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私達、異世界の村と合併します!!  作者: NaTa音
第0章 チュートリアル編
3/84

プロローグ ③

これでプロローグはおしまいです。

次回から異世界に入ります!!

 

 京子率いる『愛知 乃香捕獲部隊』から入念な作戦と機転の利いた行動により見事、逃げおおせた私は大学から原付で二十分ほど行った堤防沿いの道を走っていた。

 堤防の脇に立ち並ぶ桜の木々は咲いている花もちらほら見受けられるが満開には程遠く、お花見しようにもあまりにも寂しすぎる。

 ま、それはそれで風情があっていいけどね。


 呆然と空と桜の木と、川面を眺めながら走っていくと目的地がうっすら見えてきた。

 私が一人暮らししているアパートとは逆方向にある二つの河川の堤防に挟まれた土地にそれはある。


 「春休み前に行った以来だからな〜。みんな、元気にしてるかなぁ?」


 たった数ヶ月前のことなのに、まるで何年も昔のことに思えてくる。

 つまりそれは私にとって、ここに来ることがそれだけ待ち遠しかったのだろう……。


 目的地に近づいていくと、まだ少しひんやりとする春風に運ばれて草木と土の香りが鼻孔をくすぐる。

 コンクリートの建物にまみれ、吸いこむ空気には車の排気が混じる、無機質な都会には無い“美味しい空気”。

 そんな空気を鼻いっぱいに吸い込んで、私は叫ぶ――。


「ひさしぶり! “げんき村”!!」


 『仏山町げんき村』。


 今から、十年ほど前に建設された日本初の『農村型老人ホーム』だ。

 

 還暦を迎えた65歳以上の老人と複数人の職員からなる『農村』の形をとる新興の老人ホーム。

 閉鎖的なこれまでの老人ホームのイメージを覆す斬新な発想のここは、都市部から近いこともあり非常に人気で、入居希望者が後を絶たない。

 『自給自足』をスローガンに掲げるこの老人ホームは、ガスを除く、ほぼ全てのライフラインをこの施設内で賄うことができる。

 農村というだけのことはあり、野菜作りを中心とした農耕が盛んで、老人ホームとしてだけでなく、『むかし体験イベント』の会場としても子供から大人まで広い人気を誇る。


「――む? あそこにいるのは……」


 風力発電の風車が立ち並ぶ一本道を走っていると、前方に白い人影が見えてくる。

 

 ツルツルピカピカに禿げ上がった頭にちっちゃな丸眼鏡。

 腰の曲がっていない、まっすぐとした出立ち。

 そして、何より印象的な子供のように無邪気な笑顔をしているあの老人は……。


「――勝じいーーーーーーッ!!!」


 私が思いっきり叫ぶと、“勝じい”と呼ばれた老人は腕を振って応える。

 あぁ、やっぱりそうだ! 勝じいだ!! 迎えに来てくれたんだ!


 私は勝じいの前でゆっくりと原付を止めた。


「勝じい、ひさしぶり! 元気だった?」


 ――(かつ)じい、本名は秋田(あきた) (まさる)


 このげんき村の最年長の一人で、戦争を経験したことがある数少ない世代の人間。

 詳しくは知らないが、昔は海軍で軍艦に乗っていたらしい。


 ……そして、私の人生を変えてくれた恩人の一人だ。


「うん、おかげさまでな。乃香ちゃんこそ元気じゃったか?」

「見てのとおり。ところで、こんなところまで来てくれたのはお出迎え?」

「正解、ばあさんがそろそろ来そうな予感がするから見てきてほしいとな……」


 なるほど……、私が頷いて原付を降りると勝じいはゆっくりと踵を返して歩き出す。

 私も横に並んで歩きだす。

 

