第五十一話 どっちが本物!? 舎弟対決!! ②
今、対決の火蓋が切って落とされる!!
*
――翌日。
予定された時刻に細田さんは森から現れ、私はいたずら妖精を呼び出した。
どうやら一晩経ったことで両者とも少しは冷静になれたようでAもジュムジュマもいきなり暴言を言い合うことはなかったが、二人の目には明らかに昨日より濃い戦意と敵意が現れていた。
こりゃ、早いうちに決着をつけてあげないと。まぁ、私としてはケンカはしてほしくないんだけど……。
「んじゃ、どっちが本物の舎弟か決めようじゃねぇか!」
「えぇ……望むところです!」
Aが意気揚々と開戦の火蓋を切る。
ジュムジュマも纏っている炎を燃え上がらせて戦意をみせる。
「それで、対決ってどうするの? ルールとか全然聞いてないんだけど……」
「とりあえず、勝負の内容はここの村の人に決めてもらおうかと思ってるんです」
「え? なんで?」
「それは……」
「――完全な第三者に決めてもらったほうが『公平』、というわけですか。なるほど、考えましたね」
Aに代わって説明をしようとしたBの言葉を遮ってジュムジュマがドヤ顔(をした気がする)をして代弁した。
自分の出番を乗っ取られたBは目に涙を溜めてプルプル震えながら頬を膨らませる。カワイイ……。
「き、きさまぁ~!」
「まぁまぁ……怒らない怒らない。」
「おや、失礼。少ない出番を奪ってしまいましたね」
「むっきーーーーーっ!!」
「ジュムジュマも煽らないの……」
顔を真っ赤にして怒るBをジュムジュマが顎をカタカタ鳴らしながら煽る。
このままではまた埒が明かなくなるなるので、ジュムジュマとBを適当に諫めて話を進める。
「まぁ、勝負を公平にしようってのは分かったから……それで、最初は誰に勝負を決めてもらうの?」
「和子さんに決めてもらいます」
「和子おばあちゃんか……まぁ、無難なところだね」
「ワコ様……一体誰でしょう?」
ジュムジュマは首をかしげる。
そうか、いたずら妖精はこの村の人とコンタクトをとるのは初めてだったか。
まぁ、会えばわかるよ、そう言って私は彼らを和子おばあちゃんの家に向かった。
和子おばあちゃんと必然的にセットで出てくる勝じいは初めこそ、ジュムジュマの姿に驚きをこそしたが彼の好意的な挨拶にすぐに彼を受け入れた。
「――というわけ、なんだけど……」
「まぁまぁ、そうですか。でも、勝負といっても何がいいかしら?」
「なるべく暴力的なやつナシでお願いね」
「じゃあ……“百人一首”なんてどうでしょう?」
和子おばあちゃんがポンッと手を叩いて提案する。
百人一首か……まぁ、悪くないかな。明確な勝負になるし、暴力沙汰にもならなそうだ。
「百人一首か……オレ達は何度かやったことがありますね」
「そうなの? いつの間に」
「姐御が修行に出てる間に村の皆さんと何度かご一緒しました」
「あ、なるほど。あの後も村に遊びに来てたのね」
孫が三人もできたみたいで楽しかったですよ~、と和子おばあちゃんも嬉しそうにAの手を取る。
うんうん、こうやってこっちの世界の人との交流が取れているのは実に微笑ましい。
しかし、細田さん側に経験があるとなると若干、いたずら妖精たちが不利になるな……。
「どうする、ジュムジュマ? 細田さんたちは百人一首をやったことあるみたいだけど」
「御心配には及びません。たかが数度の経験の差など我々のスペックで十分に埋めることができましょう。我々はノカ様の使い魔、敗北はありえません」
「って、言ってるけど。細田さんたちはどうする?」
「へッ! 上等だッ!!」
Aは拳を合わせて気合を入れる。Bも闘志を燃やした瞳で頷く。Cは……まぁ、多分やる気だろう。
こうして、細田さんvsいたずら妖精のどっちが本物!? 舎弟対決の第一回戦は『百人一首』決定した。
実際、私が高校生のときには『百人一首大会』なるものが毎年、冬に開催されて生徒たちは底冷えのする体育館に集められ、百人一首をやらされたものである。冷え性の私にとっては拷問のような行事だったが今じゃいい思い出……ってわけでもないか。
「それじゃ、まずはみんなの広場に行こう。たしか、そこに百人一首のセットがあったから」
「オッス!」
「了解です」
「あらあら、面白そう。私達も見に行っていいかしら?」
和子おばあちゃんたちが目をキラキラさせながら同行を求める。
うーん、多分、魔法を使ってケンカにはならないと思うし、万が一、喧嘩になっても私が結界を張ればいいか……。
それに、この村じゃ娯楽も少ないだろう。退屈はボケの進行を早めるとも聞く。
「いいよ。じゃあ、和子おばあちゃんには読み手をお願いしてもいい?」
「えぇえぇ、いいですとも。楽しみですね。読み手をするなんて何年ぶりかしら」
「じゃ、私は審判やろうかな」
その後、私達は集会所の“みんなの広場”に集まり、プレイマット(多分、他の名称があるけど知らない)の上に取り札を二十五枚散らばせた。
