第三十四話 魔術と魔法 ①
今回は前編後編の二本立てです!
*
忘れじの丘の一本松の根本で魔術と魔法の青空教室が開催された。
受講生は私とマリアちゃんの二人で先生はベリー村長がやってくれる。
「そんちょー二号、魔導師になるんでしょ? そんちょーから聞いたよ」
「うん、そうだよ」
「私も魔導師を目指してるだ。そんちょー二号とライバルだね!」
「そうなの? よーし! 負けないぞ?」
「こっちだって!」
私とマリアちゃんは顔を合わせて笑う。
彼女の目はやる気と喜びで満ちていた。おそらく、ライバルができたことが嬉しかったんだろう。
マリアちゃんがライバルかぁ……うん、よし! 萌えてきた!!
私のやる気も満ちたところで、ベリー村長が「はじめますよ?」と私達の前に立つ。
「――では、まず『魔術』と『魔法』について簡単に説明していきましょう」
「「はーい!」」
「よい返事ですね。魔術と魔法はどちらも『魔力を使った現象の操作』です。が、その二つは原理が異なります。マリアさんには先日、教えましたね? 覚えていますか?」
「えっとねぇ……」
マリアちゃんは顎に手を当てて、うーん……うーん……と唸りながら、思い出す仕草をする。
どうやら私と同じで彼女もあまり勉強が得意なタイプではないらしい。
「魔術はね……えっとねぇ、アレをアレしてアレするやつでね……魔法がね――」
「ふむふむ……なるほど」
「分かったの!?」
「うん、分かった!」
――思い出す仕草をしているマリアちゃんもカワイイ! というかマリアちゃんなら何しててもカワイイ!! ってことがね☆
えっ? 魔術と魔法の違い? あの説明でわかるわけないじゃないですかー。ハッハッハ(笑)
「ほう……それは、素晴らしい。では、乃香村長。何が分かったのか説明をお願いできますか?」
おとぼけ娘二人がヘラヘラしていると、背後から威圧感の籠もったベリー村長の声が響く。
振り向くと、満面の笑みを浮かべた彼が額に怒筋を浮かべて立っていた。
完全に“おこ”である。
「アハハ……すいません。わかりません」
「乃香村長。一言よろしいですか?」
「はい……なんなりと」
私が頷くとベリー村長がふぅ……、と息を吐くと静かに呟く。
「時間がないのですよね? フザケないでもらえますか?」
満面の笑みから溢れ出る怒りの黒いオーラに私とマリアちゃんは背筋がすくみ上がった。
だって『ゴゴゴゴゴゴッ!!』ってオノマトペが見えるもん! スタンド見えてるもん!! ジョ〇ョ立ちしてるもん!!!
でも、この威圧感というか、怒り方って……どっかで――あぁ、カシンさんと同じだ。
優しい顔してても、結局ベリー村長もあの人の弟子というわけか。
「ご、ごめんなさい……」
「ごめんなさい」
私とマリアちゃんは叱られた子犬のようにしょぼんとして頭を下げた。
ベリー村長が真剣に何かを教えているときにふざけるのは厳禁! 心に刻んでおこう。
「はぁ……もう、反省してくださいね」
「はい、わかりました」「わかりました……」
「では、魔術と魔法の違いですが……まぁ、お二人には実演して見せたほうが早いですね」
ベリー村長は松の木から離れたところまで歩いていくと、右腕を前に突き出した。
すると、彼の手から小さな石の粒が生成され、それらが寄り集まり成人男性くらいの大きな岩となった。
塊となった岩を地面に下ろすと、今度は両手にバチバチと嫌な音を立てる光の塊を生み出す。
「あれは……電気?」
「うん、雷属性の魔術だよ」
マリアちゃんの口調が途端に落ち着いた、というか少し冷たくなった。
その変化に違和感を覚えて、ふと彼女の方を見ると村長の生み出した雷属性の魔法を食い入るように見ていた。
魔術を見つめる彼女の目は真剣そのもので、『将来、魔導師になる』と言ったことが決して漠然とした夢ではないことを物語っていた。
「魔術は自分の体内の魔力を使います。ゆえに、魔力の属性や性質を自分の意思で操ることができるので自由度と汎用性の高さが長所となります。属性は『火』『水』『風』『雷』『土』の基本の五大属性と基本属性を組み合わせた応用属性があります」
そう言って、ベリー村長は両手に作っていた電気の塊を岩に向かって投げつける。
バチンッ!! と癇癪玉が弾けるような音を立てると、岩の塊にドッチボールくらいの大きさのクレーターができていた。
「ですが、属性には個人によって得手不得手があり、苦手な属性は……このように岩を砕くことすらできません」
電撃で人間くらいの大きさの岩にクレーター作るだけでも、拳銃よりはるかに高い殺傷力を持ってると思うですけど、というか、そんな危険なもの習いたくないんですけど。
判断基準が『岩を砕けるかどうか』なんてロケットランチャーのテストしてんじゃないんだからさ……。
「あの……別にそんな危険な魔術を習う気はないというか、自信がないというか――」
「なにを言ってるんですか! 一級魔導師の試験は甘くありません。一に『威力』。ニに『威力』。三、四を飛ばして五に『破壊力』です!」
「なんですか、その脳筋ロジックは……。というか、誰ですか? そんなアホ丸出しなロジック考えたのは」
「師匠ですが……?」
考えたの私達の師匠だったーー! あー、でも、なんか納得したわ……。
いや、だからってあんな怪物と私を同じ理論で扱ってほしくないんですけど!?