「じゃ、行こうかの……」

「うん。――ところで、勝じい……」

「ん? どうしたんじゃ?」

今期、何本観る(・・・・・・・)?」


 この手の質問を多くのおじいちゃん、おばあちゃんたちは理解できない。

 いや、場合によっては同世代でも理解できないものいる。

 しかし、勝じいは私の質問の意味をしっかり理解して、ニコッと笑って答える。


「そうじゃのぉ~、とりあえず三本じゃな!」


 そう言って、勝じいは少年のような笑顔で骨ばった指を三本立てる。


 そう、勝じいは私の恩人でありアニメ友達でもあるのだ。

 その年齢差は六十歳以上であるが、話していてまったく違和感は生じない。

 むしろ、多くの経験を積んだ勝じいとアニメの会話をすると新たな発見や刺激を得られて、とても勉強になる。


「三本かぁ……私は忙しくてロクに観れてないんだよね」

「録り溜めしたやつがあるぞ? 観てくか?」

「アレはある? ほら、土曜の2時半からのやつ。二期から観れてないんだよね」

「あるある。まだ、三話までじゃから昼飯が終わったら一緒に観ようか」

「勝じい、さすが〜! うん、観るみる!! じゃ、早く行こッ!」

 

 私は勝じいの手を転ばないようにゆっくりと引いて急かす。


 五分も歩いたところで、庭付きで瓦葺きの日本家屋がいくつも見えてくる。

 農村型老人ホームのげんき村では入居者に部屋の代わりに『家』が丸々一軒、与えられるのだ。

 げんき村は集会所を中心としてへやが密集するエリアと田畑のエリアが分けられている。


 そして、その一軒の家の庭先には白い円卓と四脚の椅子が並べられ、円卓のすぐそばに可愛らしいおばあちゃんが立ってニコニコと笑いながらこちらを見ていた。


和子(わこ)おばあちゃん〜!」


 私が呼びかけると和子おばあちゃんは愛嬌のある仕草で手を振り返す。

 彼女は勝じいの妻である、秋田 和子(かずこ)というのだが、響きが可愛いので『ワコ』という読みで呼んでいるのだ。

 

「ずいぶんと早かったですね」

「だって、楽しみだったんだもん! 飛ばしてきちゃったよ」

「あらあら、嬉しいわぁ……。でも、事故には気をつけてくださいね。怪我をしてしまえばせっかくの楽しみも台無しですよ。分かりましたか?」

「は、はい……すいません」


 やんわりとした声には優しさだけではなく、貫禄と威厳がビッチリと刻み込まれている。

 さすがは、元学校の先生……敵わないなぁ~。

 ちなみに、先生だった頃の和子おばあちゃんはまるで『大和撫子』を絵に描いたよつな(したた)かで、清廉な別嬪(べっぴん)さんだったのだ。


「とにかく、二人とも元気そうで嬉しいよ!」

「ハハハッ! 乃香ちゃんが遊びに来るようになってからは、おちおち病気もできんようになったわい! のう、母さん」

「えぇ、本当に……。乃香ちゃんが元気をくれるのか、このところ、咳一つしませんねぇ」


 豪快に笑う勝じいと口に手を当て小さく笑う和子おばあちゃんは絵に描いたような仲の良い老夫婦っぷりだった。

 すると、私の背後から近づいてくる人物がもう一人――この足音は、


 「なんだ、また来たのか……」


 私の背後でぶっきらぼうな嗄れた声が響く。


「久しぶり! 勲おじいちゃん!!」


 私は振り返って、わざとらしく手を振る。

 そこには、白髪をたっぷりとたくわえ、口を真一文字に結んで、睨むような鋭い目つきでこちらを見る、見るからに頑固そうなおじいちゃんがいた。


 岩手 (いさお)――。

 勝じいと同じ船に乗っていた戦友兼、ライバル。

 そして、京子の祖父であり、彼女と私を引き合わせてくれた、いわばキューピッドのような人である。


「ふん……! お前が来ると騒がしくてかなわん」

「いいじゃん! 楽しくて! ね? 勝じい?」

「そうじゃ、そうじゃ! 一番、楽しみにしとったくせに素直じゃないのぉ〜」

「誰が楽しみにしていたと言った。仕方なくだ、しかたなく」


 勲おじいちゃんは口を尖らせてそっぽを向いた。

 そんなおじいちゃんを見て、私と勝じいはニヤニヤしながら目を合わせる。


 ……そう、岩手 勲は他でもない『ツンデレ』なのだ!

