第五十二話 どっちが本物!? 舎弟対決!! ③
憲兵さんこっちです。
*
細田さんvsいたずら妖精の百人一首対決、勝敗は――――いたずら妖精の勝ち!!
十四枚と十一枚と接戦だったが、最後の二枚をシェヘラザードが取り、いたずら妖精たちに軍配が上がった。
勝負に負けた細田さんたちは足の痺れと悔しさで座布団から仰向けに倒れ込み、ジタバタと手足を振った。
「ちっきしょお~! 悔しいぃいい!!」
「はい、じゃあ一回戦目はいたずら妖精の勝ちね」
「ははッ……本気でやり過ぎましたか、次はもう少し手加減しましょう」
「フンッ! たかだか一勝したくらいでいい気になるなよ」
Bは心底悔しそうな表情で勝ち誇ってるジュムジュマを睨みつける。
たぶん、この中で一番負けん気が強いのはAでなくBなのかもしれない。こりゃ、一回勝負したくらいじゃ終わりそうないな……。
そのとき、みんなの広場の扉が開かれて向こうから少しご機嫌斜めな顔をした山形さんがジャージ姿で現れた。
顔はもちろんすっぴんだが、この世界になじめず無理に着飾って化粧していたころよりよっぽど血色がよい。
「ちょっとなによ、朝からギャーギャーと……」
「山形さん、もう昼前ですよ」
「うるさいわね。私が目を覚まして、起きたその時点で『朝』なのよ」
「自己中もそこまでいけば神話クラスですね」
山形さんは私の皮肉を欠伸をして華麗にスルーすると、今さっきまで対決していた細田さんといたずら妖精に目をやる。
やっべッ! アラジンとシェヘラザードはまだ人型だからいいとしても、ジュムジュマに至ってはタキシードを着たしゃべる骸骨だ。彼女に驚かないわけがない……ッ!!
「あ、山形さん! こ、これは――」
「ふぅん、面白い精霊を連れているわね。アンタの使い魔かしら?」
「へぇ?」
ファンタジーノベルのような世界を受け入れることができず、ヒステリックを起こすほどだった山形さんの口から今、たしかに『精霊』と『使い魔』というおよそこの世界でしか聞かないであろう単語を平然と口にしたのだ。
あの山形 絵美がファンタジー用語を喋っている――その事実は私を間抜けな表情で唖然とさせるには充分な効果を発揮した。
「なによ、鳩が豆鉄砲を食ったような顔して……」
「いや、だって山形さんってなんていうんですか、ファンタジー的なのってイミワカンナイって言ってたじゃないですか? それなのに、今、精霊とか使い魔とかいう言葉を平然と使ってるのは不自然というか気持ち悪いというか……」
「気持ち悪いってどういうこと!? あのねぇ、さすがに三か月もこんな村の村長やってればイヤでも慣れるわよ。ベリーさんからも色々教えてもらったし」
アンタの顔のほうが気持ち悪いわよ、と山形さんは最後に仕返しの釘を刺してきた。
しかし、なるほど。村長代行を押し付けたことが思わぬ功を奏したというわけか……。
“縁”のみんなにもこの結果を報告しておこう。今後、他の世界から人が来たときに役に立つ。
「それで、さっきから何をバタバタやってるのかしら?」
「あぁ、実はですね――」
私は山形さんにこれまでの経緯をざっくりと説明した。
自分から聞いてきたくせに、彼女はあまり興味がなさそうに聞いていたが『勝負の内容を第三者に決めてもらう』というところに食いつきを見せた。
「へぇ~、勝負の内容は第三者が決めるねぇ~」
「えぇ、もしよければ山形さんからも何か提案があれば、ぜひ!」
「じゃ~あ、私をコーディネートして、よりセレブでエレガントなコーデをした方が勝ちっていう――――」
「「「「「――おつかれさまでした~」」」」」
山形さんが勝負の内容を言い終わらないうちに私と細田さんといたずら妖精はまったくの同タイミングで口をそろえて退室した。
閉めた扉の向こうから「アンタ達、打ち合わせでもしてたの!?」と彼女の素っ頓狂な叫びが聞こえてきたが、気にせず外に出た。
良くも悪くも空気の読める舎弟と使い魔である。
「さてと、これからどうする?」
「オレはさっきのリベンジがしたいです!!」
「同感だ。このままこの骸骨共に負けたままじゃいられない」
「何度やっても同じことですよ?」
どうやら両者、やる気は今だに充分なようである。
あまり気が進まないが、こうなれば互いの気が済むまでその『対決』とやらに付き合ってやりますか。
「それじゃ、次行こうか!」
「「「おーーッ!!」」」
――その後、細田さんといたずら妖精の対決は三十四戦にもわたって繰り広げられた。
それは、腕相撲、真剣衰弱、バレーボール、たたいてかぶってジャンケンポン……etc.
