表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私達、異世界の村と合併します!!  作者: NaTa音
第一章 はじまりの春編
34/84

第三十話 水入らず、前夜の決意

今度は乃香村長が『決意』を抱くお話です。

まじアンテ……。


 ――あれから三日後、私達、げんき村組はカルルス村の『死の呪い』に汚染された土壌を元に戻し、げんき村にあった荒れ地を新たな共用畑として開墾した。

 そして、げんき村には村の周囲をぐるりと囲む“魔獣除け柵”を見事に完成させた。

 どちらの村も大きな事故もトラブルもなく、作業はまったく計画通りに進み、無事完了した。


 その日の夜、私は和子おばあちゃんと二人っきりでお酒を飲もうと言った。

 おばあちゃんは少し戸惑ったが、笑顔で承認してくれた。

 勝じいには悪いけど今日は席を外してもらった。ガールズトークは男子禁制なのだ。


「……この三日間、大きな事故もなく無事にお仕事を終えることができました。乃香ちゃん、お疲れ様でした」

「いや、みんなの協力のおかげだよ。ありがとう」

「どういたしまして。さ、乾杯しましょ」

「うん……」


 私と和子おばあちゃんは静かにグラスを合わせて乾杯した。

 ちなみに、今飲んでいるのはロリちゃんと出会った時に飲んでいたキッツい焼酎を水割りにしている。

 実は彼女、かなりの酒豪だったりするのだ。


「ところで、乃香ちゃん。私と二人でお酒を飲みたいなんて珍しいことを言うのですね。皆で飲むと思っていたのに……」

「あぁ、うん。たまには、いいかなぁ〜って思ってさ」

「…………フフッ。乃香ちゃん、あなたは隠し事が下手ですねぇ」

「――へぇ? か、隠し事!?」


 ――――ギクッ!? 


 和子おばあちゃんが静かに笑って私を見据える。

 その目は完全に私が何か隠していることを悟っている目だった。

 別に隠してたわけじゃないけど……。


「あなたが私を誘った時点で大方の察しはつきますよ。相談したいことがあるんですね? ベリー村長さんのことで……」

「…………へへっ、すごいや。まるで魔法使いだよ」

「歳を取ると自分だけじゃなくて周りのことも分かってくるんですよ。で、相談したいこととはなんですか?」


 和子おばあちゃんと二人で飲もうと誘いをかけたのは他でもない、いよいよ明日に迫ったベリー村長の告白に私自身が未だに答えを出せずにいたからだ。

 普通なら歳の近い山形さんに相談するべきなのだろうが、彼女はあんな調子なので下手に相談したら生きて明日を迎えられる自信がない。

 そこで、既婚者(・・・)でかつ人生経験が豊富な元小学校教師の彼女に何かアドバイスを預かろうというわけだ。


「うん、実はね――」


 私は忘れじの丘での出来事を和子おばあちゃんに洗いざらい話した。

 その上で、私には迷いがあること、自分に今の彼の想いに応えるだけの器があるとは思えないことを、でも、彼の気持ちは裏切りたくないという思いもあるということを――――。


「……と、いうわけで。私はいったいどうしたら……いいのかな?」

「あら……そうなの。それは困ったですね~」


 口では「困った」と言いつつも和子おばあちゃんの口調はまるで他人事だ。それどころか、友達の恋バナを聞いてワクワクしてるJKのように嬉しそうな顔をしている。

 ……まぁ、事実、他人事なんだけどさ。もうちょっと、親身になってもらっても良いと思うんだよね。


「――でも……その答えは私が答える必要はないんじゃないですか?」

「えっ!? いや、そんなことは――」

「ウフフ、だってもう……心の中で答えは決まってるんでしょう?」

「――――うっ!?」


 和子おばあちゃんはさっきの見透かしたような穏やかなのにやたら鋭い目で私を射抜く。

 その鋭利な視線に私は思わず口に含んでいた焼酎を吹きかける。


「いつも一緒にいるじゃありませんか。大事なのは乃香ちゃんの気持ちですよ」

「いや、でも……そんな、私一人の気持ちなんかで彼に迷惑が……!」


 なおも言い訳をしようとする私に和子おばあちゃんが静かに陶器のグラスを机に置く。

 その「コトッ」という軽い音が鶴の一声のように私の口を黙らせる。


「――私が若い頃はまだ古い考え方がありましてね、“恋愛”と“恋愛”は別物でした。結婚は政略結婚で家と家を繋ぎ存続させるための儀式。そこに、当人たちの気持ちは介入は許されませんでした。私もあの人とはそうやって結ばれたのです」

「え? じゃあ、和子おばあちゃんは勝じいのことが好きじゃなかったの?」

 

 和子おばあちゃんはゆっくりと頷く。


「えぇ……まぁ、結婚当初は自分の“気持ち”一つで男性を愛せる『恋愛』に憧れがありました。ですが、所詮憧れは憧れ……夢でしかありません。私はこの先の人生、いつか夢見た『恋』することなんてない、そうやって諦めながら毎日を過ごしました」

「そんな……」

「――でも、あの人と一緒に暮らして十何年、毎日のなかで最初は『視界に入っていた』だけのあの人をいつの間にか『見つめていた』です。そのとき、初めて自分の気持ちを知ったんです」