「――いや、あの私、女性です。しかも、JDです。なんで、もうちょっと優しくてロジカルなものはないんですか?」
「乃香村長、師匠も女性です」
「あの、ベリー村長。普通の女子大学生がそんなゴリラみたいな魔術を使うと思うんですか?」
「確かに………………でも、大丈夫! 乃香村長ならできますよ!!」
ベリー村長が爽やかな笑顔でグーサイン。
いや、その自信と確信、どっから湧いてきたよ!? さっきの沈黙の間にどんな思考したら私がゴリラコースで大丈夫って結論が出ますかね!?
「いやいやいや、無理ですって! というか、百歩譲って私が良くてもマリアちゃんはどうするですか? いくらなんでも子供はまずいんじゃないんですか?」
「いえいえ、マリアさんなら何の問題もありませんよ。ほら……あのとおり――」
ベリー村長が私の後ろを指さす。
そういえば、さっきからずっと黙ってけど、まさか……私は恐る恐る後ろ振り向く――。
瞬間、私は下顎が地面に落ちるのではないかと思うほどの衝撃を受けた。
「フゥーーーーーーーーーッ!!!」
後ろで立っていたマリアちゃんは先程の岩に向かって口から『炎』を火炎放射器のように勢いよく吐き出していた。
その姿に天使の面影はなく、悪魔のように火を吐くマリアちゃんは電撃ではびくともしなかった岩をいとも簡単にドロドロのマグマに変えて溶かしてしまった……。
炎を吐き終わった頃には、岩は跡形もなくなり、生い茂っていた草は見事に真っ黒な炭になっていた。
そして、岩を溶かしたマリアちゃんは満足げな表情でガッツポーズ!
「よし! できた!」
「できたじゃねぇー! なにやってんの!? ねぇ、知ってる!? 少女は口から炎を吐いて岩をマグマにしちゃダメなんだよ!?」
「? へぇ、なんで??」
きょとんと首をかしげるマリアちゃんの口からは炎の燃えカスが……。
あぁあああああ……私の天使が火を吹いた。火を吹いちゃったよぉ~!
「素晴らしいです。マリアさんは火属性が得意なのですね?」
「うん!」
「ですが、威力が低いですね。もう少し魔力の循環を早くすれば威力が上がると思います。じゃ、次は乃香村長、がんばってください」
「できるかーー!!」
ベリー村長が新しい岩を作って「さぁ、壊してください」とキラキラした目つきでこちらにエールを送る。
いや、無理にきまってんでしょ……。私はぶんぶんと首を横に振る。
「冗談ですよ。冗談。まずは、自分の得意な属性を見つけないと……。それに、まだ魔法だって見せてないんですから」
「冗談って……! 異世界ジョーク、キツいなぁ〜」
「では、まずは、“魔法”を使うにあたってなくてはならない僕の精霊を紹介しましょう」
そう言って、ベリー村長は空に向かって手を伸ばした。
瞬間、周囲一帯から『黒い風』が寄り集まり、渦を巻き、彼の手の上で大きな球体となる。
これから始まろうとすることが何かまったく予想できない。
その尋常ではないプレッシャーに私は固唾を飲んで見守るしかできなかった。
「――――来てください! “カクタン”!!」
ベリー村長が声高く精霊の名前を叫ぶ。あ、意外とカワイイ名前……。
〜乃香の一言レポート〜
今回は魔術の利点と欠点についてまとめますね!
ね、ネタ切れじゃねーし!? というか、これ『レポート』だから!! むしろこっちのほうが正しいから!!
本当、よくここまで脱線できたものです……。では、気を取り直して!!
・魔術とは?
体内の魔力を用いて現象を発現する作用。ちなみに体内の魔力量――キャパシティには個人差があります。また、属性によって魔力の消費量が異なります。
この世界の八割の人間が使用しており、炎や雷を手から出してる人を町中で見かけたら十中八九『魔術』です。
・長所
自身の魔力を使用するため、性質の変化をさせやすく習得が容易です。さらに、訓練次第で五大属性『火』『水』『雷』『風』『土』の全てを扱うことができます。人に教えやすいというのも利点です。
・短所
上記にあるように、魔力のキャパシティには個人差があるので、実力差が出てしまう。
また、属性によって得手不得手があります。
例えば――、
・ベリー村長は『土』が得意で『雷』は不得意です。
・マリアちゃんは『火』が得意で『風』が不得意です。
と、まぁ、こんな感じです。
ふぅ…………マジメにやったので疲れました。
次回の更新は6月1日(金)です。
どうぞお楽しみに!!




