第三話 私達、異世界の村と合併します!!
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――翌朝、アスファルトで舗装された道と石畳の道がくっきりと別れている、げんき村とカルルス村の境界付近にて。
「おはようございます。乃香さん。どうやら、話はまとまったようですね」
「はい、おはようございます。おじいちゃん、おばあちゃん達のおかげでなんとか意見をまとめることができました」
私、勝じい、勲おじいちゃんの『げんき村代表団』と、ベリー村長とガタイのいい日焼けの男性……そして、私の目を一際惹いたのが男性の隣にいる女性。
スラリと伸びた白く綺麗な腕は一片の贅肉もなく引き締まり、モデルをやっていると言っても誰も疑わないくらい見事な曲線を描いたくびれ――そして、何より目を引くのが爆発的な大きさをした立派な“おっぱい”! 普通なら垂れてきてもおかしくないのに、彼女の胸に付いた二つの巨大な双球は見事な張りを保っている。
そのおっぱいの上にある顔は射抜くような鋭い眼差しを携えた右目を猛獣が獲物を狙うように無駄のないでこちらを凝視している。
対する左目は髪を下ろして隠しているが、わずかに黒い眼帯が見える。
まさに、神の不平等を体現したかのようなナイスバディである。
しかも、彼女は紺のタンクトップに黒のズボンとブーツという自分の身体を見せつけるような格好をしている。
まぁ、見せつけられるだけのものをお持ちですからね、文句は言えませんよ。
「ほぉ……若けぇのに大した面構えじゃねーか。オレぁ好きだぜ! そういうめんこくて強そうな女わよ!! ハハハッ!!!」
日焼けの男性が豪快な笑いと共に私に舐めるような視線を送る。
愛知 乃香、生まれて初めてのナンパの瞬間である。
感想は……まぁ、こんなもんか、って感じです。
というか、この村の人達は今、大ピンチなんだよね?
「……どうも」
「ハッハッハ! そのそっけねぇ感じもたまんねぇぜ!!」
しつこいなぁ~。
私が一言、言い返えしてやろうとしたその時、男性の耳を先の女性が思いっきり引っ張り上げた。
しかも、満面の笑顔で――。
「ほぉ~、目の前に嫁がいるのに他の娘をナンパするなんて、ずいぶんと肝っ玉がでかくなったもんだ……」
「いてててて! 冗談だよ!! ははッ……だから引っ張るのはやめて~! 耳がちぎれちゃうよぉ~!!」
男性が情けない悲鳴を上げながらジタバタする。
まぁ、自業自得なので同情もなにもないけどね……。
「はぁん? アタシとの関係は冗談で済むってことかい?」
「いや、違うんだよ! これは……その……言葉のアヤってやつだ!」
「なるほど……次はもちこっとマシな言い訳を考えるんだね!」
女性が男性の耳から手を離す。
解放された男性は耳を押さえながらその場でうずくまって呻き声を上げた。
あんた、既婚者だったのかよ……。
そりゃあ、そうなるよ。
気が済んだ女性はさっぱりとした笑顔をこちらに向けて、手を差し出す。
「ウチのバカ亭主が失礼を働いたねぇ。すまなかったよ」
この世界にも握手の習慣はあるんだ。
私は出された手を恐る恐る取った。女性特有のマシュマロのような柔らかい手だ。
見た目通りの口調と態度だ。
「いえ……お気になさらず」
「アハハ! そんな畏まらなくてもいいさね! アンタはアタシ達の救世主様なんだから、もっとドカーンと構えてりゃいいんだよ!!」
そう言って女性が私の背中を力強い手で数回叩く。
とても女性が叩いたとは思えない衝撃と痛みに私の身体はガクガクと揺れる。
「――アウッ! アウッ!」
「なんだい? ずいぶんと痩せっぽちな体つきじゃないか。そんなんじゃ、大きくならない、ぞ?」
そう言って、女性は手に持て余すほど大きな胸を持ち上げてみせる。
なに? なんの嫌がらせ?