「…………」


 そして、和子おばあちゃんは少女のように少し頬を染めて可愛らしい笑みを浮かべた。

 なんだか、聞いてるこっちまでドキドキしてきちゃった。


「あぁ、これが『恋』だったんだと。だから、結婚して二十年目の春、桜が舞う上野の公園で私は生まれて初めての『告白』をしました……。私の人生(となり)にはあなたが必要、だから心から愛しています。――ってね」

「うんうん……」

「あの時ほど胸が苦しくなったことはありませんでした。人を好きになることの重みを知った今の乃香ちゃんと一緒の気持ちですね」


 まるで昨日のことのように覚えてますよ、と和子おばあちゃんは遠くを見ながら目を細める。

 そこいたのは、長い年月を生きていた老婦の姿はなく、初恋に胸を躍らせる少女のような彼女がいた。

 今の彼女は部屋の照明なんか暗く見えてしまうくらい、凛としていて美しかった。


 ――そして、そっと目を開けた彼女は少し自慢げに言った。


「以来、私達は三十年間、ずーっと“恋人”同士なんですよ。だから、喧嘩もする、デートもする、毎日あの人の隣で笑って、怒って、泣いて――また笑って、素敵でしょ? きっと私はこれまでも、これからも死ぬまであの人に『恋』をし続けます」

「すてき……っ。ちょっと泣けてきちゃったかも」

 

 二十年という長い時間、自分の気持ちに迷い続けた。

 そして、その先に答えを得て、三十年もの間ずっと同じ(ひと)に恋し続けた女性の話――。


 なんだか、胸がギュッといっぱいになって温かい気持ちが溢れてくる。

 最後に、和子おばあちゃんはいつもの温厚な顔に戻って、私の手を握った。

 皺だらけの優しい手から彼女のぬくもりが伝わってくる。


「……だから、迷ってもいいんですよ。迷えば迷うほど『恋』は豊かになって、あなたは美しくなる。私なんて二十年も迷ったんですから。だから、今すぐ答えなくたって……きっと、いつか乃香ちゃんの気持ちに乃香ちゃん自身が答えられる日がきますよ」


 その言葉を聞いた瞬間、ふと背負いこんでいた重荷が消えて肩の力が力が抜けたのが分かった。


 ……なーんだ、私、焦っていたんだ。

 ベリー村長の気持ちに今すぐ応えようとばかりして、自分の気持ちと向き合うこともせず、ただがむしゃらに答えを探していたんだ。

 そりゃ、見つからないよ。今はまだ答えなんてでない。でも、今はそれでいい。

 もっと、時間をかけて自分を見つけていこう。


「――うん! ありがとう!!」


 胸の憑き物が落ちた私は何日かぶりに心の底から笑うことができた。


 和子おばあちゃんも「それでいいのよ」と言うかのようにゆっくりと頷いて笑ってみせた。

 グラスに入っていたお酒はちょうど空になった。


 さて、そろそろお開き……というところで和子おばあちゃんが少し神妙な顔をしてこちらを見つめる。

 あ、これは、彼女の教師モードのときの目だ。 


「――まぁ……個人的には、早く結婚してもらって私達を安心させてほしいのですけどね」

「……うっ!?」

「だって、乃香ちゃん。男っ気が全然なくて、ちっともイイ人の話をしないんですもの。げんき村の皆、心配してましたよ。特に、勲さんが……」

「えっ、あ、うん……ゴメン」


 私は何も言い返せず、うなだれるしかなかった。

 確かに元の世界にいたときも、げんき村に遊びに行くたびに「今日の授業はクソつまんなかった~!」とか「京子と朝まで飲んで遅刻した」だとか皆が望むようなめでたい報告を一切、まったくと言い切っていいほどしてこなかった。

 

 だから、私とベリー村長と一緒にいる時、村の皆がやたらニヤニヤしてたのか……。

 ま、そりゃそうだよね。今までまるで気にしてなかったけど、私もみんなと同じ立場なら心配するわ。

 深く反省しております……。


・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・


 和子おばあちゃんが帰ったあと、私は集会所の外の壁に寄りかかって夜空に浮かぶ見事な満月を眺めていた。

 心の中で答えは決まっている――彼女は私の気持ちを知っていたんだ。

 

「……そっか、私、好きだったんだ。えへへ……悪い気がしないな。――――よしっ!」


 月明かりが燦々と降る静かな夜、私は胸に『決意』を抱いた。

〜乃香の一言レポート〜


 ちなみに、和子おばあちゃんの昔話を聞いた後、私はまた人知れずポロポロと泣いていました。

 自分で言うのもなんだかなぁ、と思うのですが私はかなりの『泣き虫』です。

 私の涙腺は相当緩いらしく。どのくらい緩いかというと……『ラ○ライブ! 二期第十一話で“かよちん”が泣き出す前から泣いている』というくらい涙脆いです。


 ただ、本編であんまりビービー泣いてるとウザいので、極力泣いてないように描写してもらってます。

 『涙は女の武器』なんていいますけど、流し過ぎればただの『水』ですよ? ご利用はご計画的に無理のない涙を心がけましょう!


 次回の更新は5月23日(水)です! どうぞお楽しみに!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