第二十四話 暴走! 山形 絵美!!
タイトル通りです。久しぶりに出てきたので暴走気味です……
*
――数十分後……。
「お待たせしました――」
集会所の扉が開かれ、山形さんがようやく出てくる。
まったく、どれだけ人を待たせ――
「――ぶッ! や、山形さん!?」
「先ほどはお見苦しいところをお見せしてしまい申し訳ありません。はじめまして、私、山形 絵美と申します。どうぞよろしくお願いいたします……」
「こちらこそ急に押しかけて申し訳ありませんでした。改めて、カルルス=ベリーです。どうぞ、気軽に“ベリー”とお呼びください」
「いえ! そんなとんでもありません。ベリーさん♡」
そう言って、絵に描いたような淑女は朗らかな笑みを浮かべる。
瞬間、私の背中におぞましい程の悪寒が走り抜ける。
まるで、見てはいけないもの見て、聞いてはいけない声を聞いてしまったように……。
普段のドキツい印象の山形さんは一転、顔は浅めの化粧が施され、わずかに頬を染めた彼女は素性を知らない人間が見れば淑女にしか見えない。
というか、黙ってさえいれば女の私が見ても彼女は美人なのだ。
しかも、いったいどこから持ち出してきたんだろうか、私服もバッチリ決めていて香水まで付けている。
この豹変っぷり、誰がどう見てもベリー村長を狙っているとしか思えない。
「――ところで、ベリーさん。今日はどのようなご用件で、こちらに?」
「はい、今日はげんき村のほうに魔獣除けの柵を設置するので、まずは宮崎さんにご挨拶をと……」
「まぁ、そうだったんですね。お疲れ様です……。宮崎ならすぐにでも呼んできますね!」
「――あぁ、その前に……! 山形さん、でしたね。貴女にも一つお願いがあります」
「はぁ!?」
集会所に戻ろうとする山形さんをベリー村長が呼び止める。
呼び止められた山形さんはその顔に歓喜の色を浮かべたがすぐに困惑の表情を使って偽装する。
おい! ベリー村長、あんたなに余計なことしてんだよ!?
私は、この人とつい数日前に対立してたんだよ! できれば一分でも一秒でも顔を合わせたくないんだよ!!
「な、なんでしょう……?」
「身勝手なことと承知の上でお願いします。貴女にも、ぜひ! 私達に協力してもらえませんか?」
「えっ――!?」
「お願いします……」
ベリー村長は山形さんに恭しく頭を下げる。
村長、こんな人に頭を下げる必要はありませんよ。
どーせ、どんな風にお願いしたって、返ってくる返事なんて――
「――――はい! 喜んでッ!!」
ほーらね、知ってたよ。
そりゃそうだ、こんなの日の目を見るより明らかだ。
私はわざとらしく大きなため息を吐く。
なんかもう……彼女との対立を気にしていた自分が馬鹿馬鹿しくなってきた……。
「ありがとうございます。絵美さん」
「きゃ♡ やだ! 絵美だなんて! そんな、そんな……」
「…………」
うわぁ……。
もうすぐ三十代になろうとする女性が顔を赤らめながら身体をくねくねしながら「そんな~///」ってやってる姿のイタイこと極まりない。
悲惨とすらいえるその姿に私は言葉を失っていた。もう、今日は部屋に帰ってしまいたい気分だ。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
「――この大きなプロジェクトの成功のためには皆さん一人一人の協力と結束が不可欠です! 皆さんの一人一人の力は確かに小さいかも知れません! しかし! どんなに小さな力でも集まれば死の呪いに汚された大地を救うことだってできるでしょう――ッ!!」
いよいよ始まるげんき村の総力を挙げて、死の呪いで汚染された土壌を元に戻すという作業。
この一大プロジェクトの成功のためには皆の士気を向上させないことには成功はないだろう。
私達はそのために村の皆を集会所に集めて決起集会を行っていた。
そして、私はその熱の入った、入りまくりな演説を――――
「さぁ! 皆さん!! 私達の力を合わせてカルルス村を――ベリーさんのいる村を救いましょう♡」
――――皆に混じって聞いていた。
体育座りで、目の前の登壇に登ってあつ~い演説をする山形さんを見上げながら……。
「……乃香ちゃん、なんじゃコレ?」
左隣に座っていた勝じいが小声で尋ねる。