えぇ! そうですよ! どーせ私は貧乳ですよ~だッ!!
「おぉ〜! 巨乳じゃ!! しかもエエ尻しとる! ナイスバディじゃの!! げんき村では見れんかったからのぉ〜。いや、眼福眼福♪」
げんき村では見れなかった――つまり、それは私の胸では満足できなかった、ということ。
そりゃ、こんなおじいちゃんに満足してもらっても複雑な気分になるだけだが、満足しなかったらしなかったで、なんかムカつく!
「おや? ジィさん、アンタなかなかお目が高いじゃないかい! どうだい? ひと触りしてくかい?」
「うん♪ ビバ! 巨乳!!」
スケベジジィめ〜! たかが、『おっぱい』一つで私の敵になりやがって〜!!
昨日の感動を返せッ! ちくしょー! 男ってのは歳をとっても『おっぱい』一つで簡単に寝返る薄情な生き物だったんだねッ!!
「なーんてね! アタシの乳はバカ亭主のもんさ!」
「おや? 残念……ハッハッハ! フラレたわい!!」
勝じいが残念さを微塵も感じさせない豪快な笑い声を上げる。
昨日はイケオジにすら見えた彼がたった一晩で、人妻のおっぱいを狙うスケベジジィになるとは、世の中なにが起こるか分からないものだ。
「くだらん戯れ合いはその辺にしろ。まったく、いつまで経っても話が進まんだろ……。儂らがここに来たのは女の胸に現を抜かすためではないだろ」
勲おじいちゃんが呆れた口調で話に割り込む。
あぁ、良かった! 勲おじいちゃんは私の味方だ!!
やっぱり、ツンデレだけど大好きだよ!
「そうだよ、勝じい。いい加減にしないと、和子おばあちゃんにチクるよ?」
「おぅー!? 乃香ちゃんまで……ッ! むぅ……そうじゃな。そろそろ本題に入ろうかの」
勝じいもようやく、諦めたところで私は終始ヘラヘラ笑っていたベリー村長のほうを向く。
ってか、あんたも村長ならこの不毛な茶番をサッサと止めてよ!
「……では、挨拶も済んだことですし。そうですね、本題に入りましょう」
「え、えぇ……」
あれ、挨拶だったんだ……。
あんな挨拶を毎日しなきゃならないなら、やっぱり合併するの止めようかな…………。
「では、改めて――よろしくお願いします。乃香さん」
「えぇ、こちらこそ。ベリー村長」
私とベリー村長はがっちりと握手を交わす。
こうして、げんき村とカルルス村は共にこの世界を生き抜く為に『カルルス=げんき村』として生まれ変わり、その第一歩を踏み出した――。
「ところで、げんき村の代表者は誰でしょうか?」
やっぱり、聞いてきた。まぁ、これから村同士を合併しようっていうんだから当然のことか……。
ま、流れ的に誰がなるのか、分かってるんだけどね。
私は無言で勝じいと勲おじいちゃんを見る。
二人も無言のまま、ゆっくりと頷いた――。
「――私です。私が、このげんき村の代表です!」
うん! 今までのどの言葉よりも自信を持ってはっきりと言えた気がする。
私の言葉にベリー村長は一瞬、驚いた顔をしたが、すぐに優しい笑顔を浮かべて、
「そうですか。では、乃香村長、これから共に頑張っていきましょう」
「はいッ!!」
普通に終わると決めつけていた私の人生に突然、訪れた奇跡――。
何が起こるか分からない、一分……ううん、一秒先すら見えないこの世界で私は生きていく。
きっと、これは神様が私にくれた最後のチャンス。
何をするべきかは分かってる! なら、後はわき目もふらずに走ればいい!! 背中は皆が押してくれたからッ!!!
〜乃香の一言レポート〜
男って何歳になってもおっぱい至上主義なんですかね? 貧乳はステータスって言うのは嘘ですよね??
作者) そうですね、僕はおっぱいは大きいほうが――ry。
さて、次回の更新は明日3月25日(日)12:30です。
次回もお楽しみに!!