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私達、異世界の村と合併します!!  作者: NaTa音
第一章 はじまりの春編
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第三十五話 魔術と魔法 ②

カクタンおまかせコース


「――――来てください! カクタンッ!!」


 ベリー村長の覇気のある呼び掛けに応えるように『黒い風』塊が変形して脚の長い四足歩行の獣の実体を得る。


 鹿のような胴体に、東洋の龍のような荘厳で鋭い顔つき、牛のような尻尾に、馬のような蹄、額から生えた一本の大きな角は先の岩程度ならあっさりと砕けそうなほど強壮だ。

 首筋から背中にかけて五色に輝く背毛をたっぷり生やし、全身を漆黒の鱗が覆っている――そんな、神獣ともいえる容姿の獣が私を見下ろしていた。

 一番の驚きはその大きさだ。胴体だけで三メートル、首まで合わせると軽く五メートルはある。


 か、カクタン……可愛くねぇ…………。


「こ、これが――せ、精霊……!?」

「カクタン! また、初対面の人を驚かせて! 召喚されるときは必ず人間体でと言ったでしょ?」


 ベリー村長が巨大なカクタンを見上げながらお母さんみたいな口調で注意する。

 そんな彼を黒い鱗の神獣はその黄金色の眼を下のほうへ面倒くさそうに動かして睨みつける。


「なんじゃあ、久しぶりに呼び出されたと思ったら、いきなり説教か。偉くなったもんじゃのぉ〜。ベルリオーズ」


 黒鱗の神獣は渋い声の老人口調でベリー村長の頭に顔を乗せてみせる。

 彼のサラサラヘアーがカクタンの巨大な顎に押し潰されてひしゃげる。彼は「やれやれ……」と言いながら頭の上に乗っていた顎を指さす。


「紹介します。彼は僕の契約精霊“カクタン”です」

「わー! おっきいお馬さんだぁ!!」

「まったく、恐れを知らんガキじゃて。まぁ、ワシもこのくらいでムカつくとこはせんがの」

「お、おっきい……」


 それにしてもデカい。私はカクタンの大きさと荘厳さに圧倒されていた。

 よくマリアちゃんは怖がらずに接することができるものだ。お姉さん、すっかりビビっちゃったよ。


 象とか、キリンとか、そういう動物園で遠くからしか見ない動物を目の前にしたらきっとこんな感じ――ん? キリン??  

 鹿の胴体、龍の顔、牛の尾に馬の蹄、そして五色に輝く背毛と全身を覆う鱗。もしかして……、


「あの……もしかして、あなたは“麒麟”ですか?」


 麒麟――中国に伝わる幻獣で、獣類の長とされている存在。


 私がいた世界でも麒麟のロゴが入ったビールにはとてもお世話になった。そのくらい日本人には馴染み深い存在なのだ。

 そんな私の問いかけにカクタンの威圧的な視線がこちらに向けられる。

 敵意は感じられないが、その視線に思わず畏まってしまう。


「ほぉ、よく勉強しとるお嬢さんじゃのぉ。いかにも、ワシは麒麟じゃ。そのなかでも“角端(カクタン)”と呼ばれておる」

「えっと、じゃあ……あの、殺生を嫌って歩くときも足元の虫や植物を踏まないっていう伝説は」

「半分正解で半分間違いじゃの。確かに、殺生は好まん。じゃが、この巨体で足元の虫や植物を踏まんとか普通に考えて無理じゃろ? ギンギラギンの若い頃ならいざ知らず、こんな耄碌(もうろく)ジジイになった今じゃ猫を踏んでも気付かんわい」