 もう、からかうのが楽しくて仕方ない。


「ツンデレじゃの!」

「ツンデレだねぇ〜!」


 勝じいと私は手を口に当てて、勲おじいちゃんをからかう。

 すると、決まって……


「なんだと!? 貴様ら、儂を愚弄するつもりかッ!!」

「おおっ、ツンデレじいさんが怒ったわ。怖いこわい〜」

「その“つんでれ”とかいう言葉を止めんか! えぇい! その弛みきった根性を叩き直してくれるわ!!」

「ハッ! やれるものならやってみろ! 時代について行けない石頭の頑固ジジィが!!」


 勝じいと勲おじいちゃんは出会うといつもケンカになる。

 それでいて、戦友なのだからまるでト○とジ○リーのようで微笑ましい。

 その後、四人で昼食を取り、勝じいと録り溜めしたアニメを観てから、アニメ談義を日が暮れるまで行った。


 でも、楽しい時間はいつまでも続くわけじゃない、別れの時は必ず来る。


「次はいつ来るかの?」

「うーん、まだなんとも言えない。でも、近いうちにまた来るよ。その時は連絡する」

「待ってますよ。私達はいつでも歓迎しますから」

「ふん、もう来んでいい」


 勲おじいちゃんがそっぽを向く。

 分かってるよ、「また、来い」って言ってるんだよね。


「また来るよ。おじいちゃん、おばあちゃん。バイバイ!」


 私は手を振ると、原付に乗って一本道を戻り、家路についた。

 帰り際、和子おばあちゃんからアスパラガスをもらったので、今夜の肴の一品にしようとワクワクしながら一人暮らしをするアパートを目指す。

 夕暮れに染まった一本道を風と共に走っているまさに、その時にそれは起こった――――



 突然、 数十メートルの青白い光がまるで地面から壁のように空に伸び、げんき村を囲いはじめる。


 

 なんだこれは……!? 私は驚きのあまり、その場に原付を止めて、言葉を失って呆然と空を眺めていた。

 非日常なんてものじゃない。もはや、理解不能な目の前の現実に私の思考は完全に停止した。

 

「……ぁ、……――ッ!」


 どれくらいたっただろうか、ようやく動ける程度には冷静さを取り戻した私は、原付を反転させて住宅エリアへ直行する。

 おじいちゃん……! おばあちゃん……! どうか無事でいて…………ッ!!


 住宅が並ぶエリアに入る寸前の道に白い開襟シャツを来た大柄な人物の影が目に入る。


「あっ……! 乃香ちゃん!?」

「宮崎さん!?」


 宮崎さんはこのげんき村に在住する中年の男性職員で、ぽっちゃりとした体型が特徴の――って、今はそんなことどうでもいい!!


「乃香ちゃん、これはいったい……」

「分かりません。私もさっき、来たばかりですから。ところで、山形さんは?」


 山形さんはげんき村のもう一人の女性職員である。


「彼女は今、各々の家に回って外に出ないように言って回ってるよ」

「そうですか……じゃあ、みんな、取り残されてしまったのですね」

「そうみたいだ……。でも、迂闊にあの壁を超えるのは危険だ。僕達もみんなの非難が終わったら集会所に避難して助けを待とう。これだけの異常だからね、助けは必ず来るよ」

「分かりました! 私も手伝います!!」


 私は大きく頷くと、宮崎さんも無言で強く頷く。

 今は一刻も早く、外に出ている村のみんなを家に避難させなくちゃ!!


「じゃあ、山形さんは西側から非難をさせているから、僕は東側を、乃香ちゃんは原付を使って奥の方の家を担当して!」

「分かりました!」


 私たちは同時に頷くと、それぞれの担当する場所に向かって走り出した。

 その時、げんき村を覆っていた光の壁が一気に輝きを増して膨れ上がる。 


「……何が!?」

「うわああああああああ!」


 眩し過ぎる光に視界が奪われ、真っ白な世界が私たちを覆い尽くした。

〜乃香の一言レポート〜


どうやら、勝じいは最近、アニメだけでは飽き足らず『JK語』なるものに手を出し始めたらしく、「マジ卍!」って言ったときはさすがに引きました……。


次回の更新は明日、3月22日(木)です。

どうぞお楽しみに!!

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