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私達、異世界の村と合併します!!  作者: NaTa音
第一章 はじまりの春編
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第二十六話 春風の吹く丘、決意を抱いて……


 山形さんの淹れたお茶はびっくりするほど……………………美味しかった。

 その味は紅茶の違いなんてまるで分からない私にも「これは美味い!」と言わしめるもので、やっぱり上手な人が淹れると美味しくなるのだと再認識させられた。


 美味しすぎて一口目に「変な薬を入れたんじゃ……」と疑ってしまったことは墓場まで持っていくつもりだ。

 しかし、アラサーとはいえ、黙ってさえいれば、この美男美女が揃うこの世界でも肩を並べられるくらい容姿端麗、スタイルも良い、仕事もできる、多分、家事スキル高い――こんな好物件に結婚相手どころか男の一人も寄り付かないとは……“運が悪い”を通り越して“呪い”のレベルである。

 そう思うと、ほんの少しだけ同情してしまう。きっと、彼女がこんな性格になってしまったのはその“呪い”のせいなのだろう。

 

 そんな彼女はベリー村長の隣にベッタリと貼り付くように座って熱い視線を送りながら必死の求愛行動をとっている。


「どうです? どうです? 私の淹れたお茶、お口に合うといいんですけど……」

「はい、とっても美味しいです。紅茶は私の世界にもありますが、ここまで美味しいのは初めてです。淹れ方が良いとここまで変わるのですね」

「やった♡ 褒められちゃった♡」

「いや、ほんとおどろきですー」


 この人、本当に私より年上なんだよね? なんかもう恥ずかし過ぎて見てるこっちが耐えられない。

 私の想像するアラサーってもっとこう、落ち着きと気品があって『ザ・大人の女性』って感じだったんだけどなぁ。

 今の山形さんにはその気品の欠片すら見られない、まるで獣のような獰猛さとイケメンに喰らいついたら離れない蜘蛛のようなあざとさ――おぉ、痛ましや……!


「なに? 口に合わなきゃ飲まなくて結構よ」

「いいえ、いただきます――」

「……なによ? まだ、何か言いたいの?」


 山形さんがポットを手にしたまま訝しげな顔をしてこちらを見る。

 私は慌てて空になったカップに視線を移し、彼女の視線から逃れようとする。

 意外と勘が鋭いんだよなぁ……この人。


「いえ、気にしてないのかなぁって思って」

「何が?」

「あの時、私と山形さんは、その……対立して――」

「はぁ……? そんなことでクヨクヨしてたの、あんた? がさつに見えて意外と繊細なとこあるのねぇ〜」


 山形さんは呆れた顔でため息を吐いて、椅子から立ち上がりベリー村長の隣を離れて、私の隣に腰掛ける。

 そして、空になったカップに静かに紅茶を注ぐ。


「私が“ガキ”って言ったのは覚悟も責任もなく、その場の雰囲気と思いつきだけで突っ走ろうとした奴のこと。今のあんたは、まぁ、それなりに覚悟が決まってるじゃない。自覚があって責任を持てるっていうなら私から言うことは特に無いわよ」

「…………」

「だから、まぁ……その――がんばりなさい」

「……山形さん」


 山形さんは恥ずかしかったのか顔を逸らして鼻を鳴らした。

 横顔から見える彼女の耳がほんのりと赤い。なんだよ、あんたもツンデレかよ……。


 思わず、クスリと笑みが漏れた。

 「これで、いいんですよね?」と確認をするようにベリー村長の方へ視線を送ると彼も満足げな笑みを浮かべて黙って頷いた。


「――そうだ♡ ベリーさん、美味しいお茶菓子もあるんですよ。宮崎さんが隠し持っていたんですがちょっと持ってきちゃいました」

「それは、宮崎さんが怒りませんか?」

「大丈夫ですよ、彼、最近ちょっと太り気味なんで、ダイエットのお手伝いですよ! お手伝い♡」

「…………(黙ってお茶を啜る)」


 なんて横暴な……! と言おうと思ったが、なにせ私も似たような理由で宮崎さんのヘソクリ菓子を失敬しようと考えていたんだ、ここは黙っとこ……。

 

 しばらく、三人で――といっても、山形さんが一歩的にマシンガンのようにベリー村長に向かってしゃべり続け、テキトーな相槌を返す彼を見ながら私が心の中で彼女を鼻で笑うという構図でお茶を楽しんだ。

 ベリー村長が三杯目のお茶を飲み終えたところで、注ぎ直そうとする山形さんを手で制した。

 心なしか三杯目のお茶を飲むスピードが前の二杯に比べて速かった気がする。

 

 あちゃ~、山形さん、こりゃ、敗戦濃厚ですぞ?


「――乃香村長、少し外に出ませんか?」

「へ? いいですけど……」

「あのぉ~、私も――ダメですか?」

「申し訳ありません、絵美さん。少し乃香村長と話しておかなければいけないことがあるので……」


 ベリー村長は付いて行きたそうな山形さんをバッサリと断る。

 こういうところ、彼は非常にサバサバしているという、ドライなのだ。

 彼にフラれた山形さんは(´・ω・`)(しょぼん)という顔をして「そうですか……」と残念そうに呟く。

 

 ありゃりゃ、フラれちった……。だから言わんこっちゃない。


「では、乃香村長、行きましょうか。絵美さん、美味しいお茶をありがとうございました」

「は、はい……。ベリーさん、お気をつけて」


 私は部屋で背中を小さくする山形さんを尻目に先を行くベリー村長の後を追った。

 出てきたばかりの彼女にはちょっとばかりキツいお灸だったかな?

