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私達、異世界の村と合併します!!  作者: NaTa音
第一章 はじまりの春編
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第四十四話 春の湊、別れの星空 ②

デデンデンデデン♪ デデンデンデデン♪


 もとの世界の私が住んでいた地域の近くには世界最大級のプラネタリウムがあり、中学生時代に社会科見学の一環で鑑賞したときの感動は今でも鮮明に覚えている。

 幾千、幾億もの輝石を大きくて深い漆黒のキャンバスに散りばめて、生命の吐息を吹き込みチラチラと輝く星たち一つ一つがまるで“生きているよう”に感じられた。

 でも、今、異世界にきた私が『忘れじの丘』から見上げる夜空はプラネタリウムとは違う、本当に“生きた”星空だ。


「やっぱりここにいた。暖かくなってきたからって夜はまだ寒いんだから、こんなところにいたら風邪引くよ? 勲おじいちゃん」

「…………フンッ。そんなことお前に言われんでもわかっている」


 いつもより少し不機嫌そうに一本松の根本に腰かけている勲おじいちゃんは小さく鼻を鳴らす。

 そんないつも通りの彼に少し安心感を覚えて「隣、いい?」と私は彼の隣に静かに腰を下ろす。


「――きれいだよね。ここの星空」

「フンッ。一人で静かに見たかった。騒がしいのがきたから台無しだな」

 

 ホンモノとかニセモノとか……そんなこと実際はどうでも良いと割り切っていた私だったが、ここから空を見上げる度に自分の思い込みがちっぽけなものだったと、目から鱗が落ちる。

 

「なにいってんの? ほんとは私のこと待ってたんでしょ〜?」

「そんなわけないだろ。儂は好き勝手が過ぎるお前に愛想つかしただけだ」

「ムフフ、素直じゃないんだから〜」


 私は勲おじいちゃんをからかうように身体を左右に揺らす。

 いつもならここで、おじいちゃんのチョップが頭に飛んでくるところだが今日は重苦しい沈黙が返ってくるだけだった。

 

「カシンさんから聞いたよ。私が合宿にいくことに反対してる人がいるって」

「…………」


 勲おじいちゃんは無言の肯定をする。

 やっぱり、そうだったんだ。壮行会のとき一人だけ顔を出さなかった人がいた。

 登壇したとき一発で理解し(わかっ)た。ただ一人の反対派とは彼だったんだと……。


 私は勲おじいちゃんの答えを待った。

 いつも歯に衣をきせない物言いをする彼が一分近く黙って、ようやく口を開いた。


「――お前は怖くないのか?」

「怖い……? 合宿にいくことが?」

「いや、魔法を覚えることをだ」


 どこで聞いたのだろう? 『魔法』なんて言葉が勲おじいちゃんの口から出てくるとは思いもしなかった。

 物怖じしない強くて頼りになる彼の口から出た「怖くないのか?」という言葉は同時に、私が合宿に行って魔法を覚えることを彼自身が恐怖していることにほかならない。

 

「儂はな、お前にこんなことを強いている自分が情けなくて仕方ないんだ。村の今後の為と自分を殺し、変わらざるえない状況をつくりだしている自分がな……」

「そんなことない! たしかに、やらなきゃいけないことかもしれないけど、一級魔導師になりたいって気持ちは私の意志だよ!!」

「だからこそ聞いているんだ。お前は自分が自分でなくなる(・・・・・・・・・・)ことが怖くはないのか、と」

「そんな、大げさだよ。魔法を覚えるっていったって新しい勉強やスポーツを始めるのとそんな変わんないよ」


 自分が自分でなくなる、なんて大げさな勲おじいちゃんの言い方に私はまたからかうように笑った。

 たしかに魔法は私のこれまで人生で一度も見たこともない未知の領域だ。けれど、そんなことをいえば新しい勉強やスポーツだって未知の領域だ。

 しかし、勲おじいちゃんは首を振って私の言葉を否定する。

  

「そんな簡単なものか。魔術や魔法はな、これまでの常識が通用しない。よその世界から来た儂らにとってそれを受け入れ、操る――それは、これまでの常識(じぶん)を捨て去り、新たな常識を得ることだ」

「…………」

「お前は、まだたったの二十歳だ。儂は……村の為だ、国の為だと自分を殺し、意気揚々と未知の世界へ飛んでいった若いやつらの末路を腐るほど見てきた。皆、お前のように口を揃えて言っとったよ『大したことではありません』とな……」


 ――――ふざけるなッ!!


 勲おじいちゃんが張り裂けんばかりの怒声を響かせ力任せに立ち上がる。

 その怒りが私に向けられたものなのか、過去の戦友たちに向けられたものなのか分からなかったけど、今までここまで感情を荒げたことのなかった彼の怒りの叫びに私はビクッと身体を震わせて硬直する。

 その後、熱くなった自分を冷ますように勲おじいちゃんは重いため息と共に再び座り直す。


「おじいちゃん……」

「乃香、考え直せ。この村だけがお前のすべてじゃない。お前が儂らの未来、村の未来のためにここまで来たことは本当に感謝している。だが、そればかりではお前の人生は――」


