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私達、異世界の村と合併します!!  作者: NaTa音
第一章 はじまりの春編
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三十二話 交渉、再び……

無知って怖い……。


「――ブーーッ!! はぁ!? 『銀の鍵』を使って種と苗を運んでほしいぃ!?」


 師匠さんの()頓狂(とんきょう)な声を上げて、私の顔に口に含んでいた琥珀色の酒を霧吹きのようにぶっかけたのは、交渉を開始して一分後のことだった。

 霧散した酒を驚いた拍子にわずかに口に入れてしまう。


 カラメルを焦がしたような微かな苦味と甘味に、もったりとまとわりつくような甘い香り……これは、ラム酒だ。

 どうやら師匠さんはラム酒がお好みらしい。今度、焼酎もおすすめしてみよっと。


「……えぇ、まぁ」

 

 顔からぽたぽたとラム酒を滴らせながら、私は曖昧な返事で頷く。

 吹き付けられたラム酒(師匠さんの唾液入り)の甘ったるい香りが私の鼻孔を刺す。


 師匠さんは何をそんなに驚いているんだろう? 

 私は少し疑問だった。だって、実際にラズの魔木だって運んでいたじゃないか。

 木材も苗も大して変わりはないと思うが、何がそんなにびっくりしたのだろう?


「もぉ〜、何してんのよ! 汚いじゃない!」


 オカンなフレアちゃんがすかさずタオルを持って飛んできてくれて私の顔を乱暴に拭く。

 しかし、タオルには柔軟剤がしっかりと効いているのでどれだけゴシゴシされても痛くない。


「……ふもっ、もごっ……。ありがとうございます」

「あー、もったいねぇ。吹いちまったよ。テメェが急にバカなこと言い出すから」

「すいません。でも、師匠さんの持っている『銀の鍵』なら作物の苗や種を大量に搬入できますよね? ラズの魔木のときみたいに」


 『銀の鍵』は海賊街にある師匠さんの潜伏先のバーの名前にもなっている秘宝のことだ。


 “くとぅるふ”と呼ばれる聞いたこともない神話に登場する連立する世界を繋ぎ、時間すらも超越する超跋級のアーティファクトだとか……。

 師匠さんが“ヨグ=ソトースの銀の魔女”と呼ばれ、異世界警察なんて職業に就いているのも、この『銀の鍵』あってのことらしい――いや、知らんがな。


 まぁ、要するにドラ○もんの『どこでもドア』と『とりよせバッグ』を足したようなものでしょ?

 詳しい価値はよく分からんが、すごーく便利な道具ということは分かる。


「お前、この宝がどれだけの価値があるか分かってんのか?」

「いや、さっぱりですね。師匠さんが持ってるので、きっとすごく価値のあるものと思うのですが……」

「はぁ……。窮極の門に至ることのできる宝もテメェにとっちゃただの便利なワームホールってわけか」

「すいません……」


 ヨグ=ソトースも涙目だな……と、師匠さんが頭を掻きながら苦笑を浮かべ、胸元からネックレスのように銀色の鎖で繋がれた『銀の鍵』を取り出す。 

 奇妙なアラベスク模様が刻まれた、十センチ程の鍵で繊細な彫刻が施されているが、それを宝と知らない人が見れば“ただのアクセサリー”にしか見えない――もちろん、知らない人とは私のことだ。


「ま、仕方ないんじゃない? ノカのいた世界じゃ彼らは生きている(・・・・・)わけだし」

「そりゃそうだけどさぁ……こうもあっさり『知らない』って言われるとヘコむぜ〜」

 

 いつもは師匠さんに食いかかってばかりのフレアちゃんが珍しく彼女に苦笑を浮かべてフォローする。

 やっぱり、なんやかんやでト○とジェ○ーのように仲は良いみたい。


「えっと……ごめんなさい。私、勉強不足でその『銀の鍵』について全然知らなくて――」

「いいのよ。仕方のないことだしね」

「でも、『銀の鍵』ってそんな簡単に使っていいものじゃないんですよね……?」


 師匠さんとフレアちゃんの会話から察するに『銀の鍵』とは野菜の苗を運ぶのに使っていいような代物じゃないらしい。

 あぁ……確かに、銀の鍵を使って『ラズの魔木』を搬入するときも相当怒ってたから、きっと元は儀式とかに使う神聖なものなのかも?