そのセリフはこの場にいる全員が心の中で呟いているよ。
「さぁ、私が聞きたいくらいだよ……」
「ありゃ、完全にメスの顔じゃて」
「はい! そこ、私語は慎むように――ッ!!」
「「へーい……」」
山形さんはベリー村長から話を聞くなり、げんき村の皆を集会所に緊急招集をかけて、村長も交えて勝手に決起集会を敢行した。
今はちょうど、その意気込みを熱く語る演説の真っ最中――本当は私がやるはずだったのに。
当然、村の皆は大困惑。
それも、当然、昨日まで敵だった人間が突然、味方になったと思ったらいきなり指揮を取り始める始末なのだから……。
「つまり、私は――!」
「…………」
「………………」
その熱意の強さたるや、会場にいた勝じいをはじめとする歴戦のご老人達に反対意見を言わせぬほどだった。
秋の空と乙女の心は変わりやすいとはよく言ったもので――もっとも、アレを乙女として見るならの話だけど。
私には彼女が獲物を狙う飢えた肉食獣か、肉に喰らいついて放すまいと唸っている狂犬ににしか見えない。婚期が残り少ないと悟った女とは恐ろしいものよ……。
私もああなっちゃうのかなぁ~、いやだなぁ~。
「しかし、絵美さんがここまで積極的になってくれるなんて……。乃香村長の心配は杞憂に終わりましたね」
「ええ……まったく」
私の右に同じく座っていたベリー村長が無神経に笑いかける。
なにヘラヘラ笑ってんだよ! 殴るぞ? ほっとけば良いものを余計なことして、彼女を勢いづかせたのはあんたなんだからね!?
――いや、違うな、元凶はあの“ベリリ”とかいうボケナス女神だったな……。
今までの素敵な出会いの数々を考慮して少し恩赦をかけようと思ったけども、やっぱりその女神だけは私の手で一発ぶん殴ってやる!!
「の、乃香村長……?」
「――はい? なんでしょう?」
「顔が怖いです……」
「そうですか? 一体誰のせいでしょうね~」
結局、山形さんのあつ~い演説は一時間以上繰り広げられた。
最後の方なんか熱くなりすぎて松岡 〇造みたいになってたし……。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
結局、宮崎さんが熱弁する山形さんが熱弁を止めるまで、彼女の暴走は止まらなかった。
正座に慣れているはずの和子おばあちゃんまで「少し痺れました……」と若干お怒りだったので、山形さんの演説――というか求愛行動がどれだけ長かったのかが分かるだろう。
私はというと、その長時間の正座に耐えられるはずもなく、みんなの広場の床で悶絶していました。
「う……お、おぉ……ッ! 足がぁ――私の足がぁああ……!」
「大丈夫ですか? 乃香村長? うわぁ~、紫色になってますよ」
「あの独身、アラサー、高慢、猫かぶり、長演説、独身女めぇ~!」
「彼女なら意気揚々と皆さんを引き連れて外に行かれました。乃香村長は行かないんですか?」
それができたらとっくに行ってますよ! ただ、足がパンパンに膨れてまるで立つことができないんですよ!!
紫色に変色した脚はまるで膨れた水風船のようになり、足全体にビリビリと電流にも似た嫌な痺れが走る。
「行きたいのは山々ですけど……動けなくて……あははは――はぁ……」
「そうですか、では、仕方ありませんね。乃香村長、失礼します――」
「なにを――うわッ!? ちょ、ちょっと! ベリー村長!?」
「あぁ、暴れないで。落としてしまいます。しっかり――捕まって」
「…………は、はい……」
ベリー村長は私の身体をひょいと持ち上げると両腕に抱えて『お姫様抱っこ』をする。
フォガラ大地下水道の時も同じようにしてくれたっけ……? あの時は、恥ずかしかったけど――ううん、今も恥ずかしんだけど……どうしてだろう? ちょっぴり嬉しい――――。
そのままベリー村長は私を抱えたまま廊下に出て出口に向かう。
薄暗い廊下をまっすぐ見ながら歩くベリー村長の顔がよく見える……。
「そういえば……」
「はい?」
「そういえば、こうして乃香村長を運ぶのは二度目になりますね」
「はい……そう、ですけど……なにか?」
「――いえ、なんでも。あ、そろそろ出口ですよ」
外から漏れてくる光が強くなり、ベリー村長の顔が照らされていく。
……いや、待て。これ、マズくない?