 いや、これ以上、増長されても困るしちょうど良いくらいか――そう思うことにして私は部屋を出た。


・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・


 私とベリー村長は集会所を出ると、げんき村とカルルス村の両方が見下ろせる『忘れじの丘』に足を運んだ。

 まぁ……気分転換の散歩の終着点としてはもってこいの場所だ。


「――いよいよ、ですね……」


 春風で髪を弄ばせながら私は呟くようにベリー村長に告げる。

 村長も静かに頷く。


「えぇ、そうですね。やっとここまで来た、という感じです」

「たった数日というのに、なんだかもう一年くらい経っちゃった気がしますよ」

「それだけ多くの事を体験した、ということですよ」

「思えば、あの時から――私は、『運命』ってものに導かれていたのかも知れませんね。あの時、私が京子に捕まっていたら、あの時、勝じいとアニメを見ていなかったら、あの時、山形さんと対立していなかったら……どれか一つでも欠けていたら私は、ベリー村長の隣に立ってはいませんでした。一つ一つの小さな意志と行動が今の私を作っている――そんな気がして…………って、あれ? ――村長……。ベリー村長、聞いてますか?」

 

 私がせっかく良いこと言ってるのにベリー村長は遠くを見つめたまま口を硬く結んでぼんやりと遠くを見つめていた。


 あぁ、これはあれだな……何かを思い詰めている顔だ。

 さっきも私に話したいことがあるって言ったし、多分、それ絡みなのだろうけど――とはいえ、こんなところでぼんやりされても困るので、私はベリー村長の方を軽く叩く。


「――えっ!? あぁ、はい……聞いていましたよ」

「聞いてませんでしたよね? まったく、これから、本番だっていうのに……。あ、もしかして! ベリー村長、緊張してます?」

「え、いや……そんなことは――」

「へぇ~! ベリー村長でも緊張することあるんですね~! ちょっと、意外でした」


 今まで緊張の『き』の字だって見せなかった村長が緊張してる……フフフッ、わりと可愛いところあるじゃん。

 

「そ、そうですかね~」

「そうですよ。ベリー村長ってなんか少し落ち着きすぎてるところがある人に見えたのでそんな風に緊張した姿を見てると親近感が湧いてきます♪」

「そうですか? 僕だって緊張することの一つや二つはありますよ」


 ベリー村長はいつも通りのユルユル応対をしているのに、どこかぎこちなかった。

 何かを切り出すタイミングを伺っている――そんな風にも見える。

 多分、さっき言っていた私にする『話』の件だろう。


 まったく、仕方のない人だなぁ〜。意外と不器用なんだから……。

 しょうがない、私から振ってあげますよ。


「ベリー村長?」

「はい、なんでしょう?」

「そういえばさっき、私に話があるって言ってましたけど……」

「あ、あぁ……そうでしたね」


 突然、ベリー村長が穏やかな顔を引っ込めて、すごく真剣な眼差しで押し黙りながらこちらを見つめる。

 な、なに……!? 突然、真剣な眼差しを向けられた私は何かマズイことでも言ってしまったかと、しどろもどろする。


「べ、ベリー村長?」

「……乃香村長」

「――は、はい」

「…………やっぱり、この話は後にしましょう。乃香村長、この作業が終わった次の日の昼にもう一度ここに来てくれませんか?」


 えっ……? 言わないの?


 私は思わずあっけに取られた。

 それは割と失礼なことすらズケズケを言ってのける意外とドライなベリー村長が初めて自分の言葉を見送った瞬間だった。


「あ、後にするんですか? ベリー村長が珍しいですね……」

「すいません、なかなか決心が着かなくて」

「えっ? 決心? そんなに大事なことなんですか?」

「えぇ、僕と乃香村長の今後に関わるとても大事な話です――」


 そう言い放つベリー村長の表情はひどく迷っているようにも、固く決意を決めたようにも見える。

 まるで、弱気と強気が同時に出てているような顔だ。


 私と彼の今後に関わるって…………えっ? ちょっと、ちょっと待ってよ――!?


 言葉の意味を飲み込む間もなく、彼は私に追い打ちをかけるように顔に出ていた迷いを振り切って意を決した目で私に静かに告げる。





渡したい物(・・・・・)があります。必ず――必ず来てください……」





 ………………へっ? えっ? ちょっと……。

 う、うそおおおおぉおお!?!? ま、マジですか!? 

〜乃香の一言レポート〜


 ここは私が好き勝手できる息抜きの場所だってのに、最近「”おねしょた”っていいよね〜」なんて言ってる作者から、そろそろ真面目にやって……と、勧告がきました。


 うるせー、私は私のやりたいようにやる! 本編でもだいぶ好き勝手やってるけど、ここではもっと好きやる!!

 あと、“おねしょた”もいいけど、やっぱり、私は妹キャラ&少女(ロリ)一筋だーーーーッ!!


 次回の更新は5月13日(月)です。

 今週の金曜日は誠に勝手ながら休載させていただきます。

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