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私達、異世界の村と合併します!!  作者: NaTa音
第二章 さよならの夏編
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第四十八話 始動、『ノカノミクス』①

最近、『龍が如く』にハマりまして……。兄さん、大好きです!!!


「あねさーーん!! みてくださいよ! この大きなイモッ!! こいつは美味そうだ……」

「おーう。食うんじゃねーぞ」


 遠くの畑で作業する世紀末な男の無邪気な声に私はテキトーに返事を返す。

 まったく、たかが“ジャガイモ”ひとつで少年のようなキラキラした目ができるもんだ。

 だって、イモだろ? イモ……。

 

「はぁ……」


 イカれた格好なのにその瞳はピュアな少年そのものな世紀末な連中に私は呆れてため息を漏らす。

 どうやら彼らにとって畑で土を触って、何かを収穫することがひどく新鮮な体験なのだろう。

 恐ろしく不似合いな光景だが、あんな目をしている彼らに「ガキかよ」なんて野暮なことは言えない。

 事実、もう十数年前のことになるが、保育園の芋掘りはすごく楽しかったと記憶している。あの、土から何かが出てくるワクワク感、大きなイモが穫れたときの心はさながら宝を発見したトレジャーハンターだった。

 

「姐さん、このイモは少し形が悪いですが……」

「姐さん、規定量までいきましたが、まだ少し株があまってますぜ」

「姐さん――――」


 カゴいっぱいにイモを積んだ男達が私の元に走ってきて、それぞれの報告をおこなう。

 元山賊とは思えないほど、しっかりとした“ホウレンソウ”。

 山岳地方において商人たちを恐怖のドン底に落としていたのも彼らの無法者の名とは裏腹の連帯にあった。


「おう、形が悪いやつは(ウチ)で食べるから別のカゴにまとめとけ」

「余ってる株も全部抜け、獲れたイモは保存庫に入れとく。保存庫の場所は岩田さんに聞いとけ」

「「「はいっ! 姐さん!!」」」


 彼らはリーダーを中心にして、実働として商人を襲う班、逃走経路を確保する班、遊撃班の三つの班を編成し行動した。

 徹底した連携と個々の練度の高さは彼らを討伐しようとした騎士団すら壊滅させるほどの実力を誇った。

 まぁ、そんなチームワークも『八坂 カシン』という圧倒的《チート》暴力の前に木っ端微塵にされたけど……。

 

「――乃香ちゃん、彼らは実に働き者じゃのぉ〜」

「ほんとですこと。助かりますねぇ」

 

 素晴らしい働きっぷりをする彼らを見ていたのは私だけじゃない。

 私が座っているキャンピングチェアの後ろには村へ侵入してきた連中が村の畑でイモを収穫しているという異様な光景を見るためにマリアちゃんの要請により集まったカルルス=げんき村の住人がいた。

 というのも、結局のところ誤解を解いてもらうには口で説明するよりも、こうして彼らが働いているところを見せたほうが早いし、なにより楽である。

 もちろん、その前に「ただいま!!」の挨拶は全員にした。ただ、この場に勲おじいちゃんがいなかったのは少しだけ、心残りである。


「まぁ、それがあいつらの“ウリ”だからね」

「ところで、乃香ちゃん……」

「ん? なぁに、勝じい?」


 私の横に立っていた勝じいが少し聞きづらそうな表情を浮かべて、こちらの顔を覗き込む。

 なんだろう? 私の顔になにかついてるのかな?


「乃香ちゃん……その“髪”はどうしたんじゃ? もしかして、グレた? それとも中二病?」

「えっ? 髪??」

「うん、パンダみたい(・・・・・・)になっとるぞ(・・・・・・)

「へ? ぱんだ……? あぁ!? まさか――――ッ!!」


 勝じいの指摘に嫌な予感を覚えた私は慌てて“ポケット”を発動して、別空間から携帯用の鏡を取り出す。

 すると、鏡に反射して移った私の髪は毛先の十センチのわずかな黒色を残してすべて“真っ白”になっていた。

 そう、魔導師になった私が魔法以外に得たもの――それがこの“髪”である。

 別に白黒のまだら模様のカシンさんをリスペクトして染めたとか、そういうことではない。この真っ白な髪は正真正銘の地毛である。

 魔導師試験中にとある『マジックアイテム』を使用した際に髪の色が元の黒色からまるで、アルビノのように真っ白な色に変わってしまったのである。

 その後も、黒染めを試みたがこうして魔法を使ったりすると髪の色が元に戻ってしまうのである。


「あっちゃ~。やっぱし、魔法使うとダメかぁ」

「どうしたんじゃ? も、もしかして、病気か?」

「いや、そうじゃないんだけど。なんていうか、『後遺症』……的な? 魔法の使い過ぎかどうか知らないけど、なんかこうなった」

「それは、大丈夫なのかい?」


 心配しそうな顔をする勝じい。 

 しかし、病的で儚い色に反してこれといって身体に異常はなく健康そのものだ。

 まぁ、困ったことといえば、このように私の髪を見た人を心配させてしまうことと、髪が白いのでやたらと肌が黒く見えてしまうことくらいである。


「うん、大丈夫。心配いらないよ。ほら! このとおり、元気全開であります!」


 私はキャンピングチェアから立ち上がって力こぶを作る仕草をしてみせる。

 

「そうか、ならよかったわい!」

 

 勝じいはほっと胸を撫で下ろした。 

 たしかに、三か月ぶりに帰ってきた孫娘の髪が真っ白になってたら、そりゃ心配もするでしょうね。

 

