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私達、異世界の村と合併します!!  作者: NaTa音
第二章 さよならの夏編
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第四十六話 帰ってきた愛知 乃香 ②

アイルビーバックした主人公(の使い魔)が邪魔な岩をぶっ飛ばす話です。


「――『いたずら妖精(ジン・ド・バッド)』よ、攻撃を開始せよ!!」


 オーバーなアクションをして私は『いたずら妖精』たちに岩を破壊せよ、と命令を下す。

 私の腕の動きと連動するように彼らは岩に向かって飛んでいくと、文字どおりの“一番槍”、聞かん坊のアラジンが岩の手前で地面に向かって槍を刺し込む。

 漆黒の三叉槍は鋭く、硬い地面をものともせず粘土のように突き刺さる。

 アラジンが地面に槍を刺し、しばらくすると地鳴りのような低く胸を震わせる轟音と共に岩の下から大量の水が噴き上がり巨岩を宙へ突き上げた。


「今よ! シェヘラザード!!」

「…………ッ!」


 私の号令にシェヘラザードは頷いて、アラジンが打ち上げた岩に向かって飛んでいく。

 ちょうどその時、重力に逆らい岩を宙に持ち上げていた水の力が完全になくなり、空中で岩が一瞬、静止する。

 そして、重力に負け落ちつつある岩の下に彼女はもぐり込み、盾を構えた。

 

「…………ッ!!」


 ――――ズズンッ。


 鈍重な衝撃音ともに落ちてきた岩が空中で止まる。

 何十トンもある巨大な岩をぬいぐるみほどのシェヘラザードが盾で受け止めたのだ。

 その姿はまるで、西の果ての天空を支えるティターン族の勇者アトラスのように……。


 本来の“使い魔”には巨岩を水で噴き飛ばしたり、岩を持ち上げて支えるほどの力はない。

 せいぜい、食器を洗ったり、掃除をしたりと日常の雑務を肩代わりしてくれるのが本来の使い魔だが、それはあくまで人間が召喚した(・・・・・・・)使い魔であればの話だ。

 この子達は、私が召喚した使い魔じゃない。私と契約を結んだとある精霊から貸し出されたものだ。


 ――その辺の使い魔とは格が違うのだ。

 

「ノカ様、発射準備完了です」


 発射体制を整えたジュムジュマの炎が勢いを増している。

 よしよし魔力をよく溜め込んでいるな。これだけあれば、岩は文字どおり跡形もなくなるだろう。

 私は頷いて、仰角固定と照準を合わせるように告げる。


「ジュムジュマ。撃ち損じは許しません。必ずアレを破壊しなさい」

「御意」

「シェヘラザード。回避準備」


 ――――撃て。


 シェヘラザードが頷いて回避行動に入るのと同時に、私は腕を下に振って指示を飛ばす。

 次の瞬間、ジュムジュマの虚の眼の奥が紅く光り、顎がガクンと外れる。

 過剰に開いた口腔から集束された魔力の塊が昼間の太陽すら霞むほど眩い光を放つ熱線となって放たれる。

 空を貫くように放たれた極太の光線はその進路にあった巨岩を砕ける音すら立てることなく破壊した。

 まるで、消しゴムでノートの上の誤字を消すのと同じくらいあっけなく岩をこの世から消し去った(・・・・・)

 

「ノカ様、目標を完全に破壊しました」

「うん。ごくろうさま。さすがは、ジュムジュマ」 

「いえ、当然のことをしたまでです」


 そう言いつつも、ジュムジュマは嬉しそうにカタカタと顎を鳴らしていた。

 アラジンもシェヘラザードも少し誇らしげな顔をしている。うんうん、よくできました。


「みんな、ごくろうさま。もどって、やすみなさい」


 二回、手を叩くと『イタズラ妖精』たちはポンッという軽い音と共に煙となって消えた。

 さて、村まであと少し。私は障害物が消えた道に馬を前進させて先へ進む。


・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・


 あの時は……そう、たしかベリー村長と軽トラに乗りながらこの景色を見たんだ。

 

 迫りくる村の影、一直線に続く街道、そのはるか向こうに荘厳にそびえるアルバス山脈。

 そうだ。この景色だ。三か月前まで私が住んでいた村、カルルス=げんき村。

 やっと……やっと…………やっと――ッ!!

