉が胸を突き刺す。


 ――覚悟も責任もない(ガキ)が前に立つんじゃないわよ!


 覚悟、責任……私にはそれがあるのかな? もしかして、ただ、変わり始めている自分に酔っているだけじゃないのかな……?

 だとしたら、私は――――



「――では、明日からげんき村(そちら)に警備団を送りますので、よろしくお願いします」

「…………はい」

「では、また明日」

「…………はい」


 肩を落として、げんき村に帰ろうとした私は突然、背後から声をかけられる。

 例の夫婦の気の強い奥さんからだ。


「――ねぇッ!」

「はい?」

 

 私が振り向いて、首を傾げると奥さんは爽快な笑顔を浮かべて、


「今日さ、アンタ、(ウチ)に泊まっていかないかい?」

~乃香の一言レポート~

 

 私が土いじりをしたことがある最後の記憶は保育施設での芋ほりで、冬眠中のミツバチを掘り当てて腰を抜かした、という忌々しい思い出です(作者の実話に基づく)。


 次回の更新は3月26日(月)、13:30です!

 次回もお楽しみに!!


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