本来のルールであれば、百枚すべてを使うが今回はいたずら妖精たちが初めてということもあり、和子おばあちゃんと相談して選んだ二十五の札を使うことにした。
いたずら妖精たちには今回、使用する札を暗記するための時間を十五分ほど設けた。
さらに、追加のルールとして取る側は読み手が上の句と下の句を読み終えるまで札を取ることができない。もし、読み手が読み終える前に札を取ってしまうと、その札は相手側のものになり取ってしまった選手は『お手つき』となり一回休みとなる。
「それでは、両者、座って…………はい、礼」
「よろしくお願いするぜ」
「よろしくお願いいたします」
アラジンとシェヘラザードは身体の大きさが足りないため、細田さんと同じくらいまで魔法で大きさせていただきました。
さらに、頭だけのジュムジュマは私の魔法で身体を生成し、参戦しております。ちなみに生成した身体は彼の頭に合わせて骨のボディにして執事が着るようなタキシードにしました。
「では、読ませていただきますね。――はるすぎて なつきにけらし しろたえの~」
「――おりゃああああああああっ!!」
和子おばあちゃんが下の句を読み終わらないうちにAが奇声を上げながら取り札に身体ごと突っ込んだ。
彼が突っ込んだ衝撃で取り札が宙を舞う。舞い上がった札の中からAが素早く動作で札を一枚キャッチすると満面の笑みで私に見せてくる。
「姐御! やりましたよ!!」
「はい、お手つき。A、一回休み」
「なんですと!? あっ! しまった……!!」
「バカか……さっきノカからルールの説明を受けただろう」
しまった!! という顔をするAにBが蟀谷をおさえて呆れた様子でため息をつく。
初手でいきなりお手つきとは……Aは本当に私の説明を聞いていたんだろうか?
まぁ、聞いてにしろ聞いてなかったにしろ札に向かって全力アタックをかます彼の闘志が本物であることはよ~く分かった。
最初の札はAのお手つきにより、いたずら妖精チームに渡る。
「開始早々ルール違反とは、やはりゴブリン。頭の程度が知れていますね。さて、三対二になったところで次の札もいただくとしましょう」
「ふん、調子に乗るなよ。Aなど最初から戦力として数えていないさ。むしろ肩の荷がおりたよ」
「ちょっと!? B、オマエどっちの味方だよ!?」
いきなりの戦力外通告にAが半泣きになりながら抗議する。
可哀想だけど半泣きになったAの顔がたまらなくカワイイのでとりあえず、Bを叱ることなく彼の頭を撫でておいた。
「Aよ、勝負の世界とは残酷なものなんだよ。そして、Bは本気で勝ちたいんだよ。Aにもその気持ちが分かるよね?」
「あ、姐御……! お、オレは――!」
「ま、一回休みは一回休みだから。ルールは守ろうねぇ~」
「うぅ……はい、わかりました」
しょぼんと俯くAの可愛さときたら、今すぐに抱きしめて頬ずりして押し倒してペロペロ――以下略、したくなるほどの破壊力があった。
私はその激流の如く溢れ出す本能を三か月間の修行で得た忍耐と『審判』を務めあげなければという責任感で辛うじて抑え込んだ。
修行の成果は確実に私のものになっていた。ありがとうございます! カシンさん!!
「では、次の札を読みますね。 ちはやぶる かみよもきかず たつたがは からくれなゐに みずくくるとは――――」
「はいッ!!」
今度はきちんと和子おばあちゃんが読み終えたのちにBがすかさず札を取った。
一分の隙もみせない初動の早さに、私もジュムジュマも思わず感心の声を上げる。
そして、この札を取った後の頬をピンク色にした自慢げな顔……うーん! 百二十点!!
「ほぉ……! 驚きました。その速さ、なかなかの反応ですね」
「だから、調子に乗るな、と言ったんだ。ゴブリンだからと侮っていると痛い目をみるぞ」
「そのようですね。では、こちらも本気で参りましょうッ!!」
Bの挑発にジュムジュマの闘志にも火が付いたのか眼の奥の紅い光が爛々と輝き、炎の勢いが増した。
それに連ねるようにアラジンとシェヘラザードも闘志のオーラを発する。
バチバチとぶつかり合う両者の火花――いよいよ対決の雰囲気が盛り上がってきた。
そして、一回休みのAが復帰して肩を鳴らす。
「よっしゃ! これでオレも復帰できるぜ!!」
「次は足を引っ張るなよ」
「A、がんばろー」
「――おうっ!!」
互いが本気になったところで和子おばあちゃんが三枚目の札を手に取る。
瞬間、両者の間に糸を張り詰めたような緊張が走る。一瞬、静寂、そして――――、
「はなのいろは うつりにけりな いたづらに わがみよにふる ながめせしまに」
~乃香の一言レポート~
正座して前のめりになった細田さんたちの胸元をハイアングルから眺める…………審判冥利に尽きますなぁ。
次回の更新は未定とさせていただきます。
決まり次第、活動報告のほうで発表させていただきます。