 

「かえってきたよぉおおおおおおおおおお!!!」


 御者台の上から村に向かって思いっきり叫ぶ。

 私の声は村に届き、森を抜け、山脈に当たり山彦となって反響する。

 はやく、はやく、はやく、かえってみんなの顔がみたい。みんなどんな顔するかな? たのしみだなぁ~。なんて言おうかな? 最初は誰に会えるかな?

 膨らむ気持ちを抑えきれず、私は馬に鞭を打ち、馬車の速度を上げる。

 

 そのとき、馬車で走る私のすぐ耳元に何者かの気配が現れた。


「――おかえり。そんちょー二号」


 小悪魔チックな甘い囁き声が柔らかい吐息と共に私の耳をくすぐる。

 その私の本能にダイレクトに響く声に反射的に首を向ける。

 そこにいたのは、まぎれもない『天使』だった。流水のような金髪を揺らし、真っ白なワンピースを纏った背中からは繊細なのに力強く羽ばたく純白の翼――。

 しかし、その天使、どうにも顔に見覚えがある。というか、この村に帰ってきて一番最初に会いたかった人物……まさかそっちからきてくれるなんて……!!


「マリアちゃん♡♡♡」

「えへへ! 久しぶり! そんちょー二号。びっくりした?」

「びっくりしたよ! …………って、あれ? なんで飛んでるの? っていうか、翼!?」

「もう、気づくの遅いよ!」


 ぶすーっと頬を膨らませるマリアちゃん。かわいい……。

 いや、気づきませんでしたよ。だって、ほら! マリアちゃんって『天使』じゃん? だから、翼生えてても違和感ないんだよね~。つーか、マジ天使! あ~! ぺろぺろしてぇ~!!


 ……と、冗談()は置いといて。

 マリアちゃんのいきなりの登場には驚いたが、彼女の背中に翼が生えていることには別段、驚きはない。 彼女の背中に生えた翼、その正体を私は知っている――。


「“精霊化”したんだね。マリアちゃん」

「な~んだ、しってたの。驚かそうと思ったのに……ちぇ、つまんないの」


 マリアちゃんはぷくーっと頬を膨らませた。

 どうやら、翼の生えた自分を見せて私を驚かせる腹積もりだったのだろう。

 彼女には悪いが、そこで驚いてしまっては私が三ヶ月間も修行していた意味がない。

 修行とは何も魔法“だけ”を鍛えていたわけじゃない。魔法を使うにあたって相応の知識も身につけた。


 マリアちゃんの状態――背中から翼が生えて、目には見えないが魔力の質が精霊よりになってるこの状態は“精霊化”と呼ばれ、自身が契約した精霊との融合を果たした姿だ。

 

「いや〜、でも驚いたよ。その歳で精霊化するなんてね。こりゃ、四年後が楽しみだ。よっ! 未来の一級魔導師!!」

「えへへ〜! てれるなぁ〜」

「でも、まだ“半分”ってところね」

「うん、そうなんだ。だから、もっと修行していつか“完全”な精霊化を成功させてみせるの!」


 マリアちゃんは力強く頷いた。

 実は、マリアちゃんはまだ“完全”な精霊化をしていない。

 ヒトと精霊が完全に融合しきっていない状態のことを“半精霊化”とよび、精霊化の修行途中に偶発的に起こる。

 この状態でも一般の魔導師とは比べ物にならないくらい高い性能を誇るのだが、この半精霊化はかなり不安定な状態なのだ。

 半精霊化を起こした際の特徴には個人差が存在し、マリアちゃんのように部分的に精霊化現象が起こる比較的安全なケースから膨大な魔力に耐えきれず異形の姿になったり、最悪の場合は死に至るケースもある。


「ところでマリアちゃん、ベリー村長は?」

「村にいるよ。人除けのために街道に置いてあった岩が誰かに攻撃されたみたいだから様子を見てきてほしいって言われたの」

「人除け? なんでそんなものを?」

「最近、変な人たちが村に来るようになったの。それで村のみんなが少しピリピリしてるんだぁ……」


 変な人たち……? と、私が聞き返すとマリアちゃんは「変な髪型してるの」と付け加えた。

 