このまま外に出たら外にいる皆にまたあらぬ誤解されてしまう――! そんなことはつゆ知らず、村長は出口に向かってズンズン歩いていく。
「そ、村長! そろそろ、下ろしてもらって――」
「え? 脚はもういいんですか?」
「いや、まだダメなんですけど。このまま外に出るともっとダメなことがですね……」
「なにを言ってるんですか。脚が痺れているのならまだこのままでいないとダメじゃないですか。それにどんな事態が来ても大丈夫です。僕が守りますから」
そう言って、ベリー村長は私に優しい笑顔を向ける。うん、とっても頼りになる。でも…………――
違ーーーーーーうッ! そういうことじゃなーーーーーーい!!
こんな時にイケメンなセリフを言ってもらってもただのフラグだから! また変な勘違いされるフラグになるから下ろしてぇぇぇぇ!!
「違う……って、あ――」
「一体何が違うのですか――?」
私の懇願虚しく、集会所の扉は開かれ“お姫様抱っこされた愛知 乃香”が外で待機していた皆の衆目に晒される……。
一瞬、驚いた顔をした後、みんな一斉にニヤリ~、と恐ろしい笑みを浮かべる。
あ、これ、もう遅いヤツや……――――。
「ひゅう~! アツいのぉ~!! 見せつけるねぇ~!!!」
「まぁまぁ、お姫様抱っこなんて、青春ですよ! 青春!」
「ふん! こんなことじゃ先が思いやられるな――まぁ、祝ってやらんでもないが……」
外にいる皆から黄色い歓声が上がり、私の顔はみるみる真っ赤になっていく。
そして、若干一名、「嫉妬ファイヤ〜!」を燃やす女性が一人――――。
「み、みんな――これは、その違うの……ッ! ――ゲッ!?」
「あ~い~ち~の~かぁああああ!! 私のベリーさんから離れろぉををををを!!」
「ぎゃーッ!? 山形さん、これは……その…………ちがーーーーうッ!!!」
「いや〜、賑やかですねぇ〜」
襲い来る山形さんの形相はいつかの絵本で見た『山姥』にそっくりだった。
そんな彼女から私をお姫様抱っこしたまま軽快に逃げるベリー村長。
ってか、今、『私の』って言ったよね!? 違うからね!? ベリー村長は私の相棒なんだからね!
……まぁ、でも、いっか。こんな形ではあるけれど、彼女が復帰したことはこれからの村の復興には頼もしい戦力となるだろう。
もっとも、ベリー村長を渡すつもりは毛頭ないけどね!
~乃香の一言レポート~
皆さん、やっぱり胸が大きい女の子のほうがお好みなのでしょうか……?
本日のトピックは『巨乳』についてです。
まず、何を持って『巨乳』とするかですが、巨乳の定義についてはブラジャーでいうとE70以上を『巨乳』とするそうです(※鏡裕之氏の定義を引用)。
そもそも、豊満な乳房の魅力を発見したのは古代ギリシア以前に遡るそうです……。
大きな乳房は豊穣の証とし希求されましたが、しかし! 古代ローマやギリシアでは、巨乳だからといって好まれたようではないようです。古代ローマでは巨乳の女性が自分の乳房を小さくしようとした、なんて記述があるくらいです。
これ以降、ルネサンス期に入ってからはCカップくらいの美乳が好まれ……――――。
と、まぁ、乳の歴史を語っていたら本編より長くなりそうなのでこの辺で割愛させていただきますね。
「もっと詳しく知りたい!」というおっぱい愛好家の方はウィキペディアへ飛んでください。
つまり、結論としては『おっぱいへの価値観は時代や地域で様々。巨乳が良くて貧乳がダメなんてことはないのです。というか、そもそも人のおっぱい見てる暇があるなら内面を見ろや、コノヤロー!!』ということです。
皆さんで、おっぱいに対する偏見を無くして真の世界平和を実現させましょう!!
次回の更新は5月7日(月)8:30です。
お楽しみに!!




