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私達、異世界の村と合併します!!  作者: NaTa音
第二章 さよならの夏編
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第四十九話 始動、『ノカノミクス』②

山形さんのキャラってこれであったっけ……?


「そ、それは……! 『銀の鍵』じゃないですか。どうして乃香村長がそれを――」


 私が懐から取り出した『銀の鍵』をチラつかせるとベリー村長のユルっとした雰囲気が一変し、緊迫した声を漏らす。

 これにはさすがの彼も驚きを隠せないのか、細い目が大きく見開いている。

 

「えぇ、そうです。あ、でも、本物じゃないですよ。いわゆる複製品(レプリカ)ってやつです」

「れぷりか?」

「はい。先生の協力のもと、“(えにし)”の皆さんと開発した『銀の鍵』の複製品、これが一本目の杭の文字通りカギになるもの(・・・・・・・)です」


 八坂 カシンが持つ秘宝の一つであり、彼女を“世界警察”という大層な役職に就かせている原因でもある。

 異なる時間、空間の世界と世界を繋ぐ力があり、これが世界中どこでも好きなところへ行くことができる。

 今回、私達が作った『銀の鍵』の複製品には残念ながら異なる世界を行き来する機能はない。

 しかも、オリジナルのように無条件に好きなところにも行けず、『座標』と呼ばれる道具がある場所にしか鍵で繋ぐことはできない。

 この結果に協力者の先生からは「使えねぇな~」と鼻で笑われ、二十点とい赤点も同然の点数もいた大いてしまった。

 私達の努力の結晶を小学生の工作を見るような目で小馬鹿にしてきた先生の顔は今、思い題してもムカっ腹が立つので、いつかオリジナルを超えるレプリカを造ってやると決意している。 


「なるほど、しかし、よく師匠が自分の秘宝の贋作を作ることに協力しましたね」

「ま、先生は、作れるもんなら作ってみろ~ってスタンスでしたんで“協力”というよりは“挑発”に近かったですよ」

「しかも、また共同開発をしたのが“縁”とは……。たしか、西方の大陸にある転生者、転移者のみが加入できるギルドですよね」

「えぇ、彼らの協力なくしてはこのレプリカは完成しなかったでしょう」


 私がこの世界に帰ってきて一級魔導師の試験まで身を寄せていたのが、ここから海を越えた西方の大陸にあるギルド――その名を『(えにし)』。

 縁はこの世界のギルドの中では異質な存在で、加入条件として加入者が『転移者あるいは転移者』でなくてはならないのだ。

 元々、このギルドが創られた理由が「理不尽な転生、転移で見知らぬ土地に飛ばされてしまった者同士助け合おう!」というものらしく、『(えにし)』という名もこの世界で会えたのは何かの“(えん)”、だから助け合おう――というところからきてるのだ。


「今回の一本目の施策(くい)で『銀の鍵』でカルルス=げんき村と結ぶ場所は、共同開発をした『縁』の本部、知り合いの記者がいる『N・W新聞社』、さらに先生のいる『海賊街』の三地点です」

「縁の本部、新聞社、海賊街……ずいぶんと奇妙な取り合わせですね」

「この三つの場所には私が信頼をおいてる人たちがいます。今回の計画についてもすでに話は通して、了解も得ています」

「仕事が早いですね。そういうことでしたら、今回の一件は乃香村長にお任せします。ですが、くれぐれも村の皆さんに迷惑をかけないように……」


 まぁ、それこそ杞憂でしょうけど、とベリー村長は私に笑いかけた。

 彼の笑顔を見た瞬間、胸の中にポッと温かいものが宿る。


 ――――私、今、はじめてベリー村長から“任させれた”。

 

 これまで、彼から仕事の『一部』を任せれることはあっても『全部』を任されることはなかった。

 それに、三ヶ月前は“私とベリー村長”という二人三脚のスタイルで仕事をしていたから、こうして彼から村の仕事を一任させるというのは、それだけ彼が帰ってきた私を信じてくれているということなのだろう。