「あ、たしかに……」


 幻獣なんてお前さんが思っとるよりショボいもんじゃよ、とカクタンはあっけらかんとして言った。

 厳格な顔をしているが、こうして対話していると温厚で茶目っ気のある性格をしている。


「さてと、この姿のままでお前さんと話しとると首が痛くてかなわんな。んじゃ、面倒じゃけど変身“すたいる”見せたるわ……」


 カクタンはゆっくりと巨木の幹のような首を持ち上げると、頭角から眩い光を放つ。

 その光がカクタンを包むと、巨体な身体がみるみるうちに縮んで光が消えると、そこには紫色の中華風の服を纏った白髪の小柄な老人が立っていた。

 背筋の伸びた白髪の老人な変身したカクタンは、武術の達人か仙人のような凄みを帯びていた。

 

「――あぁ、それで、なんでワシは呼び出されたのかのぉ? ベルリオーズ」

「はい、実はこの二人に魔術と魔法の違いを実演を通して説明しようと思いまして」

「……なるほどのぉ。じゃが、準備が悪いのぉ――ほれ、二人共、こっちに来なさい」

 

 カクタンは面倒くさそうにちょいちょいと手招きをする。

 私とマリアちゃんが「なんだろう?」と不思議に思いながら彼の前に並ぶ。


「ちょいと、目を拝借――」

「きゃ!?」「わっ! なになに!?」


 カクタンは目にも止まらぬ早技で私とマリアちゃんの目を手で塞いだ。

 彼の手はじんわりと暖かく、衣服の袖からはお寺の線香のような香りがする。

 三十秒ほどでカクタンは手を離した。


「……えっと、何をしたんですか?」

「ふむ、そのままベルリオーズを見てみぃ」

「えっ、ベリー村長をですか?」


 言われたとおり、ベリー村長を見てみる。

 すると、彼の身体の周りから蜃気楼のようにユラユラと透明な何かが揺れている。


「わぁ〜、なんか揺れてるよ」

「魔力の“流れ”を目で見れるようにしてやったわ。魔術と魔法は見てくれはそう変わらんからの。こうやって、“流れ”を見てやればその違いがよぉ分かるぞ」

「すごい! カクタンすごい!!」

「まぁ……年寄りもたまには役に立つじゃろ?」


 カクタンは気の抜けた口調で笑顔を浮かべる。

 ちなみに、彼の周りにもベリー村長とは比べ物にならないくらい大きな魔力の流れがある。


 ドラゴンボ○ルのヒュインヒュインって音が鳴るあのエフェクトみたいだ……。


「ほれ、ベルリオーズ。岩を作れ。なるべくデカイのじゃ」

「了解です。はっ―――!」


 ベリー村長が得意の土属性の魔術で岩を作りだす。

 すると、彼の周りをユラユラしていた魔力が忙しなく動き出し、右手に集中していく。

 しかも、さっきまで透明だった魔力が茶色に変色しているのだ。


「こ、これって! ベリー村長の魔力が茶色に……!」

「発現する属性によって色も変わるようにしといた。どうじゃ? 便利じゃろ?」

「カクタンのおじいちゃん。すごーい!」

「フッ……かわいいクソガキじゃ。褒めても何も出んぞ」


 そう言いながらも、まんざらでもないって顔でカクタンはマリアちゃんの頭を撫でる。

 と、尊い……! おじいちゃんと孫ショット、尊いッ!!


 私が和やかな二人に気を取られている間にベリー村長が先の岩の何倍もの大きさの岩を用意していた。

 得意な属性というだけあり、もはや岩というより小さな山のようだった。


「できましたよ。カクタン」

「よし、じゃあ……あれ(・・)を撃て。全力でな、手ぇ抜いたら意味がないからの」

「了解です。フーッ…………」


 カクタンの指示でベリー村長が服の袖を捲り、岩の前で深呼吸して精神統一を行う。

 それと同時にベリー村長の魔力にまた変化が起こる。

 先程のまで忙しなく動いた魔力の流れがだんだんと静かになり、茶色だった魔力が水色に代わる。


「“砕岩水掌(さいがんすいしょう)”――水属性の魔術と体術を組み合わせた技じゃよ」

「…………」


 ベリー村長の魔力の流れがどんどん静かになる。水面の波紋が時間と共に消えていくように……。


 ――そして、魔力の流れがその時、完全に止まった。

 