「いや、いいんだ。気にするな……はぁ……まぁ、なんというか。怒る気も起きねぇや」

「いいんですか!? やった! なら――」

「おい。勘違いするなよ? できる、と言ったが、やる、とは言ってねぇぞ?」

「えぇ〜……ここにまできてお預けですかぁー」


 よっしゃー! と上げていた腕を師匠さんの意地の悪い言葉で下ろす。

 やっぱりそうきましたか……あわよくば、と思っていたけど世の中そう甘くはない。

 もちろん、次に彼女が言ってくるのは――、


「やっぱり、対価が必要、ですよね?」

「分かってるじゃねーか。そういうことだ。オレにも利益がなくちゃ不平等だろ?」

「不条理の塊みたいな人が『不平等』とか言わないでくださいよ〜。それで……何がお望みですか? やっぱり、私の“眼”ですか?」


 私の目に宿っているという千里眼。

 どうやらレアリティの高いアイテムらしく『眼球集め』という猟奇的でサイコパスな趣味を持った師匠さんは私の千里眼を欲しがっていた。

 

 まぁ、私が千里眼を発動したのはフォガラ大地下水道での暴発した一回のみ、それなら持っていても邪魔なだけなのでない方がいい。

 それで村の為になるのなら眼球の一個くらい安いものだ。

 しかし、師匠さんは首を縦に振らなかった。私の眼球はご所望ではないようだ。


「それもいいが、テメェにはオレの仕事を手伝ってもらおうと思う」

「お仕事の手伝い、ですか? こう言うのもなんですが、私のできることで師匠さんのお役に立てるとは思えないのですが」

「まぁ、そりゃ、“今のまま”じゃな。つーわけで、まずはオレの役に立つ為にテメェには『資格』を取ってもらう」

「資格……? ワインソムリエとか、日本酒ソムリエとか、ビールソムリエとかの資格ですか?」


 資格かぁ……私の通っていた大学も資格講座があって、教職の資格を取りたい連中が受講していたなぁ。

 私は資格に対してまるで興味がなかったので四限が終わってからも五限、六限と授業に出ている連中を「フッ、愚かな……」と鼻で嘲笑っていたが、まさか異世界に来て『資格』を取ることになるとは……。

 

 だが、この世界にある『資格』っていったい何があるんだろう? やっぱり魔法系の資格とかありそうだよね……後は、モンスターを美味しく調理する『モンスター調理師』の資格とか?

 とにかく、この世界の資格であれば面白そうなので取得してみたい。


「なんで、テメェの中で資格が全部、酒系一択なのかは知らねーが……まぁ、そういうことだ」

「それで、私は何の資格を取ればいいんですか?」

「テメェに取ってもらう資格。それは……『一級魔導師』の資格だ」

「一級魔導師……魔導師ですか?」


 そうだ、と師匠さんは頷く。

 『魔導師』――魔法職の一つで、既存の魔法を使用するだけでなく魔法世界の発展の為に日夜研究に没頭する研究者のようなものである、と私の脳内ファンタジー辞典には記されている。


「読んで字のごとく『魔を導く師』。まぁ、ざっくり言えば魔法や魔術の先生ってとこだな」

「異世界の教職免許ってところですね」

「あぁ。しかもな、一級魔導師ってのは他の都市の移動はもちろん、国内外問わずめんどくせぇ手続き無しで渡航できるんだ。しかも、その際に発生する足代やメシ代はぜんぶ国が負担してくれる。つまり、タダで旅行に行き放題で、オレの仕事に必要な情報をゲットできる。便利だろ?」