 ……というか、


「ベリー村長ッ!」

「はい、なんでしょう?」

「はい、なんでしょう? じゃ、ないですよ! どうして、指摘してくれなかったんですか? 私の髪のこと」

「いや、髪色なんて個人の自由ですし。それに、僕はてっきり乃香村長が師匠の真似をしてるのかと思い、あえてツッコミませんでした」


 ベリー村長はとくに悪びれることもなく、ヘラヘラしながらそう言った。

 彼のこのユルっとした雰囲気は私の怒りを大きく削いで、最後には「はぁ……まぁ、いいです」と、ため息を漏らして怒りの感情は完全に萎んでしまった。


「そういえば、先ほど後遺症の“ようなもの”と言ってましたが、詳しい原因は分からないんですか? 師匠であればきっと分かると思うのですが……」

「さぁ……どうでしょうね? 知ってるのか、知らないのか――とにかく、先生は私に原因は教えてくれませんでした。なので、私なりの推測で魔法の使い過ぎによる後遺症、ということにしています」

「そうですか。まぁ、あの人はつかめない人ですからね」

「まったく、攻略本がほしいですよ」


 ですね、とベリー村長も苦笑を浮かべる。もちろん、冗談だ。

 『八坂 カシン完全攻略ガイドブック』なんてのが販売されようものなら怖くて買えたものではない。

  

「――ところで、乃香村長。さきほど、皆さんが集まるまえに話していたカルルス=げんき村の行政施策『ノカノミクス』についてもう少し詳しい説明をお願いします」

「あー、そうですね。分かりました」


 マリアちゃんが村のみんなを呼びにいってる間に私とベリー村長は今後の課題と施策について話していた。

 私は修行前に先生に言われた『十年、二十年先のことを考える』という言葉を元にカルルス=げんき村の新たな施策を立案し、ベリー村長に報告した。

 それが、『ノカノミクス』である。

 

「先ほども言いましたが、ノカノミクスは“三本の杭”と呼ばれる三つの施策でカルルス=げんき村が次の世代、また次の世代へと続いていける村にするための土台づくりです」

「それは先ほども聞きました。それで、“三本の杭”とは具体的にどのような施策なのですか?」

「一つ目は、カルルス=げんき村と他の都市を繋いで、物資、人、情報の提携を確保する『銀の鍵』計画。二つ目は、私が考案した新しい発電システムをカルルス=げんき村で試験的に運用し、エネルギー問題の解決を目指す『地脈発電』計画。そして、三つ目は――」

「最後は……なんですか?」


 三つの施策を言おうと思ったが、先は言わなかった。今は状況がマズい。

 この話を聴いている人が多すぎる。この三つの施策は“三本の杭”の中で村の未来に関わるもっとも重要な施策であり、もし、これが失敗すると後の二本の施策(くい)が水の泡となる。

 なので、この三本目に関する情報が漏えいするのは避けたい。つまり、極秘というわけだ。

 たとえ、それがこの施策の重要人物(キーマン)となるベリー村長でも……。

 

「最後のは……実はまだ、考えてなかったり……するんですよねぇ。アハハ……」

「えっ? なら、なんで“三本の杭”なんて言い方を?」

「――そっちのほうがカッコいいから!!」


 毅然とした態度で私はベリー村長に嘘をついた。

 でも、これは仕方のないこと。噓も方便というやつだ。

 だって、もし、今、ここで三本目の内容を明らかにしてベリー村長がそれに関して断りでもしたら私の計画はすべて白紙に戻される。

 彼には悪いが、引き下がれない状況(・・・・・・・・・)にまで彼を持っていってから三本目は実行する。

 

「大丈夫ですよ。一本目と二本目が決まれば、きっと三本目もみえてきますよ! ね?」

「まぁ、乃香村長がそう言われるのなら信じましょう。ところで、その一本目の施策(くい)はいつ行われるのでしょう?」

「三日後です」

「はぁ……三日後ですか。三日後!?」


 ベリー村長が驚きの声を上げる。 

 まぁ、そりゃそうか……。三日後にいきなり、ノカノミクスの一発目が発動するのだからビックリしないわけがない。


「えぇ、三日後、この村に他の都市の人々がやってきます」

「いや、でも、そんな急に……。村のみなさんも混乱するのでは?」

「えぇ、ですが三日もあるの(・・・・・・)です。事情を説明して納得してもらえるには充分でしょう」

「そうかもしれませんが。しかし……」


 なおも、食い下がり不安そうな顔をするベリー村長。

 たしかに、少々強引かもしれないが、それもこの村のためだ。この一本目の杭、確実に打ち込まなければ、二本目、三本目に影響が出る。

 

「しかし、他の都市からここまで、街道を通るとはいえ、相当な長旅になるのでは? こちらは三日後でも構いませんが、向こうの都合というものがあるでしょう。ここは一つ、連絡を取り合ってから――――」

「あぁ、それなら心配ないですよ」


 ベリー村長の言葉を遮って、私は待っていました! といわんばかりのしたり顔をする。

 まったく、あなたは本当に『予想通り』の心配をする。私もついつい興が乗ってしまい、口調が芝居くさくなる。


「――――彼らは、直接来ますから(・・・・・・・)


 そう言って、私は懐から『とある物』を取り出す。

 先生、カシンさんからもらった卒業祝い。

 それは美しいアラベスク模様が刻まれた細身の『銀の鍵』だった。


~乃香の一言レポート~


 『ノカノミクス』の“ミクス”ってどういう意味か知ってて使ってるか……ですか? もちろん! “ミクス”は元々、“エコノミクス=経済学”が略されたもので、日本でも『ア〇ノミクス』なんてものがありましたよね。え? どこが経済なんだよ、知ったかぶりしてんじゃねえよ。改名しろ? …………うっさいボケ! もう“ノカノミクス”に決まったんじゃ!! 今さら、改名なんかするもんか――――ペッ!!


 次回の更新は8月22日です。 

 どうぞお楽しみに!!  

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