「――はいっ! ベリー村長!!」


 私は大きく頷いてベリー村長の目をまっすぐ見つめる。

 彼もそれに答えるようにゆっくりと頷いてニッコリと笑った。


「さぁさ、二人とも難しい話はそのへんにして、スイカでも食べませんか? この世界で穫れた初モノですよ」


 やんわりとした声と共に私達の肩を誰かがツンツンと突いた。

 振り向いてみると、和子おばあちゃんが三角形に切ったスイカを皿に載せてニコニコ笑いながら立っていた。


「あぁ、うん。そうだね。いただきます!」

「和子さん、ありがとうございます。それでは……」


 私とベリー村長は一片づつ手に取り、先端を口に頬張る。

 溶けるような歯ざわりと共に爽やかな甘みの果汁が口の中いっぱいに広がっていく。

 甘過ぎず、薄すぎない、長旅に疲れた身体にスイカの優しい甘さが心地よい。


「……あ、おいし」

「みずみずしい……! あの硬い皮からは想像もできないほど繊細な味ですね。スイカ、ですか……こんなものがあちらの世界にはあるのですね」


 はじめて食べるスイカにベリー村長もご満悦の表情でペロリと平らげる。

 

「あねさーーん!! こっちに来ていっしょに食べましょう!」

「塩をかけると不思議と甘くなるんです! スイカってスゲぇですね!!」

「おーい! あねさーーん!!」


 畑の向こうでスイカにかじりつきながら魔獣調教師の奴らが笑顔で手を振る。

 どうやら、私達が小難しい話をしている間に村のみんなと打ち解けたようだ。

 とりあえず、これで一件落着。しかし、村のみんなはよくあんな連中と打ち解けられるなぁ〜。彼らのフレンドリーさには脱帽だ。


「ま、でも……それがこの村のいいところ、だよね」


 顔や格好こそ厳ついが、手を振りながら喜ぶ姿はまるで……そう、夏休みを楽しんでいる少年のようだ。


 ――あぁ……そうか。

 もう、三ヶ月も経っていたんだ。

 春が終わり、季節はもう夏になっていた。


「――おうっ! 今、そっちに行く!!」


・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・



 魔獣調教師の連中とカルルス=げんき村のみんなとの誤解も解け、一仕事終えた私はようやく自分の部屋がある集会所に戻ることができた。

 さて、さっそく自分の部屋に戻ってゴロゴロしようかと思ったがその前に……この集会所の一室でなにやらゴソゴソと怪しいことしてる人から事情聴取をしなければならないだろう。

 

「……この部屋か」


 気配察知の魔法を使って怪しい人がいる部屋の前に立つ。

 まぁ……『怪しい』っていっても正体はなんとなくわかるんですけどね。

 怪しいのは彼女そのもの(・・・・・・)ではなく彼女の行動(・・・・・)だ。

 ともあれ、彼女に聞いてみないと話は分からないだろう。憶測でものを考えている暇があるなら確認あるのみである。

 私は、静かに部屋の扉を開ける。


「――あら、思ったよりも早かったわね」

「スイカ食べてたときからいなかったですよね? 山形さん」


 部屋に入り、まず頭に浮かんだ言葉は『社長室』というワードだった。

 重厚感のある黒い木でできた立派なデスクと背の高い革張りの椅子が部屋の奥に堂々と鎮座し、その手前に脚の短いテーブルと少し硬そうな感じのソファ椅子が四脚並べられている。

 周囲のインテリアはザ・異世界といったものを使っており私達の世界の特徴を残しつつ、この世界の特色も取り込んだ和洋折衷ならぬ“日異折衷”といった感じの内装だ。


 彼女は私が来る前に掃除でもしていたのか、手には埃を叩く道具(名前を忘れた)と雑巾、足元には掃除機が置いてある。


「ずいぶん周りを見れるようになったじゃない。三ヶ月の修行は無駄じゃなかったのね」

「で、この部屋は? いったいなんです?」

「あんたの執務室――。あんたも村長としてやってくなら仕事部屋の一つもなきゃモチベーションも上がらないでしょ? 村長代行からのささやかな贈り物よ」

「……山形さん」


 あの(・・)山形 絵美が私のために『執務室』なんて物を用意してくれていた、その実感が掴めず呆然と部屋を眺める。

 そんな、私を彼女は満足げな顔をしてこちらに向かってゆっくり歩いてくる。

 彼女との距離が近づいたとき、私はその目に映った感情がほんの少し“曇ってる”ことに気がつく。そして、この距離で見た彼女の笑顔は満ち足りたものとは程遠いどこか寂しそうな、儚そうなものだった。


