二十七話 どうして……? 初めての気持ち
主人公のキャラが激変します……。というか、多分、こっちが素なのかも?
*
「渡したい物があります。必ず……必ず来てください」
その日――――、
生まれて初めての告白の言葉は、突然すぎるくらいに突然に私の胸に刺さった。
決意が込められたその言葉の破壊力は「金槌で頭を殴られたよう〜」なんてぬるい表現じゃまるで足りない。
不意打ちで後頭部にロケット弾を打ち込まれたくらいの衝撃だった。
「あ、ぁ……えっと、え、ええええ!?」
「…………」
これまで二十年間、男の『お』の字もなかった私の人生に突然、降りかかったこの世で一番真剣な言葉。
私は思考をまとめることができず、しどろもどろしながら素っ頓狂な声を発することしかできなかった。
ベリー村長の表情、口調、どれを見てもとても冗談や演技をしてるようには見えない。
彼と出会ってからそんなに日数が経ったわけじゃない、だけど一緒にいた時間は私の人生の中で誰よりも長い。
だから、分かるのだ――――今の彼は間違いなく本気だ……ッ!
ってことは、『渡したい物』ってつまり、指輪ですよね? ってことは、これってプロポーズ!? そんな、私、男の人と付き合ったことなんて無いんですけどー!?
「ちょ、ちょっと……待ってください! べ、ベリー村長……いくらなんでも気が早すぎませんか? その、いろいろと準備というか、順番というか……私達、まだ出会ってそんなに経ってないわけですし、お互いの気持ちをセッションしながらですねぇ……」
「……やはり、乃香村長は分かっていたんですね。いつかはこうなることを――」
「いやいや!? 全然!? むしろ、今でも信じられないくらいですよ!? ただ、なんというか、ベリー村長の気持ちは……その、嬉しいのですが。まだお互い時期が早いんじゃないかと思うんですよ。突然のことで、まだ私も決心ができてませんし」
「つまり、時期尚早と? 確かに、そうかもしれま――いえ、貴女の幸せを考えれば、一刻も早く決断すべきです!」
―――――――――――――――――――ッ!?!?
相手の幸せを考えれば即結婚!? ウソでしょ!? いくらなんでもアグレッシブ過ぎでしょ、この世界ッ!!
いや、でもでも……お互いの気持ちが冷めきっちゃうと結婚ってなかなか切り出せないよね……いや、だからって、出会って一ヵ月も経ってない異性にプロポーズするか!? この世界では『電撃結婚』なんて当たり前なのかな?
こりゃ、フラ〇デーも文〇もこの世界じゃやっていけねぇな。
――じゃなくて! 私は余計な考えを振り払うように首をブンブン振る。
まったく、これからカルルス村、げんき村が一丸となって行うビッグプロジェクトが始まろうって時にタイミングが悪い。悪すぎる!
えぇい! この件については後で考えよう! 今は一時撤退じゃ!
「――と、とにかく! 私、戻りますから……!」
私は逃げるようにベリー村長に背を向けて、『忘れじの丘』から立ち去ろうとする。
今は、そんなこと考えている場合じゃない。それに、彼は作業が終わってからここに来い、と言ったのだ……なら、今は目の前のことに集中して――――、
「待ってください!」
その悲痛にも聞こえた彼の声に動揺して一瞬、足が止まった瞬間にベリー村長が私の手を少し強引に掴んで引き止めた。
元々、この歳になると男女の力の差は歴然な上にかつて人間兵器だった彼の力を前にしては私は一歩たりとも彼から離れることはできなかった。
それでも、あえて私は彼に顔を見せることなく振り返ったまま俯く。
「…………離してください。私、戻りますから」
「お願いです。もう少し、もう少しだけ、ここにいてください……!」
「ワガママ言わないでください。さっきは早くしろって言ったり、今度は行くなって言ったり、めちゃくちゃですよ。何がしたいんですか……あなたは」
「………………」
ちょっと言い過ぎちゃったかな……? 私はベリー村長を突き放すような言葉を極力感情を抑えながら言った。
彼は押し黙って、何も返事を返さない。少し効きすぎたようだ。
でも、今の彼が何がしたいのか私にはさっぱり分からないのは事実だ。
「僕にも……分からないんです。今、どうしたらいいか」
「どうしたらいいかって、そんなもの決まってるじゃ無いですが!? まさか、今さら不安になって怖気づいたとか言わないでくださいよ」
「…………そうかも知れません。僕は今になって急に貴女と離れることが怖くなった。だから、もう少しだけ……ここに――」
「――――ッ!!」
…………はぁ? ふざけるなよ。
情けないほど弱気なベリー村長の声に私のなかで怒りが急に沸騰して、ギリギリと歯が軋むほど強く噛みしめて、勢いよく振り返り思っきり彼の顔面にビンタをかました。
――――バチンッ!!
