第六十話 魔法の箱庭 ③
愛知 乃香、思考が多少狡猾になっております。ご了承ください。
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見事、一時の娯楽をベリー村長から勝ち取った私とマリアちゃんはさっそく『デッド・パニック』をプレイしようとしたその時だった。
「――ところで、そのゲームは僕達も遊ぶことはできますか?」
「えっ? あ、はい。最大で四人まで同時にプレイすることができますけど……」
なんと、このベリー村長、よりにもよって私とマリアちゃんのハネムーン(ゾンビがいっぱい)に図々しくも入り込もうとしてきたのだ。
「おのれ! 私とマリアちゃんの蜜月を邪魔するな! KY村長!!」と吠えてやりたかったが、そこで感情をむき出しにするようでは大人ではない。
できる限り穏便にことを運ぶのが大人のやり方である。
「では、僕達も混ぜてはいただけませんか?」
「ってことは、シラナミさんも?」
「うむ」
「はぁ……私はおっけーですけど。マリアちゃん、どうする?」
どうだ! 自分はあくまでOK(嘘)の立場を取りつつ、主導権をマリアちゃんに渡すことでやんわりと断れる悪魔的な私の作戦は!!
先ほどの確執からマリアちゃんが断る可能性は高い。せっかくのハネムーンをKY村長と物好き堅物剣士に邪魔はさせない。
さぁ、マリアちゃんよ……決断をするのだ。
君はただ一言「ごめんなさい」と言えばいいんだよ。さぁ、さぁ、さぁ――――!!!
「……ま、仕方ないから入れてあげる」
ナイスツンデレ! ありがとうございます(泣)!!
マリアちゃんは顔をそっぽに向けながらも少し嬉しそうな表情で二人の参加を承諾した。
彼女から言わせれば、私と二人で遊ぶより、みんなでワイワイやったほうが楽しいのだろう。
そのあたりはやはり子供というか、なんとも彼女らしい決定だ。
「――ですって!」
「ありがとうございます」
「感謝する」
慈悲深きマリアちゃんの承諾により参加を決定したベリー村長とシラナミさんは素直に頭を下げた。
私もこれ以上、卑屈に彼女とのハネムーンを狙うのは止めよう。チャンスなんてこの先、いくらでもあるからね。
「それで、これはどのように開始するのでしょう?」
「はい、その箱に骸骨のボタンがありますよね? ここに四人同時に触れて魔力を流すと自動的にゲームが開始されます」
「へぇ〜、ここでいいの?」
「そうそう。詳しい説明はチュートリアルでしてくれるので、さっそく始めましょう!!」
ベリー村長達は同時に頷くと、箱庭の骸骨のボタンに指を添える。
私も続いてボタンに触れる。全員がボタンに触ったところで私が「いっせーので!」と合図を送り、その場にいる四人が箱庭に魔力を注ぐ。
「あ、そうそう。皆さん、最初に難易度を聞かれると思うんですが、今回は初プレイなんで“ノーマル”でお願いします」
「はーい」
「分かりました。ノーマル、ですね」
「了解」
ちなみに、この魔力は体内にある魔力でも良いし、私のように龍脈から引き出したものでも問題ない。
瞬間、四人の魔力に反応した箱庭の骸骨の口がパカッと開き、空洞になっている目、鼻、口から眩い光を放ち部屋を私達を呑み込む。
さぁ、いよいよゲームの始まりだ――――。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
『――起動確認。プレイヤー1、アイチ ノカ。ゲームマスターです』
機械的な女性の声が暗闇に響く。
その声にゲームの開始を確認した私はゆっくりと目を開ける。
しかし、目を開けたところで目の前の光景に対した違いはなく、相変わらず視界は暗闇に覆われていた。
ただ、唯一の相違点は真っ暗な世界の中に『DEAD PANIC』という真っ白な文字が不気味に光を放ち浮かんでいることだ。
『難易度を設定してください。難易度はイージー、ノーマル、ハード、ベリーハードの四つから選べます』
「ノーマルで」
『承認。続いて、初期装備の選択に移行します。装備を選んでください』
すると、『DEAD PANIC』の文字が消えて武器選択の画面が投影される。
最初に選べる武器は五種類――。
・自身の魔力を弾丸に変えて発砲するオールラウンダー『魔道拳銃』。
・刀身に魔力を集中させ流れるようなコンボを組める近距離の鬼『マジック・ナイフ』。
・カートリッジで属性が変化する攻撃と支援の両立『マジック・ボウガン』。
・拳の魔力を破壊力に変える、シンプルイズベストのステゴロ番長『マジックサック』
・膨大な魔力消費と引き換えに多彩な戦法が可能の魔道の真髄『魔杖(スタッフ、ワンド、ステッキから選択可)』
「じゃあ、私は魔道拳銃にするわ」
『了解。初期装備を魔道拳銃に設定します』
ちなみに初期装備を拳銃に設定したも、道中で獲得した武器であれば変更可能だ。
もちろん、最初からラスボスまで装備を変えずにクリアする縛りプレイも可能である。
しかし、気になるのは私以外がどの武器選択したかである。ノーマルの難易度とはいえパーティバランスに気を付けなければゲームオーバーもあり得るくらいだ。
『他のプレイヤーが装備を選択しています。しばらくお待ちください……』
「この画面から他の人の装備は分からないし。大丈夫かな……」
「――他のプレイヤーのエントリーが完了しました。これよりチュートリアルステージに移行します」
「お、いけたみたい」
最悪、全員が魔道拳銃を選んでいれば何とかクリアできるだろうし、それにいざとなったら私の持つゲームマスター権限を使って強制的にゲームから出ればいい。
そんなことを考えながら待っていると、思ったよりも早く皆の初期装備が決まり、目の前が真っ白になりチュートリアルステージへと移行する。
チュートリアルステージは小高い丘の上で、眼下には街が見える。
プレイヤー1の私から順に、ベリー村長、マリアちゃん、シラナミさんがそれぞれの装備を手にして召喚される。
ベリー村長はマジックサック、マリアちゃんはボウガン、シラナミさんはナイフを装備していた。
偶然にも心配していたパーティーバランス問題はこれで解決した。
「……ここは、海賊街ですか?」
ベリー村長が辺りをキョロキョロと見回しながら呟く。
明らかに彼は眼下に広がる海賊街に動揺していた。
元々、無法者がのさばる街なのでヤバいと一目見て分かる街だが明らかに様子がおかしい。
街の無残に破壊されており、あちこちで火の手が上がっている。
残骸には血痕が幾つも残り、空は不気味な赤色――そこは無秩序すら崩壊した廃墟と化していた。
「はい。デッド・パニックは海賊街が舞台になっていますから」
「噂には聞いていたが、これほど不気味とは」
「…………」
海賊街を見たことがないシラナミさんはこれを海賊街だと信じ切り、マリアちゃんにいたっては絶句している。
ちょっと、デザインに凝りすぎたかな。子供にはちょっとショッキングな光景だよね。
「二人とも、これゲームだから。普段の海賊街はこんな不気味じゃないよ? まぁ、コワい人達はたくさんいるけど……」
「そうなのか?」
「そうなの?」
「そうですよ。ゲームだから不気味に設定してあるの」
二人同時に首を傾げるシラナミさんとマリアちゃん(カワイイ)。
すると、件の性格の悪いナレーターの声が再び響く。
『――全プレイヤーのエントリーを確認。これより、チュートリアルを開始します』
〜乃香の一言レポート〜
本作で登場した『マジックサック』は「武器はダセぇ! 殴れば解決(物理)!!」の某ステゴロ主義の師匠達ての希望で初期装備になりました。