「変な髪型? 他に特徴は?」

「あ、あとはリザードに乗ってる!」

「リザードに……?」


 『リザード』といえば巨大なトカゲに似た爬虫類のモンスターだ。

 それに乗って村に襲いかかる集団……最近まで巷を騒がせてた暴走族に特徴がよく似てるけど。


「でも、アイツらは私と先生で……いや、まさか。――じゃあ、マリアちゃん。とりあえず、ベリー村長に報告してもらえるかしら?」

「うん。そんちょー二号が帰ってきたって報告するね」

「ありがとう。私もあとから行くわ」


 マリアちゃんは強く頷くと、翼を羽ばたかせて空を滑るように飛んでいった。

 ――あ! パンツみえそ……じゃなかった。今は、ふざけてる場合じゃない。


「んんッ! なにはともあれ、行って確かめるのが早いわ」


 馬にさらなる鞭を打ち、振動で積み荷が壊れたりしないように私もできるだけ早く馬車を走らせて村へと向かった。

 あ〜あ、厄介事のニオイがぷんぷんするよ。せっかくゆっくりできると思ったのに……。


 馬車を走らせること約五分、私は懐かしのカルルス=げんき村に到着した。

 村の入り口には三か月前にはなかった質素だが、しっかりとした造りのお手製の門と刺々しい柵が新たにできており、そのすぐ前に人影が二つ並んで立っていた。


「お出迎えがたったの二人なんて寂しいことで……」


 軽口を叩いてみたが、やっぱり変だ。

 門の向こうから伝わってくる人の気配があまりにも薄い――もっと平たい言い方をすれば、村が静かすぎる。

 みんな、家のなかに隠れてるんだ。そして、今、門の前にいるは自分で自分の身を守る力を身に着けている人物。

 やれやれ、おかえりなさいのパーティーはこのゴタゴタを片付けるまでお預けか……。

 

「乃香村長、おかえりなさい。お待ちしておりましたよ」


 門の前に馬車を停めるなり、金髪碧眼の青年がゆっくりと近づいてくる。

 どこか大人びた整った顔に柔らかくしっとりした声、――懐かしい、ベリー村長だ。

 しかし、どこか表情が固い。挨拶も『おかえりなさい』と『待ってましたよ』の二言だけ。

 三ヶ月ぶりに再会した人間に向かって言うにはあまりにもドライなものだ。


「――再会の挨拶はあとのほうがよさそうですね。何がありました」


 私は馬車から飛び降りてベリー村長の前に駆け寄り、挨拶を抜きにして本題に入る。


「連中、タイミングでも測ってたんですかね。先の岩の地点に例のリザードに乗った集団が……」

「さっき、マリアちゃんが言っていた奴らですね?」

「はい。そこで、長旅でお疲れのところ申し訳ないのですが、連中を撃退してはもらえませんか? 乃香村長……いえ――――」


 ベリー村長は言葉を切り、人を試すような不敵な笑みを浮かべて言い直す。


一級魔導師(・・・・・)の愛知 乃香さん」


 まったく、いやらしい言い方だ。

 そんな言い方されると……うん、と頷くしかないじゃないですか! 私もベリー村長に負けないくらい不敵な笑みで返す。


「終わったら、念入りにマッサージしてもらいますよ」

「えぇ、よろこんで。……では、お手並み拝見です」


 目を閉じて龍脈との繋がりを確認する。

 ――深く、深く、身体の隅々にまで浸透するような大きくて優しい力が全身を駆け巡る。

 よし、ここの龍脈はいい密度の魔力を持ってる。これなら百二十パーセントの力が出せる。


 ……さぁて、いっちょやりますか!!


「――――了解」  

〜乃香の一言レポート〜


 三ヶ月ぶりに村に帰ってきたら“少女(てんし)”が“マジ天使”になってました――――なろうにありそうなタイトルですな。



 次回の更新は8月8日(水)です。

 どうぞお楽しみに!!

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