破裂音にも似た乾いた音が響いた。
一切の力加減をしていない私の本気のビンタだったが、それでもベリー村長は顔が少し横に向いただけで、身体はびくともしなかった。
それでも、精神的にばっちりダメージは入ったようで彼は赤くなった頬に手を当てながら呆然としている。
私は怒りに任せて捲し立てるように彼に怒声を浴びせる。
「さっきから聞いてりゃあ、なよなよしやがって……! 甘ったれんじゃねぇぞッ!! お前、この村の村長だろう!? 私の相棒だろ!?」
「の、乃香村長……?」
「お前がそんなんでどうすんだよ! お前が皆を導くんだろ? お前が私達をこの世界に呼んだんだろ? なら、お前は前を見なきゃダメだろうが! 迷ってたらダメだろうが!!」
「…………」
まったく、本当に情けない! まさかベリーもって思ってたけど、普段リーダー気取ってる男っていざっていう時に急にチキンになるんだよね! マジ、ムカつく!!
いざっていう時に頼りにならなくて、何がリーダーだ! 何が村長だ! バカバカしい。
熱血! 修○モードに入ってしまった私の怒りの熱はいまだに治まらなかった。
それどころか、ウジウジと下を向いて黙り込んでいるベリー村長を見て更にイライラが増して、熱が上がっていた。
「下を向くな! お前が見なきゃいけないのは地面じゃねーだろ!?」
「……はい」
「ほら、顔を上げろ! 前を見ろ!!」
私は下を向いているベリー村長の顔を両手で鷲掴みにすると、乱暴に顔を上げさせる。
――あっ、ヤバい……ッ。めっちゃ顔が近い。
これまで、彼の顔を何度も見てきたが、ここまで近いのはこの世界に転移したばかりの時以来だ。
その時、私の胸の鼓動が確かにハッキリと一拍、静かに強くなる。
「乃香村長……っ。あの――」
「…………ぐっ!」
ま、マズい……! な、な、何だこれ!?
彼の弱々しくも健気な目で私を見ている顔を見ていると、溜まっていた怒りが嘘のように消えて、代わりに胸を激しく打つような感覚が押し寄せる。
母性本能とは少し違う。守ってあげたいという感情と一緒に「この人の隣にいなきゃ!」という使命感にも似た感情が私を突き動かす。
「――と、とにかく……! 今は、目の前の課題に集中! これだけです。ね? ほら、だから……」
「…………」
私はベリー村長の顔からそっと手を下ろした。
彼の目から迷いがほんの少しだけ消えて、吸い込まれるようなスカイブルーの綺麗な瞳に光が戻ってくる。
そんな彼に私はそっと手を差し出した――。
「戻りましょう、ベリー村長」
「……はい。乃香村長」
ベリー村長が真剣な眼差しでそっと、私が差し出した手を取った。
瞬間、私の胸の内にポッと小さな灯が灯ったようなほんのりとした温かさと淡い切なさが込み上げてくる。
いつかの時もこうして手を握った。でも、あの時はちっとも意識していなかった、彼の手から伝わる少し高めの体温や微かに感じる脈――。
「…………」
「…………」
私は黙って彼の手を引いた。
彼は黙って私に手を引かれた。
丘を降りるまで、二人はただの一言も交わさなかった。
風が草を撫でる音、そして私達の歩く足音だけが――このたった数分間の白昼夢のような時間の中で許されていた。
ふと、後ろを歩く彼の顔が見える――――どうしてだろう? 初めて会った時のはにかんだ顔も、私を初めて『村長』と呼んでくれた時の笑顔も、車に乗った時の子供のようにはしゃぐ顔も、時々見せるあの真剣な表情も、全部、全部……はっきりと覚えている。
今までの人生で、こんなにも人の顔を覚えていたことがあっただろうか?
……違う。覚えていたんじゃない。
私は、彼の表情を覚えようとしていたんだ。
「あなたの隣で、あなたの色んな顔を見ていたい」 ねぇ……、この胸の中がむず痒くて、ツンと張り裂けてしまいそうなこの感情はいったい――――?
〜乃香の一言レポート〜
いつもみたいに、ふざけて書こうと思ったけど……どうしてでしょう? 頭がぼんやりして言葉が上手くまとまらないんです。だから、今日はこの辺で……次はちゃんと(?)書きますから…………。
次回の更新は5月16日(水)です。
次回はベリー村長がメインのお話です! どうぞお楽しみに!!




