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私達、異世界の村と合併します!!  作者: NaTa音
第0章 チュートリアル編
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第二話 決意の夜、その道を歩む

今回はシリアス回です。

少し考えて読んでみると、おもしろいですよ。


 ――その日の夜、私を含めた『げんき村』の入居者と職員が集会所の大部屋、『みんなのひろば』に椅子並べられて一堂に会した。

 しかし、その場に山形さんの姿はなく、やはり未だにトイレに篭ってるのだろう。


 痔になってなきゃいいけど……。


「皆さん、集まってくれましたか?」


 集められた皆の前で司会のように宮崎さんが出席を確認する。

 耳の遠い人もいるのでその声はかなり大きい。


「は〜い!」

「うん……」

「大丈夫ですよ。確認しました」


 おじいちゃん、おばあちゃんは頷いたり、手を挙げたりして返答する。

 宮崎さんも一様に皆を見渡してしっかりと頷く。


「ありがとうございます。では、早速、本題に入ります。僕達、げんき村の住人と職員、並びに乃香ちゃんは村ごと異世界に飛ばされてしまいました。信じられない話だと思いますが、今は割り切ってください」


 宮崎さんの面持ちはいつになく真剣だ。

 普段は体格通りのゆったり、おっとりな性格なのに今の彼はそれとは真反対の毅然さがある。


 ギャップというやつですな、点数はなかなか高めですぞ〜。


「なーに、これだけ長く生きとれば信じられんことの一つや二つ、起こっても不思議じゃなきわい! のぉ、母さん?」

「えぇ、そのとおりですよ。それに、人生の最後に大冒険ができるなんて素敵じゃありませんか」


 勝じいがあっけらかんとして緊張に包まれた空気を笑い飛ばす。

 和子おばあちゃんもいつもの調子で小さく上品に笑っている。

 その声音はいつにも増してワクワクしているようにもとれる。

 

 大した老夫婦だよ、本当に……。

 変な耐性がついてる私ですら、今の状況に少し困惑してるのに、それがまったく見えない。

 他の皆も二人の様子を見て、ケラケラと笑っていたりしていた。

 長生きすると、ちょっとやそっとのことじゃ驚かないらしい。

 『老害』なんて言葉があるが、こういうときの彼らは頼もしいったらありゃしない。

 

「はい、皆さんのおかげで今のところ大きな混乱はありません。僕らとしても安心して話すことができます。それじゃ、乃香ちゃん」


 宮崎さんが視線をこちらに向けて頷く。

 私もその意図を理解して黙って頷き返す。


 ――よし、いよいよ出番か……。


 私は椅子から立ち上がると、皆の視線を集める。


「皆さん、単刀直入にお話します――」


 勝じい達以外にもまだ、話したことのないおじいちゃん、おばあちゃんがいるので敬語を使う。

 見知らぬ私にたいしても皆、黙って真剣に耳を傾けてくれている。


「私達をこの世界に呼び出したカルルス村の村長から、この村とカルルス村を合併して共存しようという提案をもらいました」


 私も宮崎さんと同じように声を張って、()に届くように話す。

 皆は頷いて理解の意を示す。


「そこで、私はこの提案を受け入れ、カルルス村とげんき村を合併し共に生きることに賛同します! 例え、もとの世界に帰れるにしても帰れないにしても、彼らとの共存は私達がこの世界で生き抜く為には不可欠だと思います。ですが、この提案の可否を私の独断で決めることはできません。どうか、皆さんの意見を聞かせてください!!」