 勲おじいちゃんの言葉を遮るように今度は私が無言で立ち上がり彼を見下ろした。

 すると、おじいちゃんは少し驚いた表情を見せたあと、まだ何か言いたげな口を静かに閉じた。

 少し息を吸って、静かに吐き出して決意を固める。ここで言わなきゃならない。たとえ、勲おじいちゃんと対立することになっても……。


「――――おじいちゃん」

「…………」

「私の人生をおじいちゃんが決めないで。私のしたいことは私で決めるから」

「乃香、お前は――」


 私はたぶん、生まれて初めて勲おじいちゃんに反抗したと思う。

 その時の月明かりに照らされた彼の顔はまるで、大事なものを必死で守る少年のように健気で、どこか悲しかった。

 罪悪感が鋭いナイフのように胸に刺さる。


 ごめん……おじいちゃん。

 それでもやっぱり私は前に進まなきゃいけない。ここでおじいちゃんの言うとおりにして進めなかったら、きっと私は『私』が許せなくなる。

 私と勲おじいちゃんは無言でにらみ合う。私も彼も決して譲る気はないのだろう。

 だが、やがて――――、

 

「ふん……好きにしろ」

 

 力なく勲おじいちゃんが呟いて、私は生まれて初めて彼に白星を挙げることができた。

 

「うん、私、がんばるよ」

「お前()いくのか……」

「えっ?」

「なんでもない。戻るぞ、乃香」


 勲おじいちゃんはいつものぶっきらぼうな口調に戻って、その場から立ち上がりゆっくりと丘を下っていく。

 私もおじいちゃんのあとに続き、夜の丘を下る。

 明日から三ヶ月間、私は村を離れて『魔法使い』になるための修行を開始する。

 もちろん、寂しくないといえば嘘になる。寂しいに決まってる。


 それでも、私は前に――――。


・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・


 翌日の明け方。

 まだ少し眠い……やっぱり、勲おじいちゃんと話してた時間が睡眠時間を削ることになってしまったのは大きい。

 それでも起きないとカシンさんにステキなモーニングコールをされかねない。


「…………んっ」


 まだ寝かせろ! と全力で抗議する瞼を無理やりこじ開けて目を覚ます。

 ぼんやりと天井を眺めながら私は確信した。いる、視界には入っていないけど、すでにこの部屋にあの人がいる。

 

「――よぉ、昨日はちゃんとお別れしてきたか?」


 寝起きでぼんやりした耳に女性の声が届く。

 声のした方へ首だけ動かすとホワイトボードの前の机の上ににカシンさんが胡座をかいていた。


「椅子があるんですから……。せめて、椅子に座ってくださいよ……」

「固いこというなよ。脳みそまで硬くなっちまうぞ。魔法使いに必要なのはフレキシブルな思考だぜ?」

「わけわかんないこと言ってないで降りてください」

「んだよ。ノリが悪いなぁ」


 カシンさんは頬を膨らませて渋々、机の上から降りる。

 それと同時に私もベッドから降りて、身体を伸ばす。


 んで……、と言ってカシンが煙草を取り出して煙を吹かす。

 部屋のなかに煙の匂いが残るので止めてほしいのだが、どうせ三ヶ月間も放置しておけば匂いも消えるだろうと思い、黙っておくことにした。

 それに、この煙草が出たということは例のごとく例によって真剣なお話が始まるのだろう。


「今から三ヶ月間、テメェを『魔法使い』として鍛えるための修行を行う。もうできてるとは思うが、一応、最後の確認だ。愛知 乃香、覚悟はできてるな?」

「はい。先生(・・)!」

「よし。迷いなしの即答、いい返事だ。……ん? つーか、今、オレのこと『先生』って言ったか?」

「はい! えぇと、ダメでした?」


 実はカシンさんが合宿に連れて行ってくれると聞いたときから彼女をそう呼びたいと思っていた。

 『師匠』と言うとベリー村長と被るし、『カシンさん』と今までと同じ呼び方をしてもいいが、なんだか先輩と後輩みたいだし、せっかく修行をつけてもらえるなら師と弟子としての関係をはっきりしておきたい。

 そこで、元学生の私としては師となる人間を『先生』と呼ぶのが適当と考えたのだ。


「い、いや……ダメじゃねーけど。そういう呼び方されるのは慣れてねぇから……なんつうか、その――」

「照れるんですね」

「う、うるせぇ! さっさと支度しろ! 四十秒でなッ!!」

「いや、どこの海賊のママですか!?」


 カシンさん――もとい、先生は耳まで真っ赤にしてそっぽを向いた。

 彼女にもこんな一面があったのかと微笑ましい気持ちになった一方、背を向けた彼女が『銀の鍵』を取り出しており、いよいよ出発のときが近づいてきたんだと気を引き締める。

 私はできる限り動きやすい服装ということで山形さんから借りたジャージに着替え、通学用に使っていたリュックの中にわずかな私物を入れて準備を完了させた。

 

「よぉし、準備できたな」

「はい、先生!」

「んな……ッ!? だから、先生はその、だな…………なんでもねぇ! 気合い入れろよ、これからビシバシしごいてやるかな!!」

「おっす!!」


 先生はニヤリと笑うと『銀の鍵』を捻って壁にブラックホールのような空間の穴を作り出す。

 いつもどおり、先生はスタスタと穴に歩いていく。私もあとに続いて穴に入ろうとしたその時、ふと誰かに呼び止められたような感覚を覚え振り返る。

 

「…………またね。大丈夫、私は必ず帰るから」


 私がそっと笑いかけると、部屋の風景が少しづつ深い闇に覆われていき――――閉じた。

〜乃香の一言レポート〜


 アイルビーバック( ´∀`)bグッ!


 次回の更新は7月26日(水)です。

 乃香の世界では三ヶ月後かも知れないけど、こっちの世界では一週間後です。

 誰だ!? 今、時間合わせのご都合展開とか言った人は! …………そのとおりです!!

 次回もお楽しみに!!

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