「なるほど。仕事のお手伝いって情報の収集と提供ってことですね」


 一級魔導師になれば国内外問わず、さまざまな場所へ無料で行くことができる。

 行く場所が多くなれば、それだけ多くの情報と幅広い人脈を得ることができる。

 そして、そこで得た情報を師匠さんへ流す――私は彼女の情報面のパトロンになるというわけか。


「そういうこっちゃ。持ちつ持たれつ、ギブアンドテイク……悪い条件じゃねーと思うが?」

「確かに……でも、それって難しいんじゃないんですか?」


 国からそれだけの優遇があるということは、一級魔導師は登竜門であることは明白だ。

 まあ、一級を謳ってるくらいだし相当なものなのだろう。


「ま、ちょっと勉強すりゃ余裕だよ。その魔導師採用試験は四年に一度、夏になると王都で開催される。ちなみに今年はその四年目。ちょうど、今から四か月後に試験が開催される」

「四か月後にですか? む、無理ゲーなんじゃ……」

「グチグチ言うな。これ逃したら四年後だぞ? 村を復興させたきゃ、テメェには嫌でも今年の夏に一級魔導師にならなくちゃいけぇね。覚悟決めろ」

「そ、そんなぁ~……」

「――それにな、この資格はテメェの村の為でもあるんだ」


 瞬間、師匠さんの声のトーンがわずかに落ちる。

 その小さな声の機微を聞き逃さなかった私は何かを確認をするように彼女の顔を見つめる。

 目元こそ見えなかったが、彼女は確かに口を真一文字に結び、真剣な表情で私に何かを伝えようとしている。


「…………」


 師匠さんは懐から例の不思議な匂いのする煙草を取り出して口に銜えると、あの時と同じように指パッチンで火を灯す。

 目を疑うような光景だったが、さすがに二回目ともなると慣れる。

 紫煙がふわりふわりと薄暗い店内に充満して、私と彼女の間に静かな緊張が走り抜ける。


 しばらくの沈黙の後、師匠さんが鉄でできた門のようにゆっくりと口を開く。

 

「よく聞け、げんき村の村長さん(・・・・・・・・・)よ――」

~乃香の一言レポート~


 今日は師匠さんが飲んで私の顔にぶっかけやがった『ラム酒』についてのうんちくです。


 世界史コースを高校の時に選んでいた人、あるいは歴史好きなら誰もが知っている『トラファルガーの海戦』。

 1805年に起きたこの海戦においてフランス・スペイン連合艦隊を撃破したイギリスのホーレショ・ネルソン提督はこの海戦で深い傷を負って戦死してしまいます。

 彼の遺体は腐敗を防ぐため、ラム酒の入った樽に入れられイギリスへ運ばれました。

 このとき、樽の中に入っていたのは“ダーク・ラム”が入っていたため、ダーク・ラムのことを『ネルソンの血』なんて呼ぶようになったという逸話(ジョーク)があります。


 ……ちなみに、ネルソンを漬けていたラム酒は運んでいる間に水兵達が盗み飲みしてイギリスについた頃には樽が空になっていたとか。


 私もお酒が好きですが、さすがに男のチ○コエキスが滲み出したラム酒まで飲もうとは思いません。

 皆さんも誰かのチ○コを浸したお酒を飲んではいけませんよ? 病気以前に人格を疑われます。


 あ、そうそう。泥酔した人のことを『グロッキー』って言いますよね? あれもラム酒にちなんだエピソードが元なんですよ。

 チ○コの話するくらいならこっちの方にすれば良かったかもです……まぁ、気になる方はググってください(コックリさんを呼ぶほうじゃありませんよ?)。


 もちろん、お酒は二十歳になってから! ルールを守って楽しく飲みましょう!! 乃香村長との約束ですよ?



 次回の更新は5月28日(月)です!

 どうぞお楽しみに!!

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