 ――ハァ……ハァ……。


 肺の中の酸素がほとんど持っていかれそうになるほど、大声でそして、ゆっくりと喋った為に息切れをおこしてしまった。

 歴研のプレゼンのときだってこんなに喋ったことはない。

 私は肩で息をしながら皆のほうを凝視しする。


 皆の顔に初めて困惑の色が浮かんだ。

 無理もないか……突然こんなこと言われたら、そりゃ戸惑いもするよね。

 宮崎さんはこの話を事前に聞いていたため、黙って目を閉じるだけだった。

 彼はあくまで「皆の意見に合わせる」そうだ――。


 重苦しい静寂と緊張が場の空気を支配する。

 あまりの緊張と静けさに自分の心臓の音がはっきりと聞こえるほどだった。




「――――ふざけるんじゃないわよ」




 鉛のような空気を切り裂いたのは、とても静かに放たれた怒りの声だった。


 その声に皆、一様に出入り口の扉のほうに顔を向ける。

 

「……山形さん」


 開かれた扉にもたれ掛かるようにして立っていたのは憔悴しきった様子の山形さんだった。

 毎日の手入れを欠かさずにしてきてなんとか保っていた白い肌は土気色に染まり、目の周りは黒々とへこんでいる。

 艶のあった髪は、ぼさぼさに掻き乱され、窪んだ瞳には爛々と光る怒りの感情――まるで、童話に出てくる山姥だ。


「あんたねぇ……身勝手いうのもいい加減にしなさよ」


 ゾンビのように私の元に近づいてくる彼女に鋭利な刃物で突き刺されるような恐怖を覚える。

 

 こうなることは、想定済みだった。分かっていた――山形さんが扉の向こうで私達の話に聞き耳を立てていたことを。

 だから、宮崎さんも私もあえて、彼女に聞こえるように声を張り上げていた。


 ……でも、やっぱり、怖い。


「で、でも! このままだと、私達はこの異世界で右も左も分からないまま全滅です!!」


 ええぃ! ビビるな!! 覚悟はしてただろ!!!

 臆する自分自身に喝を入れる。


「――黙りなさいッ!!!」


 落雷のような怒声が私に向かって落ちる。


 怖えぇぇぇぇぇぇ!! マジギレした大人、マジで怖えぇぇぇ……。


 普段の私ならここでしっぽ巻いて逃げ出すところだが、今が正念場だ。

 ここで、逃げ出せば全部、無駄(おじゃん)になる……!


 私は勇気を振り絞って、怒り心頭の山形さんに食ってかかる。


「じゃあ、山形さんはなにか他に提案があると?」

「うるさいッ! 私はねぇ!! あんなわけわかんない連中と手を組むなんてまっぴらごめんなのよ!」

「気持ちはわかります。けれど――」


 これ以上、山形さんを刺激しまいと慎重に選んだ言葉を遮って彼女はなおも激昂する。


「喋るなッ!! だいたいねぇ! アンタ、責任も取れやしないくせにしゃしゃり出てくるんじゃないわよ!! アンタの身勝手で取り返しのつかないことが起きたら、アンタは責任取れんの!? あぁ!?」


 ――責任……。


 高校生のときから嫌というほど聞かされた言葉を連呼にイライラが少しづつ零れだす。


「いい!? これは人の『命』がかかってるの! アンタみたいなガキが誰とも知らない奴と口約束で決めていいことじゃないの!! 覚悟も責任もない(ガキ)が前に立つんじゃないわよ!!! こういうことは責任の取れる大人(・・)がやるべきなのよ! ねぇ!? みんな!?」


 ……そうやって都合が悪くなったら「お前は子供(ガキ)だから」とか「もう大人なんだから」ってコロコロコロコロ無責任に喚きやがって――ウゼーんだよ……クソがッ!!


 彼女の物言いに私の堪忍袋の緒が切れかける。

 理性が爆発寸前の怒りを抑えてなきゃ今頃、彼女を殴り倒しているところだ……。

 私は拳を血が出んばかりに握り締めて俯く。


「…………」

「なによ、なんか言ってみなさいよ! ……ほーら! 何にも言えない!! アハハハッ、考えもなしにそんなこと喋るからよ!! ハイッ! 論破♪ ってね! アハハハハハハハハハッ!!!」


