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私達、異世界の村と合併します!!  作者: NaTa音
第二章 さよならの夏編
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第五十七話 なんてったって大英雄 ②

ベリー村長が久しぶりな気がします。


「――ごめんなさい、シラナミさん(・・・・・・)。さっきはおじさんなんて言っちゃって……」

「気にしないでほしい。私も大人げない反応をしてしまった」


 ペコリと頭を下げるマリアちゃんにシラナミさんも申し訳なさそうに頭を振る。

 おじさん、と言われた直後、頭と身体がフリーズしたシラナミさんを見てマリアちゃんは自分の失敗に気付き、すぐに謝ったのだ。

 ロリの何気ない一言はときにどんな暴言よりも深く心に刺さる、という名言があるがそれも頷ける。

 私もマリアちゃんから『おばさん』なんて言われた日には山形さんと一緒になって自分磨きの鬼と化すだろう。


「私、そんちょーにお客さんが来たって伝えてくるね!」

「うん、お願いね」


 切り替えが早いマリアちゃんはくるりと踵を返して家のなかへかけて行く。

 マリアちゃんが家に入っていった十秒後くらいにシラナミさんが「では、私も行くとしよう……」という感じで歩きだそうとした彼の腕を私は反射的に掴む。


「ノカ、どうした?」

「――いい? これだけは言っておくけど……ぜっっったい! ベリー村長とケンカしないでね。間違えて魔剣なんか出したら私、激おこだよ?」

「了解した。貴公との誓い必ず果たしてみせよう」

「本当に頼むよ?」


 念を押す私にシラナミさんは堂々と頷く。

 その自信がいったいどこから湧いてくるのか分からないが、今はとにかく彼を信じるしかない。

 私は一度、深呼吸をして気持ちを整えるとシラナミさんと共にベリー村長のいる部屋へと足を踏み入れる。


「――おや、乃香村長。思ったよりも早い到着でしたね」


 マリアちゃんからの報告を受けたのだろうベリー村長はやんわりとした声音で椅子から立ち上がって軽く会釈する。

 机の上にはまだ湯気の立つ白いカップが二つ。

 どうやらマリアちゃんと二人で鍛錬後のティータイムを楽しんでいたようである。ずるい、うらやましい。


「えぇ、シラナミさんが早くベリー村長に会いたいと急かしたもので」

「それはそれは、非常に嬉しいかぎりですね」

「あ、えっと……ベリー村長、紹介します。こちらがシラナミ=カイジョーさん。今回のノカノミスクに協力してくれました」

「彼が“縁”から来たという――」


 ベリー村長はゆっくりとシラナミさんに握手を求める。

 差し出された手に彼は慌てて鎧の籠手を外して顕になった素の右手をぎこちない動作で差し出す。


「では、改めまして……ようこそカルルス=げんき村へ。歓迎します。私の名はカルルス=ベリー。この村の村長をやっている……ということはもう聞いていますね。どうぞ気軽に“ベリー”と呼んでください」

「………いや、彼の英雄にそのような軽口は畏れ多い。ベルリオーズ殿、そう呼ばせていただきたい」

「英雄だなんてとんでもない。私はしがない農村の村長です。ですが、シラナミさんがそう呼びたいというのであれば強要はしません」

「貴殿の寛大に感謝する」


 うわっ、固っった……。ガチガチじゃん。

 

 元々、表情に乏しいシラナミさんが憧れの大英雄カルルス=ベリーを前にしたプレッシャーからアイ○ンマンを通り越してロボットみたいな動きで腰を折る。

 そんな彼に鈍感なベリー村長も彼の緊張を悟り、苦笑いしながら椅子に座るように促す。

 

「えっと、立ち話もあれですから……どうぞこちらへ。マリアさん、乃香村長とシラナミさんのお茶を淹れてください」

「はいは~い〜。まったく、そんちょーは人使いあらいよねぇ~。ワタシは鍛錬でへとへとなのにさぁ~」

「お茶を美味しく入れることも立派な修行ですよ」


 そんなの詭弁だよ~、とぼやきながらマリアちゃんは渋々といった様子で薬缶の前に立つと手から火の玉を放ち、灰がかった薪を再び赤く染める。

 そうか、マリアちゃんは火属性の魔術を使うのか……私はかつて彼女が岩をドラゴンよろしく炎を吐いて溶かしていたのを思い出す。

 あのときに比べたらかなり繊細な操作もできるようになっている。


「マリアちゃん、ずいぶん上達しましたね。精霊化も完全ではないですけど習得してたみたいですし」

「あの歳で精霊化とは……もう、一級魔導師の試験を受けても問題ないのでは?」

「いえ、まだまだです。確かにマリアさんの魔術は威力、技術どれをとっても一流の魔導師と変わらないほどの力をもっています。しかし、如何せん精神的な面が弱いので調子が良い時と悪い時の差が激しいのですよ」