「砕岩水掌ッ!!」



 完全に静止した魔力がベリー村長の咆哮と共に一変、爆発的な勢いで魔力が膨れ上がり、右手に集約する。

 集約から圧縮へ――高密度の魔力は『水』としての実体を獲得し、彼の掌底と共に巨大な岩に突き刺さった。


 瞬間、耳元で大太鼓を叩かれたような爆音と貫かれるような衝撃波が私の身体を揺らす。

 その破壊力は先ほどの雷の魔術やマリアちゃんファイヤーが可愛くみえる程の威力で、あの岩山に掌底を打ち込んだ部分を中心に大きな亀裂が走っていた。

 なんて破壊力……。魔術を使っているとはいえ、これが人間の出せる威力なの……?

 

「――しょぼいのぉ〜。契約精霊として情けないわい」

「いやぁ、久しぶりだったので……なかなか」


 あ然とする私と対象的にカクタンが呆れたようにため息を吐く。

 ベリー村長も特に言い訳をすることなく、「すいません」とヘラヘラしながら頭を掻いた。


「えぇ!? しょ、しょぼいの!? あれで――!?」

「えぇ? しょぼいじゃないですか?」

「しょぼいじゃろ。だって……」


「「――岩、砕けてないし」」


「結局そこかい! ってか、声を揃えるな!!」


 ベリー村長とカクタンが見事に息をピッタリ合わせてドヤ顔をする。

 ムカつく……というか、普通にマジうぜー。


 ってか、なんで頑なに岩なんだよ。

 伝説の幻獣すら、この世界のバカな基準に毒された現状にため息を吐く。

 すると、カクタンが再びベリー村長に向かって指示を飛ばす。


「まぁ、ええ。ほれ、ベルリオーズ。さっさと岩を直さんかい。二発目いくぞ」

「まったく人使いの荒い精霊ですね。まったくこれじゃあ、どっちが契約したんだか……」

「口を動かす暇があるなら手を動かさんか。まったく、最近の若い奴は言い訳ばかりするのぉ」


 カクタンの「最近の若い奴は〜」から始まるお年寄り特有の鬱陶しいアレを受けてベリー村長も渋々、ヒビを入れた岩を再び魔術で修復する。

 作って、壊して、また直して――とんだ骨折り損である。

 岩の亀裂が完全に修復されたのを確認すると、カクタンが首を鳴らして、ニヤリと笑う。


「さーて、見せてやろうかの。本物の“砕岩水掌”をな……」

〜乃香の一言レポート〜


 今日は今回、初登場となりました麒麟の『カクタン』はベリー村長の契約精霊で、彼が人間兵器だった頃からの付き合いだそうです。

 本編では『殺生を好まん』と言っていましたが、その思想に行き着いたのはつい数年前のことらしく、ベリー村長がまだ『黒き牙獣(がじゅう)のベルリオーズ』だった頃は黒い鎧(第十話参照)を着た彼を背に乗せて戦場を縦横無尽に蹂躙していたのだとか……。


 しかし! ベルリオーズと契約したときにはカクタンは既にかなりの歳になっており「まだまだいけるじゃろ!」と調子に乗って暴れまくった結果、……全身の慢性的な痛みと老眼に悩まされているそうです。

 ちなみに、そんなにボロボロになっても魔力の総量ではベリー村長を大きく上回っています。さすがは幻獣といったところです。

 どのくらい差があるかというと、今のベリー村長を初期のベジ○タだとすると、彼はフリ○ザ様くらいはあるそうです(カクタン談)。

 

 私はパンちゃんみたいな妹がほしかった! それでは、また次回のレポートでお会いしましょう!!


 次回の更新は6月4日(月)です。

 お楽しみに!!

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