しかし、戦績はお互いに十四勝十四敗とイーブンで未だに決着はついていない、というのが現状である。
「はぁ……はぁ……くそっ! いいかげん負けやがれ!!」
「ふっ……おいそれと負けるわけにはいきませんよ。あなた達こそ往生際が悪いですよ。あなた達はよく頑張りましたよ」
「その称賛は貴様らに勝ってからノカにもらうものだ」
一体何がそこまで彼らを突き動かしているのか、両者の戦意は落ちることをしらない。
そして、私自身もいたずら妖精たちを相手にここまで食い下がる細田さんの奮戦ぶりには正直、驚いている。
最初は細田さん達がいたずら妖精に完敗して、泣きついてきたところをどう慰めようか、と考えていたが彼らの頑張りをみているとこの対決を楽しんでいた。
しかし、互いの体力的にも次の三十五戦目が最後になるだろう――いや、明日の予定に響くので次で最後にしてもらわないと困る。
「ねぇねぇ、そろそろ次で最後にしない?」
「いえ、ですが、まだまだ……」
「いや、そりゃ、みんなはまだ余裕があるかもだけど、私は明日の予定のために機械を組み立てないといけないの。だから、次で最終決戦ってことにしましょ」
「――なら、ここは最終決戦らしく魔法戦で勝敗を決めましょうぜ!!」
「ダメです! 最初に言ったでしょ? この村の中では一切の暴力行為を禁止しますって」
ちぇ〜、とAはつまらなさそうに足元の小石を蹴っ飛ばす。
魔法戦なんかしたらせっかく復活させた畑がめちゃめちゃになってしまう。
第一、魔法戦で細田さんたちが私のいたずら妖精に勝てる可能性は限りなくゼロである。
そんな理不尽はさすがに可哀想なので暴力によらない決闘を選んでいたのに最終決戦で魔法戦なんて本末転倒もいいところである。
「了解です。それで、最終決戦は何で対決するんです?」
「フッフッフ……この愛知 乃香、あなたたちの姉貴分として相応しい勝負を考えてあるわ!」
「おぉ! さすがはノカ様!! それで、いったいどのような内容なのでしょう?」
「ずばり! そう――――『野球拳』ですっ!!」
私は両腕を大きく広げ、天に向かって高らかに宣言した。
これぞ、最終決戦に相応しい至高の対決! 少女たちが互いの衣服とプライドを賭けて争う大一番!! まさに最終決戦!!!
だが、実際のところ細田さん(人間体)の裸は一緒にお風呂に入ったときに既に拝見済みだ。しかし、問題はそこではない。
ジャンケンに負けて羞恥と悔しさに顔を真っ赤にしながら一枚、また一枚と衣服を脱いでいく様を私は見たい!!
えっ? 変態だって? いやいや、ここまで両者の正直なところ“不毛”といえる争いに付き合ってきたわけですし、こんな辺境の村じゃ娯楽も無いわけですし、ちょっとくらいご褒美がないとやってられませんて……。
それに、明日からノカノミクスの一本目の杭が実行されるので、景気づけにパーッ! とやらないといけないわけですよ。
“仕事”と“欲望”には忠実であれ、をモットーに新・愛知 乃香は突き進んでいく所存でございます!!
「……姉御、質問いいですか?」
「はい、なんでしょう?」
「その“ヤキューケン”っていうのはいったいどんな勝負です?」
「あぁ、えっとねぇ~。野球拳っていうのは――――」
ルール、というか存在自体を知らないという細田さんたちに大まかな説明をした。
すると、おバカな――もとい素直なAは「なるほど、相手の服を剥いで羞恥に晒す……まさに最終決戦に相応しいですね!!」と期待どおりの反応。
Cは別段、深くは考えてないようで「ふーん、いいんじゃない?」と若干ドライ気味な反応。
そして、問題はBである。
「おい、ノカ。その野球拳とやら明らかにお前の欲がみえるのだが……」
「えっ、ソ、ソンナコトナイヨー。ワタシハ公正公平ナ勝負ヲ提案シタダケデス」
「思っきり、片言じゃないか」
ジト目になったBの疑いの視線が私に突き刺さる。
この娘……まさか、私のご褒美を阻止するつもりか!? そんなことはたとえ舎弟で美少女のBでも許さない。
ええい! 強行採決だ!!
「まぁまぁ、時間もないわけだし、細かいことは気にせずに――レッツ♪ 野球拳! さて、最初は誰からいく?」
「おい、きけぇーーーー!!」
私が問いかけると細田さん側から、いたずら妖精側からそれぞれの代表が一歩前にでた。
赤髪の男の娘と骸骨の執事――最初の対決はAとジュムジュマのようだ。
「よっしゃ! その洒落た服を剥ぎ取ってやるぜ!!」
「よろしい、ノカ様の前で痴態をさらすといいでしょう」
両者とも戦意は十分。
しかし、いまいち私が気乗りしない。
うーん、初戦が『男の娘』と『骸骨執事』かぁ……Aはまぁ需要アリだが、ジュムジュマに至っては全裸を超越しちゃった“骨”だしなぁ~。需要とかそういう問題じゃないんだよね。
さて、どうしたものか……。そうだっ!
「――ねぇ、ジュムジュマ。これは言い忘れていたことなんだけど……野球拳って実は女子限定の対決なんだ」
「なんと!? 左様でしたか。すると、私は……」
「でも、男の子も女の子になれば問題ないのよ? だから、ジュムジュマは変身魔法を使って女の子になれないかしら?」
「かしこまりました――こんな感じでよろしいでしょうか?」
ジュムジュマは変身魔法を発動し、自分の身体を眩い光で包む。
発光が収まり、現れた彼のその姿に私は絶句した。
服装はそのままだが、某死の支配者ようなおどろおどろしい髑髏の顔はキリっとした眉毛に射抜くような瞳、凛然とした顔立ちと肩まで伸びた真紅の髪が印象的な美女に変身した。
細田さん達やシェヘラザードのような美少女ではなく、知性を感じさせるクールビューティーな大人の女性という感じだが、アリかナシかと問われれば“大アリ”である。
「アリ! アリだよ、ジュムジュ!!」
「ありがとうございます。これで、野球拳の参加資格は得られましたね」
「はい、問題なしです! よっしゃぁ! テンション上がるなぁ~!!」
美女vs男の娘の衣服とプライドを賭けた野球拳――ここに開幕!!
~乃香の一言レポート~
そういえば、Aはなにも言ってこなかったけど……まさか、あの子、自分の需要を理解してる!? A、恐ろしい子……っ!!