「実戦において精神の安定は技術の向上より重視される。いついかなる場合でも冷静に状況を分析し、慎重にときに大胆に最善の一手を見出す力は要となるだろう。とくに、一級魔導師試験は受験者同士の実戦となる故、この能力が欠けていては致命的だ」


 ベリー村長の指摘にシラナミさんがうんうんと頷きながら同調する。

 片や、ベリー村長もただ同調するだけでなく自分の言いたいこと以上のことまで言ってくれたシラナミさんに「同士、見つけた!」と言わんばかりに顔が明るくなる。


「さすがはシラナミさん。的確な指摘です」

「いや、私などまだ未熟も未熟。それで、カルルス殿は彼女のどのような修行を?」

「そうですね。やはり、魔力を扱う魔術の修行では肉体の強化は疎かになりがちです。午前中は魔力で稼働する人形を用いた魔力を一切使わない実戦訓練を行っています」

「グラム帝国の軍隊でも実戦訓練は導入されているが魔力を使わないのは――」


 マリアちゃんの修行法を皮切りに先ほどの緊張がまるで嘘のように打ち解けた二人。

 その後、日頃のストレスを愚痴に変えて喋りまくる女子高校生のようにベラベラとアツい武人トーーク! が展開されていく。


「ねぇねぇ、そんちょー二号? シラナミおじさん(・・・・)っていつもあんなんなの?」

「いや、普段はあんなんじゃないんだけど仲間を見つけて嬉しいんだよ、きっと。あ、マリアちゃん、お茶のおかわり♡」

「はいはい、それしても男子ってどうしておバカさんよね~」


 天真爛漫なマリアちゃんも呆れてしまうほどの武人トーーク! は実に二時間にも及び、私がマリアちゃんに注いでもらったお茶の杯数がいよいよ二ケタに突入するというところで二人の語り合いがようやく一段落つく。


 ちなみに二人のトークにうんざりしたマリアちゃんは一足先にご帰宅になりました。


「――さて、今日はもうこの辺で」

「あぁ、今日はとても有意義な話し合いができた」

「では」

「あぁ……」


 二人は椅子から立ち上がり机を挟んでがっちりと固い握手を交わす。

 そして、満足な顔をしながらシラナミさんは颯爽と踵を返して帰ろうとする。


「――――すとーーーーぷ!! 何帰ろうとしてるの!?」

「私はもう満足した。カルルス殿は素晴らしい、以上」

「素晴らしい、以上――じゃないでしょ! 本題を忘れるな! 本題を!!」

「本題? それはカルルス殿との会話ではないのか?」


 私は間違っていない。私の本題は彼の英雄との対話だ。


 と、断言している表情(かお)のシラナミさんに私は再びチョップを入れる。

 そりゃ、シラナミさんの中ではベリー村長との対話が優先順位的には上かもしれないが、そもそも自分が召喚された理由を忘れては困る。


「“ノカノミスク”でしょ。ほら、座って。ベリー村長も座ってください」

「あぁ、そうだったな」

「あっ、そうでしたね」


 こいつらぁ……頭の中には戦うことしかないのか!? もう、ドラゴンボ○ルの世界に転生してしまえ!!


 アホ二人を座らせた私はさっさと本題にはいる。

 本題とは“ノカノミクス”の報告だ。シラナミ=カイジョーを召喚した目的、その先の展望、そして二本目のこと――今日はそのために来たのだ。


「――さてと、まずベリー村長には改めてノカノミクスについて話しておかなくてはなりません」

「はい」

「ノカノミクスはこのカルルス=げんき村を十年、二十年先も存続させるため、村を発展させるための三つの施策です。そして、今回、シラナミ=カイジョーという人物をこの村に呼んだのは他でもなくノカノミクスの一本目の杭が発動したのです」

「一本目の杭? たしか山賊のみなさんがこの村に来たときに言っていましたね」


 そのとおり、私は頷く。

 机に座り私と向き合って話に頷くベリー村長のは先の武人トーーク! をしていた時の嬉しそうな表情から一転して真剣な顔になる。

 この切り替えの早さは弟子であるマリアちゃんにもしっかり引き継がれている。

 これなら安心して話せそうだ。

〜乃香の一言レポート〜


 男子は単純だが面倒くさい。以上!!

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