 山形さん……、私がそっと呼びかけると彼女は懐かしそうな顔をして「覚えてる?」と静かに問いかけた。


「私達がこの世界に来たばかりの頃――――。アンタがベリーさんの村と一緒にやっていくって言った時のこと」

「覚えてますよ。あの時の山形さんの顔ときたらもう“山姥”みたいでしたもん」

「そうそう。あの時の私ときたらもう荒れ放題で…………私ね、怖かったの」


 ていうか、誰が山姥よ! と山形さんが私の頭に軽くチョップを入れる。

 そして、その後、少し恥ずかしそうにはにかんで話を続ける。


「右も左も分からない、誰を信じていいかも分からない、知らない世界にいきなり放り込まれて私は目の前が真っ暗になったわ。孤独と絶望だけが大きく膨らんで“どうしよう”なんて思うことすらできない状況で一番最初に動いたのがアンタだった」

「…………」

「今、思えば自暴自棄になってたのよ、私……。先が見えない真っ暗な道の先頭に立って導てくれる(ひかり)が疎ましかった。しかも、その松明を持ってんのがアンタ。若くて、無責任で、甘えん坊さんの乃香(アンタ)。そんな灯はすぐに消える、だから私は汚い大人が使う『責任』とか『ガキ』とか言ってアンタの灯を消そうとしてた……。ほんっと、どっちが無責任でガキだったのかしらね?」


 山形さんは申し訳なさそうに目を伏せた。

 そうだ……彼女は怖かったんだ。圧し潰されそうなほど膨れ上がった孤独と絶望を前に彼女が唯一できたことは他者を攻撃することだったんだ。

 しかし、そうだとしても――。


「たしかに、あのときの私は周りのことを考えず、自分のことばかり考えて発言してしまいました。そして、山形さん。あなたの心情や状況も分かりました。ですが、あの時の言葉は私をはじめ、多くの人に恐怖と不調和をもたらしました。だから――許せません、絶対に」

「…………。そう、そうよね。よかった――。やっぱりアレは許されるべきじゃない。安心したわ、愛知 乃香。アンタの修行は無駄じゃなかった。心も身体……は、まぁいいとして立派に成長したわね」

「山形さん、身体は(・・・)ってどういことですか? そりゃ、確かに三か月じゃ――」

「うふふ、ありがとね。乃香、アンタが前にいてくれてよかったわ」


 その時の彼女が微笑んだ顔を一生忘れないだろう。

 生まれてはじめて人の笑顔を心の底から『美しい』と思った。心残りが剥がれ落ちた山形さんの顔はそれほどに清らかで透き通っていた。

 そのまましばらく、互いの顔を見つめ合っていた私達だがやがて山形さんの顔が見るも鮮やかな紅色に染まっていく。

 ようやく、自分が恥ずかしいことを連呼しまくっていた羞恥心が襲ってきたのだろう。


「と、とにかく! そういうことだから、これからはこれまで以上に頑張んなさいよ!!」

「はい! あの、山形さん…………いえ、村長代行(・・・・)!!」

「な、なによ? 改まって」


 私は少々、困惑する山形さんに勢いよく頭を下げた。

 この三か月間、カルルス=げんき村を守ってきた村長代行にきっちりと礼は言っておかねばならない。

 それが筋ってものだ。

 

「この三か月間、村を守ってくれてありがとうございました。これからは私、愛知 乃香がこの村をさらに良い村にしていきます!!」

「そう、なら、任せたわよ。村長(・・)

 

 山形さんはポンッと私の肩を叩いて執務室を後にした。

 彼女が託していったものは決して軽くない。それは、あの時、彼女が言い放った『責任』や『覚悟』の重さだろう。

 でも、今の私はその重さがとても誇らしかった。そして、これから私はこの村の村長として次の世代、そのまた次の世代に繋いでいけるような村を作っていくのだ。

 

〜乃香の一言レポート〜


 ていうか、あの部屋の机とか椅子ってどっから持ってきたの? 


 次回の更新は8月29日(水)です。

 どうぞお楽しみに!!

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