 彼女の凄惨な高笑いが虚しく集会所内に響く。

 他人が今の彼女を見たらどう思うのかな? 狂ってる? 仕方ない? かわいそう――? どうでもいいよ。もう限界だから。

 瞬間、自身の心から燃え上がるような怒りがスッと消えていく…………。そして、胸の内に新たに湧き上がったのはどうしようもなく“冷たい”なにかだった。


 

 消そう、彼女はこの先の未来には邪魔だ。

 


 後先のことなどもう考えてはいなかった。

 ただ、機械的に、一発あの女の顔面に叩き込んでやると、拳を振り上げたそのときだった――



「―-じゃ、決まりじゃの」



 よく通る優しげなその声に私の殺気がウソのように消えてしまう。

 瞬間、振り上げていた拳に羞恥心を覚えてサッと身体の後ろに隠す。

 声のするほうに目をやると、勝じいが椅子から立ち上がり、まっすぐと私達を見据えていた。


「勝じい……?」

「あら、秋田さん。話が早いですね。じゃあ、この小娘は置いといて話し合いを続けましょうか」


 山形さんは完全に勝ち誇ったような傲慢な態度で私を見下す。

 ご丁寧に顎に手なんか当てて、ムカつくことこの上ない。

 そんな彼女に勝じいは静かに言い放った。


「――うん、ワシは乃香ちゃんについていくよ」


 その言葉は普段のひょうきんな勝じいとは思えない凛然とした響きがあり、山形さんと面と向かうその顔には強き意志を宿した武人のそれがあった。

 こんな、勝じい見たことない……。


「は、はぁ……!? なに言ってるんですか? 冗談ですよね?」

「この顔が冗談言っとるように見えるかの?」

「……ッ!!」


 勝じいの迫力のこもった声に山形さんが無言のまま顔を引きつらせて後退りする。

 さっきまでの威勢はどこへやら、今は小さな歯で威嚇しながら怯えている仔犬のようになっている。

 後退する山形さんを追い詰めるように勝じいがゆっくりと前に出る。


「――乃香ちゃん……」


 同じ声の主とは思えないほど、穏やかで包み込むような声で勝じいが歩み寄る。

 勝じいがさっきまで山形さんがいた位置まで来ると、その骨ばった右手をそっと頭の上に置いた。

 その手は見た目とは裏腹に大きくて、やわらかくて、とっても優しかった。

 私の頭をゆっくりと撫でてくれる勝じい手からほんのりと彼の体温が伝わった途端、自然と涙が頬に零れた。


「あぁ~あ! がづじいぃ~、こわがっだよぉ~」

「うんうん、よぉ頑張ったな……」


 私は勝じいのに抱き着いて顔をこすりつけながら子供のように泣きじゃくった。

 

 可哀想に……勝じいのシャツは私の涙と鼻水でベトベトだ……。 

 後で、洗濯してあげなくちゃ。


「ふん! その程度で泣いてるよじゃ信用できんな」

「……ぇ?」


 泣いてる私の背後でツンツンした低い声が耳に入る。

 この声は……間違いない、勲おじいちゃんだ。


「信用できんから、儂らがお前の尻を叩いてやらんとな」


 もう……それ、セクハラ発言だよ……。


 ――でも、ありがと、勲おじいちゃん。

 私は顔を涙を流しながらも満面の笑みを浮かべた。

 勲おじいちゃんは相変わらず不愛想な顔を浮かべていたが、その瞳はとてもやさしかった。


 勲おじいちゃんが立ち上がったのを皮切りに次々と他のおじいちゃん、おばあちゃんが椅子から立ち上がる。

 いつの間にか扉のほうに追い詰められていた山形さんに勝じいが静かに一喝する。


「――道をあけなさい。その先はこの子の“道”じゃ」

 

〜乃香の一言レポート〜


 この前「勝じいって時々カッコいいこと言うよね」って和子おばあちゃんに言ったら「あんなボンクラでよければいつでもあげます」って優しい笑顔で言うんです……冗談でも笑えねぇよ。


次回の更新は明日3月24日(土)9:30です。

どうぞお楽しみに!!

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